第12話 居場所がない


「えー? この席よすぎじゃない?」

「ちょっと前寄りなとこくらいか、気になんの」

「いや後ろは逆に目立つって説あるから、ちょうどいいくらいかもよ?」


 みんなが席を移動し終えてガヤガヤしている教室の中で、高瀬たかせさんと小堀こぼりくんが話している。


 2人の話を聞きながら、僕はそろりと立ち上がり、こっちを見てニヤニヤしてる坂本さかもとくんの席へ向かった。


「いやー……お前ツイてないなぁ~」

「面白そうに言わないでよ」


 軽く睨みつけると、坂本くんは声をひそめて僕の席の方に目をやる。


「だってお前、隣が高瀬で前が熱莉ほとぼり、斜め前に小堀だぜ? あっという間にお前の居場所はなくなるぜ、あそこに」


 僕もちらりと後ろを見る。

 するとさっそく、小堀くんと仲のいい男子が僕の席に座っていた。


「ほらな?」

「一瞬で……。まぁ、それ考えたら坂本くんが反対側なのは不幸中の幸いって説が……ある、のかなぁ」

「2人揃って居場所奪われるよりはってか? 別に廊下でいいだろ。じゃあ」


 どうせ授業が始まればみんな席に戻らなくちゃいけないんだから、たしかにそうかもしれないけど。

 

 こういうとき、友達が風邪で休んだりすると辛い。

 自分の机に陽キャがいて席に戻れず、1人廊下やトイレを行ったり来たりする羽目になる。


 まぁ、そのときは久瀬くぜさんのところにでも行こうかな……いやでもさすがに学年違うし、その方が気まずいか……。


「まーでも、ちょっと羨ましいとこはあるけどな?」

「……どこが?」


 馬鹿にしてるのかと思って目を細めると、坂本くんは肩をすくめながら小さな声を出す。


「熱莉も高瀬もめっちゃ可愛いじゃん」

「……まぁ、たしかにね?」


 絹のようなとか、そういう表現をラノベだったらされそうな長い金髪。

 大きくくりっとした琥珀色の瞳。

 

 同年代の女子より少し高い背に、細くすらりと伸びる手足。

 幼馴染の贔屓目を抜きにしたって、安奈は可愛い。


 一緒にいる高瀬さんもそうだ。


 青みがかった黒髪に淡く綺麗な水色の瞳。

 テンション低めな安奈と違い、元気で明るくふわふわした印象を与える言動。


 安奈とは正反対なところもあるけど、その分違った層から人気らしい。


「クラス1、2位の美少女の近くで、同じ班なんだぜ? そこは羨ましいだろ。男としては」

「……もしかしてそういうやっかみが増える可能性もある?」

「その辺は小堀に向くんじゃね? 誰もお前みたいな地味なオタクにそんなことで絡もうとしないでしょ」

「僕の不安を払拭しようとしてるんだよね?」

「もちろん」


 その割には言葉が強い気がしたけど、事実ではあるからこれ以上は言及しない。


 ちなみに小堀くんはサッカー部所属で黒髪短髪、顔立ちは整ってる方でいかにもヤンチャしてる男子というか陽キャというか、とにかく僕らオタクとは波長の合わない人種だ。


「はー……気が重いよ」

「ま、頑張れ。俺はここから高みの見物してっからさ」


 再び坂本くんがニヤニヤしだしたところで予鈴が鳴る。

 僕は溜息をつきながら自分の席に戻るしかなかった。

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