四章 想う者たち

 コーディアたちが動き出したことなど露知らず、レイラたちはドクダの森から先へ進む準備をしていた。



 朝早く、アズラエラはマリーとポピーに呼ばれてレイラの寝室前に居た。


「お、おはようございます。マリーさん、ポピーさん」

「おはようなのです。時間通りですね」

「おはよう、アズラエラ。今日ここに呼んだのは他でもない。貴様に重大な任務を与えるためだ」

「ピャッ……あ、アズ……」


任務の説明を始めようとしたマリーは、アズラエラの様子がおかしいことに気づく。


「……どうした。まだ寝ぼけているのか?」

「あ、あああの、マリーさん、今名前で……」


 マリーに自覚は無かったが、アズラエラは初めてマリーに名前を呼んでもらえた。


それを自然に聞き流せるほど、アズラエラは人間関係に慣れてはいない。


「……呼んだことなかったっけ?」

「初めて呼んだのです」


今まで呼ばなかったことも、今呼んだことも無自覚だったマリーは、無意識な自分の心変わりに少し戸惑って頬をかいた。


「あ、あの、それで、任務っていったい……」

「あぁ、そうだったな。これは私とポピーが交代で担っていた役得……もとい、たいへん名誉な任務だ。

今日から貴様にもやってもらう。

その任務とは――殿下のお目覚め当番だ」

「お目覚め当番……?」

「お眠りの殿下を起こす」

「ヒッ姫様を起こす!?」


 カザーニア王国に限らず、この時代では寝室に異性を入れることはだとされていた。

よって純潔が重んじられる王族や貴族は、同性の従者が起床や就寝を手伝うのが慣例なのである。

「まままままマリーさん、わ、私めにそのような大役は……」

「アズラエラ!」

「ひゃい!!」

「……貴様を同志と見込んでのことだ。我らは共に殿下をお慕いし、殿下をお護りする仲間だろう」

「マリーさん……!」

「その通りなのです!ポピーたちは仲間なのです!」

「ポピーさん……!」

 3人で身を寄せ合って抱きしめ合う。

レイラに想いを寄せる者同士として認めてもらえたのだとアズラエラは実感した。

「……ちなみに、アズラエラ。寝起きの殿下は、ぞ」

「そうなのです。目が覚めたばかりのレイラ様は、のです」

「……い、良い、とは?」


抱擁を交わしたまま、小声で囁かれた情報に混乱するアズラエラの背を、マリーとポピーは優しくたたく。


「それは、起こしてみれば分かるのです」

「詳しいことはまだ言えん。その目で確かめろ」

「きっとアズラエラさんも幸せになれるのです」

「貴様にも経験させなければ不公平だからな」

「あとで感想を教えてほしいのです」

「殿下トークはいつ何時でもウェルカムだからな」

「ではでは、そろそろ時間なのです」

「行ってこい。健闘を祈ってるぞ」


 左右の耳元から畳み掛けられ、アズラエラの混乱は加速した。

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