三章 軍を率いる者

 その男の名はゴダンと言った。


カザーニア王家に諸侯が弓を引いたとき、

反乱軍の側に立って戦い、功績を上げた将の1人である。


 ゴダンは更なる功名を求めて亡命するレイラ姫の追跡及び暗殺に名乗りを挙げた。


王都から逃げるレイラ姫を追い詰めるも、

町を4つ越えたあたりで見失ってしまう。


 そんな折、探し物を必ず見つけられるという伝説の占い師の話を聞きつける。


占い師の名は探査の魔女コーディア。


探し物が何時何処に在るのかを正確に予言できるという噂だった。


 レイラ姫を逃がさないためには、この魔女の力を借りるしかない。


そう判断したゴダンはコーディアに占いを依頼した。


それに対してコーディア曰く

「金貨1枚で占ってやろうぞ」


 銅貨と銀貨同様、銀貨と金貨は現代の貨幣価値で2桁の開きがある。


銀貨10枚は当時の一兵卒の月収に近い金額なので、コーディアは占いひとつで兵役約1年分の報酬をよこせと宣ったわけである。


当然、ゴダン率いる追手部隊の兵たちは反発した。


というのも、この世界において一般的な占い師への信頼度は現代日本における天気予報程度だった。


要は"ある程度当たることが前提ではあるが、

外れても仕方のないシロモノ"である。


そんな占い師に大金を払うことに兵たちの不満が溜まるのも無理はなかった。


「隊長!魔女など雇わずとも、我々の手で探せます!」

「部隊を分けて捜索範囲を広げましょう!」


口々に抗議する兵たちを、ゴダンは制止した。


「……金貨1枚でレイラ姫を仕留められるなら、安いものだ」

「隊長!しかし……」

「諸君の言い分もわかる。だが、兵力の分散は出来ない。補給の問題があるからな。

確実にレイラ姫を探し出すには、この魔女の占いを利用するしかないのだ」


 ゴダンは兵たちの士気を下げないように気を配りながら、兵たちを言いくるめる。



言及した補給の問題もウソではないが、本当の理由はあと二つあった。


 一つは、指揮系統の問題。


追手部隊は王族に反旗を翻すべく集まった反乱軍の一部隊だが、蜂起するまでは別々の場所で兵役についていた者たちを無理やりまとめている状態である。


つまり個々の兵士として成熟していても、

軍隊としての練度は低い。


それをゴダン自身の指揮能力によって騙し騙し運用していたので、分散させては統率が取れなくなる恐れがあった。


 そしてもう一つが、近衛隊との力量差である。


亡命開始当初、レイラの護衛についた近衛騎士は10人。


ゴダンの率いる追手部隊は約500人だった。


度重なる戦闘で近衛騎士は7人まで数を減らしたが、その時点で追手部隊は150人ほど失って残り約350人。


分散して捜索に当てた隙に各個撃破されては、

一方的に数を減らされることになりかねない。


だが、この理由を説明すると兵たちが自分たちの窮状に気づいてしまう。


そうなれば部隊の維持も絶望的になる。


 なんとか兵たちを説得し、コーディアの占いを基に今際の魔女の森で待ち伏せを仕掛けた。



 それが、この物語の始まり。

反乱軍から見た森の攻防であった。

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