エピローグ

 黒原カジツはあれ以来引きこもりになっている。

 自分の考えが正しかったり差別とかいじめとかそういうのをしていないと思っていたが、俺の事を一切先生と呼ばなかった事を指摘されて心が壊れた。自分達が正義の味方、そう思った時点で既に堕落している証だと鯨六さんは言っていた。


「上原先生、どうでしょうか?このまま数学の教師になっていただいてはくれませんか?」


「いえ、自分はオカルト課の人間ですので」


「お給料の方もしっかりと」


「…………水堂輪駆と黒原カジツの事ですね?」


「っ……はい……」


 本来であればこの学校は非常勤の講師を雇わなくてもよかった。

 仮に雇ったとしても教えるのが難しい英語で、英語を母国語にしている国から日本に移住した外国人を雇うぐらいだろう。それなのにも関わらず、水堂輪駆を雇った。経済的な余裕はあったからそこは問題は無い。


「10年かけて築き上げた学校のブランド力が……」


 丸坊主になった黒原カジツと水堂輪駆……同じ日に丸坊主になってやって来た。

 なにかしらの不祥事を起こしたのだと考えるのが妥当なところで噂を色々と言う歳頃……年齢は関係無いか。ともかく、水堂輪駆のせいで10年かけて作り上げた因涼女子中学のブランド力が失墜した。

 水堂輪駆、もといリンクに対しては2億円と言う生涯年収を要求した。理事長の40を過ぎているおじさんの年齢で……税金を除いても2億円という大金が手に入るので余計な事をしなければ余裕で生きていけるだろう……そういう問題ではないと言えばそういう問題ではないのだが。


「申し訳ありませんが自分は教員免許を持っていないです、更に言えば自分は学校というものが大嫌いです……教師という職業は無くなればいいのだと思っているぐらいに」


「そ、そんなにですか?…………何故です?」


「見ての通りこの様な容姿で……今でこそ改名をしていますがキラキラネームでした。そのせいで小学生の頃は虐められていました……自分が小学生の頃は学生自殺全盛期でした」


「っ!!」


 学生自殺全盛期、それはSNS等がまだそこまで未発達だった頃の時代、スマホが出始めた頃の時代のこと。

 教師がイジメを見逃した。加担した。イジメられる方が悪いという考えを持っていた。イジメが起きることでクラスが団結力を持っている。ホントに手遅れなクズな教師やクズな教育方針があった。イジメを隠そうとした。そんな物は無いという考えがあった。

 俺もこの容姿、そして当時はキラキラネームだったので普通にイジメられていた……学校側は対応しないどころか、いじめっ子と仲良くしようね!の教育方針を向けておりそれに関して本当に怒った。


「学校に対していじめっ子に対して復讐をしました……貴方が教育者ならばあの暗黒の時代の子供達の悲鳴を知っているでしょう?」


「それは…………」


「俺は学校に行くのが本気で嫌になった。どうして自分が貧乏くじを引かないといけないのか嫌になった。そして運動会を休んだ、いや、サボった……その結果、俺をイジメていた奴はクラスで俺にイジメをしてこないどころか一緒に遊んでくれる善人の化身の様な奴のズボンの中に百足を入れた。休み明けにそのことを聞いて理解しましたよ……仲良く出来る人は仲良く出来るが無理な奴は無理、親と言う基本的には逆らえない筈の存在がどんなに言葉を投げかけても文字通り痛い目に遭っても意味は無い……そしてあの男が現れた」


「…………下里星の王子様しもさとほしのおうじさまか……」


 下里星の王子様……学生自殺全盛期を終わらせた男だ。

 学校側がもみ消そうとしたイジメの証拠をもみ消すことが出来ないように動画投稿サイトに幾つも配信をした。

 当時はまだ動画配信者の概念が無く、更にはキラキラネームの概念も無かった。下里星の王子様は自殺を考えており、それを行う前にクソみたいな学校と日本の教育と頭おかしい親を地獄に突き落としてやろうと考えて復讐を行った。

 それを見たいじめられっ子達は動画編集技術を学び、動画投稿サイトに多くのいじめの証拠を出した。


「俺も当時の動画投稿者の1人でした……下里星の王子様を見て……自分以外にも同じ目に遭っている人が多く居た。そのせいで学校というものを心底嫌いになった。教師というものを軽蔑した。自分にクソみたいな名前をつけた祖父を憎んだ」


「……耳の痛い話です……それでも尚、いじめは続いていますから……」


「友達100人出来るかなと歌詞がありますが、そんなに要らない。職場で愚痴を零せる相手と年に数回飲みに行く友達数人居ればそれで充分です」


 俺が受け持ったクラスが受けた数学の中間テストが平均点を80点以上を叩き出した。

 受け持っていないクラスは平均が約60点と20点以上の差を開いており、理事長からすればテストで点を取ることが出来る生徒を増やしたいという思いがあるだろう。俺は因涼女子中学の非常勤講師としての最後の事務処理を終える。


「理事長、貴方は被害者だ……だが、ソフト王国王子のリンクの不祥事はもう裁判で終わらせた。この学校のブランド力を傷つけた罪は重く2億という大金を貴方は手にした……その2億を学校を復興する為のお金にすればいいんです」


