『最弱勇者ですが、モンスターの心の声がうるさい件』
@cococh
第1話 「勇者に転生するも残念すぎるステータス」
——俺は、勇者に転生した。
……と、聞こえはいい。だが、現実はひどいものだった。
「おめでとうございます! あなたは選ばれし勇者として異世界に転生しました!」
金色の光の中、女神らしき存在がそう言った瞬間、俺は胸を高鳴らせた。
魔王を倒す。人々を救う。勇者。なんと響きのいい言葉だろう。
だがその後、俺が見せられたステータス画面を見て、すべてが崩れ落ちた。
⸻
【勇者:ユウト・ナガセ】
Lv:1
HP:12
MP:7
攻撃力:5
防御力:3
俊敏:2
知力:4
運:1
特性:モンスター思考読取(?)
⸻
「……女神さま、これ、バグですか?」
「いえ、仕様です♡」
悪びれもせず笑う女神。
ステータスの低さもさることながら、“?”がついてる特性ってなんだよ。
「まあまあ、きっと何かの役に立つ能力ですよ〜。がんばってくださいね♪」
そう言い残し、俺は光に包まれて地面に叩き落とされた。
⸻
「……痛っ!」
目を開けると、そこは見渡す限り草原だった。
風が気持ちいい。鳥が鳴いてる。……が、隣にいたのはスライムだった。
「ピギュ?」
ぴょこぴょこと跳ねながら俺を見上げるスライム。
普通なら可愛いものだが、次の瞬間、俺の頭に声が響いた。
『なんだコイツ。人間? うまそうだな。でも弱そうだな。いや、これは……まずそうだ。』
「喋った!?」
『え、聞こえてんの!? うわ、やばっ! 心の声聞こえてる系!?』
スライムが後ずさる。ぷるぷる震えている。
俺も震えていた。だが理由は違う。
「ま、待て! 俺もどうなってんのかわからん!」
『うわ〜、やっぱりヤバい人間だ! 逃げろ〜!』
スライムはそのままぷるんと跳ねて逃げていった。
……どうやら、これが俺の“特性”らしい。モンスターの思考が頭に直接流れ込んでくる。
最初は意味が分からなかったが、どうやらこれは“翻訳”ではなく“読心”だ。
相手の感情、警戒、食欲、時には恋愛感情までダダ漏れだ。
この能力、便利なのか……いや、どう考えても面倒くさい。
⸻
「まあ、旅立ちの村くらいあるだろ……」
とりあえず歩き出す。が、途中で草むらからガサッと音がした。
振り向くと、そこには茶色い毛むくじゃらの生物——ゴブリンがいた。
『ひゃっはー! 人間だ! 財布だ!』
「うわ、こいつ強盗思考丸出しだな!」
『なんだ聞こえてるのか!? ……チッ、逃げるか!』
ゴブリンが逃げ出そうとする。だが俺も必死だ。
拾った木の枝で突っ込んでみる。
「やあああっ!」
ポコッ。
『痛っ! ……いや、これ痛くねえな?』
「だよな!? 攻撃力5だもんな!」
『なんで自分で認めてんだよ!』
お互い呆れ合う形で、しばし沈黙。
その後、妙な流れで俺たちは“会話”を始めた。
⸻
「で、お前らゴブリンって普段なに食ってんの?」
『基本はキノコ。あとたまに旅人。』
「え、それ犯罪では?」
『いや、我々に法律はない。弱肉強食だ。』
「うわ、リアルだなあ……」
そんな他愛もない会話を続けていると、俺は妙な安心感を覚えた。
この世界では誰も俺を“弱い”とバカにしない。
いや、バカにするけど、どこか親近感があるのだ。
『お前、変なヤツだな。普通人間は俺ら見たらすぐ殺しに来るのに。』
「俺もお前も弱い者同士、仲良くしようぜ。」
『……悪くねえな。』
こうして俺は、ゴブリンの“ゴルド”と奇妙な友情を築いた。
⸻
数日後。
ゴルドと一緒に村に行こうとしたが、村人に見つかり大騒ぎになった。
「勇者様!? そのゴブリンはなんですか!」
「友達です!」
「うそをつくなーっ!」
『ひでえ! 俺友達だろ!?』
「わかってるけど今は黙っててゴルド!!」
村人たちは鍬や棒を持って押し寄せてくる。
俺は必死に説得を試みたが、聞く耳を持たない。
だがそのとき、俺の頭にまた声が響いた。
『……ユウト、後ろ。』
振り向くと、空から巨大な影が降りてきた。
漆黒の翼、燃えるような赤い瞳。
ドラゴンだった。
『……ふん、人間の村か。退屈しのぎに焼き払ってやる。』
「いやいやいや! いきなりボス級じゃねーか!」
村人たちはパニック。俺は震える。ゴルドは叫ぶ。
『逃げろユウト! こいつはマジでヤバい!』
「逃げるったって足2だぞ俺!?」
『俊敏2!? 虫以下じゃねえか!!』
「知ってるわ!!」
そんな漫才みたいなやり取りをしている間にも、ドラゴンが大きく息を吸い込む。
熱風が肌を焦がす。死が目前に迫る。
だが——そのとき。
『あーあ、また人間焼くのか。正直、これ飽きたんだよな。』
「え?」
ドラゴンの“心の声”が聞こえた。
どうやらこいつ、悪行に疲れているらしい。
「おい、ドラゴン。お前、やる気ねえだろ。」
『……ん? 人間、今、俺の考えを……?』
「お前、ほんとは平和主義なんだろ?」
『うるさい! 違う! 俺は恐怖の竜王——!』
「はいはい、ツンデレね。めんどくせぇタイプ。」
『ツ、ツンデレ!? 誰がそんな可愛い属性を!!』
混乱するドラゴン。
その一瞬のスキに、村人が矢を放つ。
偶然にもその矢がドラゴンの鼻に刺さり——
『いってええええええ!!!』
……ドラゴンは号泣した。
火を吐くどころか、空へ逃げていった。
⸻
「……勝った?」
『いや、勝ってない。勝手に逃げた。』
「まあ結果オーライだな!」
村人たちは歓声を上げ、俺を持ち上げた。
「勇者様がドラゴンを撃退したぞー!」
「え、ちがっ、俺なにも——」
「さすが勇者様!」
その日から俺は、“ドラゴン退けし勇者ユウト”と呼ばれるようになった。
だが本人は知っている。全部まぐれ、いや、誤解だ。
『お前、これからどうすんだ?』
「うーん、とりあえず旅する。なんか、この世界のモンスター、話せば案外いいやつ多いしな。」
『お前、本気でそれ言ってんのか。』
「本気だよ。」
夕陽の中、ゴルドと肩を並べて歩く。
勇者とゴブリンという奇妙な組み合わせ。
だが、俺にはこれが心地よかった。
——こうして、“最弱勇者ユウト”の、ゆるくて騒がしい冒険が始まったのだった。
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