第34話
裏側の世界は、夜は人外の時間だ。
人間は、ほとんど出歩かない。
だから、驚くほど、星が見える。
静は、一人夜の街にいた。
昼と違って、よくわからないものが、いる。人の形はしているが、ひょろひょろで、動きもどこかぎこちない。
夜なのに、黒とわかる丸いものが転がっては消える。
街灯はあるけど、あまり明るくない。
ビルより大きい人?はビルに肘をついて夜空に浮かぶ月をみている。
静は音もなく、歩く。こういう時、いつもと違うことをするのは、よくない。
目的地はまだ先で、急ぎではあるけど、急げない。
安全地帯から抜けて、黒い布をまとう。
セフィロトツリーの人達がもたせてくれた隠蔽の魔法がかけられた布だ。
市役所を通り過ぎ、走る。
どうして、こんなことになっているのか。
理由はとてもシンプルで、六等星の葵が、他人のやらかしに、巻き込まれたのだ。
アルケミストにいた時の、同僚というから質が悪い。
事故のような物で、葵はその場にいた六花や静、優樹を庇う形で、薬液に触れてしまった。
葵の腕はそこから、結晶化を初めた。
治すためには、月光樹の葉と花が必要で、採取するには、夜の山に行くしかない。
優樹も来ようとしたけれど、無理だった。
薬液のこぼれた場所から、コ゚ーストが発生したのだ。
近くにあったセフィロトツリーの本部に逃げて、説明し、イレーヌさんから、必要なものを教えてもらい、静は速やかに、外にでた。
優樹は、コ゚ーストを相手に戦っているし、六花は葵の結晶化を止めている。
静は、うろついているコ゚ーストに目もくれず、山に来ると、山頂を目指した。
さすがに、ここまで来ると、戦闘は避けられない。
銀色の棒を刃物に変え、コ゚ーストを切り捨てながら、山を登る。
その途中、静は少女とあった。
「ちょっと、あんた…こんな時間にどうしたのよ?」
「色々ありまして、月光樹の所に行こうとしてます」
少女は目を丸くした。
「本気?」
「本気です。仲間が結晶化の薬液をかけられて、死にそうなので」
「結晶化の薬液ですって!?」
それは、昔になくなったはずだ。
「場所まで私も行くわ」
「人間と行動して大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。それより、化物はあんたがなんとかして。私、強くないの」
静は、とんでもない速度で移動している。
こちらで人間の身体能力が向上するのは知っていたが、静は人間から、逸脱しているような気がする。
切って良いもの駄目なものを、明確に見分けている。
本当に、人間なの?
じつは、あやかしだと言われても、納得する。
そして、山頂についた。
開けた場所に、月光に照らされて輝く大樹がある。
光樹と違い、光が柔らかだ。
「月光樹は、ちゃんと生きてる。失礼なことは駄目よ」
静は頷くて、木の幹に手を当てた。
ここまで来た理由と治療の為に花と葉が必要であることを伝えると、花と葉が落ちてきた。
「ありがとうございます」
きちんとお礼を伝え、花と葉を、大きめの箱に丁寧に入れ、リュックにしまう。
「君も、ありがとう」
静は、少女に頭を下げた。
「お礼を言うのは、早いわね。私は、帰りはついていけない。きっと、外界は薬液のせいで、化物だらけよ」
あれは、かけた対象を結晶化する代わりに、化物を呼び寄せる。
「わかってます。でも、なんとかなると思いますよ」
「あんたね」
「ぼくは、裏側の世界について、ほとんど知らずに育ちましたが、そのかわり、戦い方なら教えてもらいました。
殺すだけなら、なんとでもなるでしょう」
そう、殺すだけなら。ここには、自分を止めるものがいないのだから。
「あんた…守り人なの?」
人とあやかしの境界に立つ者がいると、聞いたことがあった。
表側の世界で、化物と戦い殺す者。
彼らは、あやかしの敵ではないけど、仲間でもない。
「候補だったけど、もう関係ないですね」
静は、困り顔で笑う。
「…今日は、本当にありがとう。また、いつか会ったら、話そうね」
そう言って、静は走り去った。
「本当、変な人…」
少女は、苦笑した。
下山した静は、道路を走るのではなく、崩れた民家の屋根や電柱を足場に、可能な限りショートカットして、走る。
セフィロトツリーの本部に続く橋にいた大きなコ゚ーストを綺麗に両断して、走り抜ける。
それにしても、コ゚ーストの数が多い。本部の周りはさらに多い。
セフィロトツリーの人達も頑張っているけど、押し負けそうだ。
優樹は、いなくならないコ゚ーストにうんざりしていた。
セフィロトツリーの魔女達の援護があっても、そろそろ限界だ。
上手く使えない力に、イライラしているのもあるし、静が心配で、いまいち集中できない。
それでも負けないのは、優樹の能力が高い証明でもある。
ふいに、闇が広がった。
コ゚ースト達がぴたりと止まる。
あぁ、静の力だ。
優樹の肩から、力が抜ける。
刀を自然と横に振ると、光が波のように広がって、コ゚ースト達が消えた。
「ゆうちゃん、ただいま」
「おかえり、静」
優樹の前に静がふわりと、降りて来た。
抱きしめると、ちゃんとあったかい。
優樹は、そこで意識が途切れた。
静は、優樹を支え、走って来た凪に、箱を渡した。
「渡しておいてくれる?」
「わかった」
凪は、箱を持ってイレーヌの所に走った。
「疲れた…」
静は、優樹を支えたまま、意識がきれた。
気づいたら、セフィロトツリーの医務室で、優樹が、泣きそうな顔でこちらをみている。
「…ゆうちゃん、おはよう」
「よかった…」
優樹は、静を抱きしめる。
「起きなかったら、どうしようかと、そればっかり考えてしまって」
「…考えすぎだよ」
優樹の髪に触れる。
「葵さん、どうなった?」
「助かったよ」
葵は、薬が間に合って、今は六花に看病されているらしい。
「アルケミストの人は?」
「…捕まった。結晶化の薬液は、作ってはいけない物で、葵さんに、掛けるつもりで持っていたんだって」
昔から、葵が嫌いだったから。いつか、葵が幸せになった時に、使う気でいて、今がその時と、思ったようだ。
「馬鹿じゃないの」
「本当にな…」
そんなことしても、葵の価値は下がらないのに。
目が覚めた静は、優樹と六花の所にいき、眠っている葵の無事を確認すると、六花に一度家に帰ると伝え、家に帰った。
すぐに、シャワーを浴びて、髪を乾かしていると、風呂から戻った優樹が後ろから、抱きしめてきた。
ふわりと風が吹いて、髪が乾く。
「静、寝よう」
「うん…」
二人で、布団に入って、ゆっくりと眠った。
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