第9話 サーシャVSカルティエ
100メニー札を2枚差し出し、サーシャは外へ出る。そこへは当然、先ほどのクレーバーという白髮の女と、名前を知らぬオレンジっぽい金髪の女が腕を組みながら待っているわけだ。当然、こちらを露骨に睨みながら。
「あーあ、ヒトが気分良く髪切ったのに」
サーシャの伸び切った金髪は、ぱっちりと揃えられていた。セミロングヘアくらいまで切り落としたのでようやくシャワーが楽になると思った矢先に、こういう面倒事に巻き込まれる。運がない。
「で? なんの罪で逮捕するんですか? 国家最高戦力のお二方は」
「とぼけるなよ」オレンジ金髪の女が言う。「アンタがイーストAsでやった狼藉は、とっくにこっちで掴んでる。クラブ『エデン』における警備員5名の無力化 。及び、うち1名の射殺。ネクサス・ファミリーとの抗争への加担。すべてアンゲルス連邦共和国法に抵触する重犯罪だ」
サーシャは一言で終わらせる。「なら……殺し合いますか」
「……舐めるなよ、ガキが」
「あまり怒ってばかりいると、小じわが増えますよ。せっかく美人なのにもったいない」
サーシャとてなにも考えず、殺し合いなんて単語を使ったわけではない。彼女たちはあくまでも政府雇われだと思われる以上、派手な戦闘を起こせば一般市民にも危害が及ぶ。いきなりマックスでの戦闘は自重するはず。
しかし、サーシャは無法者。どれだけ危害が及ぼうと、この場を切り抜けてイーストAsに戻れば良い。
となれば、やることは決まっている。
サーシャは手のひらをオレンジ金髪の女に向ける。なおもこちらを睨んでくるオレンジ金髪に、サーシャはルールを捻じ曲げることで空気の波動砲を彼女へ放つ。
一点集中された波動は、オレンジ金髪を横断歩道の向こう側まで跳ねることなく吹き飛ばした。彼女は壁にねじ込まれ、ビルの一部が瓦礫と化す。
「ってぇな……」
これくらいで倒されるタマでないのは、なんとなく分かる。ただ少しの間起き上がれないはずだ。サーシャはクレーバーを一瞥し、参戦してきそうにもないのを確認し、地面を蹴った。
街路樹をなぎ倒し、サーシャはオレンジ金髪の女に迫撃するため、なにかルールを考える。相手に攻撃する間を与えてはならない。どれくらいの実力を持っているか分からない以上は。
「そうだ」
サーシャはニヤリと笑い、空から降り注ぐ太陽光に注目した。両手を大きく開き、サーシャは太陽光に全く未知なるルールを与える。
「な、なにが……ッ?」
オレンジ金髪は、腕が焼けていくような感覚……いや、実際に焼けていることに気がつく。露出している身体━━手や首元がケロイド状に変化していき、その傷跡は雪だるま式に広がっていく。
「教えてあげると思う? 種も仕掛けもあるのに」
サーシャはそう言って、彼女を煽る。
皮膚にどんどん赤黒い腫瘍ができていく中、オレンジ金髪は一旦瓦礫から起き上がり、地面を蹴ってアニメか漫画のようにその場から遠く離れた。
「あーあ、さすが最高戦力様。もう種と仕掛けに気が付いちゃった。……いや、痛すぎて逃げざるを得なかっただけか?」
それを眺めていたクレーバーは、ボソッと呟く。
「……、太陽光の熱量のルールを変更したのか。ただの日焼けがケロイドになるまで火傷するように!」
クレーバー博士は、白衣のポケットからタブレット端末を取り出し、凄まじい速度でサーシャの能力を分析・記録していく。その虚ろな目は、今や研究対象を見つけた科学者の熱気を帯びていた。
「カルティエ! 対象の〝祝福〟は、やはりありとあらゆる法則を捻じ曲げるようだ!! もはや概念すらも塗り替えている! 〝悪魔の片鱗〟でガードするしかない!!」
サーシャは両手を前に突き出し、地面を蹴る。なぜ地面を蹴るだけで暴走車両並みの速度を出せるか、といえば、理由はただひとつ。自分の身体にかかっているルールを変えているからだ。
