第二話《立ち塞がる地割れ・ドラグとの出会い》

グランドロスト大森林に到着したアテナとシャルロッテ。その森の地面は無数の地割れの跡で酷く荒れていた。


アテナ「シャル?本当にここを抜けた先にダンジョンがありますの?」

シャルロッテ「わ、分かりません!それにしても地割れの跡が多いですね。これでは地面を走って通ることは難しいです!歩くのも危険ですし……」


森林に広がる地割れの跡を見つめる二人。シャルロッテの返答にアテナは溜息を吐く。アテナは辺りを見渡し森の木はまだ生きている事に気づきシャルロッテに問いかける。


アテナ「はぁ……分からないって……そうですわ!周囲の木々はまだ生きてますわね?」

シャル「木は大丈夫そうです。……ハッ!まさかアテナ様、木を切って橋にして渡る気ですか?」

アテナ「しませんわ。そんな事をしていたら日が暮れるでしょう?」


飄々とした態度で否定するアテナにシャルロッテは問う。


シャル「ええ〜?それでは一体何を?」

アテナ「シャル、これを使いますの!アテナ特製!『アイギス・チェーン』ですわ!」


アテナは自分のカバンからジャラジャラと鎖に繋がれたお手製の鉤縄(かぎなわ)をシャルロッテに見せる。


シャルロッテ「なるほど!これを木に引っ掛けて、渡るんですね?」

アテナ「その通りですわ!ただ、アイギス・チェーンはこの一本しかありませんので私はこれで行きますが……シャル、貴女はどうしますの?」

シャル「ええっ!?何でアテナ様お一人何ですか?私は!?アテナ様のお背中に乗せてくださいよぉ!」

アテナ「貴女を背中に乗せたらアイギス・チェーンでジャレるでしょう?移動中にジャレられても危険ですわ。それに貴女の鋭い爪が私の背中に食い込んでしまいますわ」

シャル「なぁー!?じゃ、ジャレませんよぉ〜!それに爪は人化(ひとか)で何とかなりますー!お怪我は絶対にさせませんから〜!」


シャルはアテナの軽口に本気で反論する。


アテナ「ふふっ。冗談ですわ〜。でも、本当にどうしましょうか?私がシャルを背負って行くのは体力的にも、周囲の状況から見てかなり危険ですわ。私一人でなら行けますのに。」

シャル「確かに危険ですね。ん?アテナ様一人だけなら!?それって私が足手纏いって事ですか?」

アテナ「ごめんなさい。そういう意味では無くて、ただ私の任務なのにシャルが付いて来るなんて思っていなかったの。貴女には屋敷のお仕事もあるでしょう?」

シャル「そうですね。グロウ様に拾われてからお屋敷のお仕事を任せられましたね。でも、私は!アテナ様専属のメイドです!這ってでも……地の果てまで!貴女に付いて行きますにゃ!」

アテナ「あらあら、頼もしいこと!」


森林の地面が割れた手前で他愛もない会話で二人は笑い合っているのだ。なんとも微笑ましい。いや、微笑ましいのか?しかし話し合いをしている場合では無く、容赦なく時間は過ぎていく。


シャル「アテナ様!もう大森林に着いてから一時間経ちますよ!ここでお話ししている場合じゃないです!」

アテナ「……そうですわね!整理するとアイギス・チェーンを木に引っ掛けても二人での移動は無理ですわ。あとは木を足場にして走る?シャルは木を蹴って移動は出来まして?」

シャル「にゃー!?無理です!無理です!!!出来るには出来ますが足が滑ったら地割れに落ちて即死ですにゃー!」

アテナ「ですわね〜。本当にどうしましょう?」


また暫く考え込むアテナとシャルロッテ。そして二人の背後から一人の男が現れ、話しかけられる。


???「ねえ、君達ココで何してるの?もしかして君達、エデンズ・グラビティの試験を受けに来たの?」


アテナとシャルロッテは背後から声に即座に反応し後ろを向く。その男の正体とは……。


アテナ「だっ、誰ですの!?えっ!?(ドラグ・エスパイア!?本物ですの?かっ、かっこいいですわ〜!)」

シャル「にゃっ!?ドラグ……エスパイア……!(全く物音も気配もしなかったにゃ。まさか私とアテナ様の背後を取るとは。)」

ドラグ「あれー?聞こえてるー?って何でボクの名前を知ってるの?猫人族の君?」

シャル「にゃ!にゃんの事ですかね?(しまった。うっかり口を滑らせてしまいました。)」


シャルロッテはオロオロしながら口に出してしまった事を否定する。


ドラグ「まあいーや。それよりココ通れなくて困ってる感じ?」


ドラグの問いかけに対してハッとするアテナ。

アテナ「ええ、そうなんですの!私達、そのどうしたら良いか分からなくて〜(かっこいいですわ〜!)」


アテナの声は自然と高くなっていた、なぜなら既にドラグに惚れているから。そう!一目惚れである!

ドラグの質問に対してシャルロッテが質問返しをする。


シャル「……どうすれば良いですかね?竜人さん、貴方ならどうしますか?(ドラグはターゲット!ここは、穏便に質問しましょう。というか、アテナ様の様子がおかしいような?)」

ドラグ「うーん、そうだなー。ボクだったら《竜化》する。竜に変化(へんげ)して空を飛んで行くかな。」

アテナ「貴方、竜に変化出来ますの!?」


食い気味でドラグに聞くアテナ。

少し困惑した顔でドラグは答える。


ドラグ「う、うん。ボクは竜人族だからねー。人間と竜に変化出来るんだ」

シャル「私と同じようなものですね。私は人間と猫に変化出来ます!」

アテナ「私は人間ですわ!(キャー!ドラグ様かっこいいー!)」

ドラグ「そうなんだね。じゃあ、ボクが竜化して君達を背中に乗せて飛んで行こうか?そうすれば"二人とも"間に合うし、試験を受けられるよ!」


サラッととんでもない提案をするドラグ。

ドラグはアテナのターゲット。しかし彼女は任務の事などとうに忘れていた。いや、忘れていたというよりターゲットのドラグを恋の攻略対象として見ていた。アテナは即答でドラグの提案に乗る。


アテナ「さ……賛成ですわ!(ドラグ様のお背中に乗れますわ〜!)」

シャル「なるほど、良い提案ですね!(アテナ様は目の前にいるのがターゲットのドラグって分かってるんですよね?ね!?)」


シャルロッテはアテナの変わりように驚き、内心でアテナにツッコミを入れる。そしてドラグの提案に乗った。


ドラグ「じゃあ決まり!《竜化》!!」


ボフンッ!ドラグは二人から少し離れ土煙を上げ己の肉体を竜へと変化させのだった。

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