「……そうですか……残念です……その、魔法とかで学校の生徒の記憶を消したりは……」


「出来るか出来ないかで言えば可能ですが、既に言霊の呪術が発動しています」


「言霊の呪術?」


「噂に尾ヒレはヒレがついている、無理矢理記憶を操作した場合はその呪術の素になっている呪力が暴走し更に良くない噂などが広まります」


 もっとも、ちゃんと呪術が使える人間は言霊の呪術の呪力を吸い取って力に変える。

 オカルト課がもう少し協力すれば記憶操作は可能だが、記憶操作はあまりしてはいけない……非常に厄介な事だ。神秘異能協会は神秘の秘匿で記憶操作をし、本来あった記憶から生まれている言霊の呪術から生まれる悪霊を討伐するインチキ霊媒師をしたりしている……クソだな。


「あ、上原先生……」


「今日で最後だからな……まぁ、なんだ……無事でなによりだ」


「黒原さんは……結局……」


「精神科に通っている……勿論その費用はソフト王国持ちだ」


 最後だからと生徒会室に向かえば未来月に挨拶をする。

 未来月は裁判以来、黒原を見ていない……黒原カジツは精神科に通っている……強い力を持ってしまった。特別な力を持ってしまった。それで命を奪う仕事をした。それが罪に問われるかはまだ分からない。ゴキブリの様に殺しても罪に問われない存在だったで終わるかもしれない。


「黒原は返ってこない可能性が高いしあったとしても、その頃にはお前はもう高校生だ……だから前に進め……」


「……そうね……そうですね……もし、上原先生が居なかったらプ◯キュアみたいな日々を送っていたのかしら?」


「やめておけ、それで破滅した人間は多くいる……楽しい高校生生活を祈っている」


 俺はそう言い因涼女子中学校を出た。

 因涼女子中学校を出て近くにある神社からオカルト課に最も近い神社に転移魔法で転移した……これで文字通り今回の一件は終わった……筈だ……。


「ソフト王国の王子リンクの魔法少女勧誘罪についてはこれでオカルト課の対応は終わりです」


 報告書を纏め、オカルト課の課長である龍一課長に報告をし報告書を提出した。

 今回の一件でオカルト課の関与はコレで終わりだ、今頃は異世界のお宝や伝説の宝具を鑑定する幻想鑑定士の二狼さんがソフト王国に乗り込んで金銭的な価値があるものを差し押さえしているところだろう。


「いや〜……………この業界、マジでロクでもないね……」


「そもそもで俺達が介入しないというのは?」


「いや、そこで死んだら元も子もないからね?その辺忘れたらダメだからね?……子供は特例を作ろうと必死だけど皆が決めた基準を弄くったら基準の意味無いから……マジでなんの物差しって話だから……まぁ、オカルト課はこれで今回の一件の関わり合いは終了」


 龍一課長は報告書に印鑑を押した。今回の一件はこれで終了、これ以上はなにもしないし関与しない。

 税務署とかそういうのが色々と動いたりしているがオカルト課はホントに関わりを持たないようにする。


「にしても驚いたよ、上原の能力は」


「そうでしょうか?」


 俺は負の感情が入っていない純粋な闇を出すことが出来る。

 闇属性の術、陰と陽で言うところの陰の術は非常に扱いが難しく精神を汚染される可能性が非常に高く完成してもマイナスな力が入っている。しかし俺は負の感情等を使わずに純粋な闇を扱うことが出来て色々と調べた結果、呪いのアイテム等を呪われずに呪いを受ける事で得られる対価を貰える、世界や神などの超常的な存在等と契約して対価を支払わないと得られない力を対価の支払いをせずに手に入れれる。


「マイナスな力をマイナスな動力無しで使える、契約を踏み倒して使える……呪いの指輪とか色々とあるからそいつを今度渡す……いや、チートだ」


「龍一課長の方がチートですよ」


「いや、俺のは精神を汚染する可能性が高いからさ……………………」


「どうかしました?」


「…………このナナシノゴンベエって、誰なんだろうな?」


「……誰でしょうね……」


 アル大臣に対してなにかしらの進言を、アドバイスをしていた。

 元々は命の盃を狙っていた、その上でこちらの世界をも侵攻しようと企てていた。しかしナナシノゴンベエと言う男にアドバイスを受けて命の盃の破壊、ソフト王国をソフト共和国へと政治体制を変える……そして近い将来にソフト共和国と言う国としてこちらの世界に対して堂々と大々的にコンタクトを取ってくる。比較的に治安が良く受け入れてくれる日本にソフト共和国の大統領として国会議事堂を襲撃し、多少強引なものの異世界の存在証明等をしソフト共和国と言う国をこちらの世界に認知させる。凶悪な目的だ。


「分かることは1つ、アル大臣とは明らかに手口が違います」


 アル大臣は命の盃を!とニチアサキッズタイムみたいな感じだった……きっと何もしなければ知らなければプリキュアみたいな展開になっていただろう。だが、このアル大臣にアドバイスを送ったナナシノゴンベエと言う男は明らかに手口が違う。ニチアサキッズタイムみたいな事をしない、結果的にそうなることはなかったものの、そうなった場合は……異世界と貿易や外交等をしなければならない。


「アル大臣にアドバイスを送ったナナシノゴンベエについてはソフト王国側もなにも知らない……オカルト課に対してよく思わない神秘異能協会の刺客、ですかね?」


「日本に対して外患誘致な事をしたらどの派閥も問答無用で裁かれる……八百万の神様にね……………………」


「どうしました?」


 ナナシノゴンベエについて色々と考えている。

 なにかしらの心当たりがあるのならば情報を独占せずに教えてほしい。


「……いや……捕まえればわかることだな……」


 心当たりがあるようなのだが飲み込んだ……なにか心当たりがあるのか

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