「言われなくても……分かってらぁ!!」
突き指するとしか思えない構え方で、サーシャが迫ってくる。カルティエは、腕をクロスさせて防御姿勢を取った。
そして、
サーシャの指に、激痛が走った。
「ちッ……。なにかの魔術か」
されど、サーシャは不敵な笑みを崩さない。少女は脳内麻薬を増大させ、痛みを感じないようにしてしまう。先ほどビルに突っ込ませたのと、太陽光の熱量変換で露出している部分へ火傷を負わせてやった。ならば、あともう一押しだ。
サーシャとカルティエは、互いに間合いを読み合う。
街はすっかり大パニックで、大量に通っていた車も、危険を察知した何者かによって通行止め状態になっていた。この場に残ってしまった運なき者たちは、悲鳴を張り上げながら逃げていく。
「治安維持しなくちゃならねぇアンタらが、こんな大騒ぎ起こして良いのか?」
「治安を乱してるのはアンタだろうが!! あぁ! 終わり次第いくらでも始末書を書いてやる! でも、そこにオマエのクビも添えてやるよ!!」
激昂しているように見えるカルティエだが、サーシャからすればそれは演技のようにも見えた。怒って冷静さを欠いているのなら、攻撃はしやすい。だが、もし冷静なのならば、むしろカウンター攻撃をくらうだろう。そのとき、サーシャは確実にやられる。先ほど、カルティエの身体が鉄かダイヤモンドみたいに固くなって、指がへし折れたことを踏まえれば、余計に次の一撃が重要になってくる。
「さて、ケリをつけようか……!!」
先に動いたのは、サーシャだった。身体を鉄のように変えられるのなら、最前の太陽光攻撃は効かないと思われる。しかし接近戦を仕掛けるのは、体格で大きく劣るサーシャにとって自殺行為。ならば、たとえ身体が鋼鉄でコーディングされたとしても、それでも通じるルールを作れば良い。
「━━このあたしに近距離戦とは、血迷ったか!?」
ここでサーシャは、地面を蹴ってカルティエに詰め寄った。当然、硬すぎるカルティエの肌にまともな攻撃が通じるはずもない。であれば、まともじゃない攻撃をすれば良いだけの話だ。
サーシャの右手が、ビリビリとイナズマらしき現象を発し始めた。
しかしカルティエも、腕をクロスして身体を守る。こうすれば、サーシャの手のひらは治せないほど割れてしまうだろう。
「……ハッ。オマエ、私がガキだからって侮っているだろ?」
サーシャは、カルティエの腕に右手がぶつかる直前に転ぶように倒れ込んだ。カルティエは怪訝そうな顔になるが、その時間が命取りになってしまった。
「どうせ〝祝福〟を受けているくせに、それを全く使っていない。〝悪魔の片鱗〟とやらがなんなのか知らねぇけど、私のクビがほしいのなら能力くらい使わないとなぁ?」
うつ伏せに倒れたサーシャは、晴れ晴れとしていた空が一気に曇り雲に包まれたのを見て、勝ちを確信する。
「雨? 一体なにを……!?」
雨雲は、雷雲へと変わった。このノースAsの空を呑み込むように。
サーシャは、雨水と雷鳴にカルティエが気をとられているうちに立ち上がり、その場から少し離れたところで、
「法による支配からは、誰も逃れられない」
電流のような現象が漂っている腕を動かし、カルティエに向けて〝雷〟を放った。
「……!?」
バチバチバチッ!! と、雷がカルティエの身体をつらぬく。身体を鉄のように固めても、自然災害には敵わない。それが自然の摂理であり、法による支配なのだ。
「さぁ……審判の時間だ」
サーシャはそう呟き、カルティエが雷撃をくらって動けなくなったのを視認することもなく、退屈げにあくびをするのだった。
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