お前を玩具常識改変罪で逮捕する!

プロローグ


「はい、ダメ!こいつもダメ!こいつもダメ!こいつもダメ!」


 6月、梅雨入りの時期である。オカルト課課長こと龍一課長はハンコを押している。不採用!と刻まれているハンコである。

 オカルト課に所属したい!と言う人達を採用か不採用かのハンコであり、かれこれ30分ぐらい不採用のハンコを押している。


「オカルト課って、どういう風に入るのですか?」


 俺は国防省の人間になってから上司に恵比寿様からの推薦があったのでオカルト課にどういう風に入るのかが分からない。


「まぁ、幾つかのルートはある。1つはこの前の伝説のミックスジュース作るプリ◯ュア的な事件に巻き込まれ、他にもその一例があるから戦うんだ!って立ち上がる。ただしこの業界は基本的にはロクでもないから余程の奴じゃないと来ない。事件の過程で色々と法律を犯して強制的にオカルト課及びオカルト課の後方支援組織に所属の人生が決まった奴は何人かはいる。そいつら以外に事件後にオカルト課に所属したいって言ってる奴も3人ほど居てロクでもない現実を見せつけられたから退職した。その3人は今は一般人に戻ってる」


 素朴な疑問をぶつけたので向かいの席で事務処理をしている黒代さんが答えてくれる。

 やっぱりロクでもない業界なのだなと思い知らされる。


「1つは推薦を貰う、官僚なんかの国家公務員や弁護士なんかになって政府の偉い人の目に入って才能があるかを恵比寿が確認する。コレはお前が該当する。これに関しては退職者は0、才能の有無の前に人間性とかそういうのがあんまり問題無いと判断されてるから辞めた奴は居ない……が、採用試験の過程で不採用になる奴は物凄く多い」


「多いのですか?」


「この業界は才能と運命力が物を言うところがある。一般人の家系だが物凄い才能があった、伝説の武器に選ばれた、そういう先天性のある奴じゃないと何処かの段階で詰む……流石に死人を出すわけにはいかねえから間引く」


「こう、その道のスペシャリスト達が才能0な人間を育成する史上最強の弟子的なのは?」


「そこに行ける時点でそいつの運命力は普通じゃない。そしてその道のスペシャリスト達は弟子を自分と同じ達人になる為に過酷すぎる特訓をする。その特訓で弟子が死んだ、割とよく聞く話だ」


 冷静になって考えてみれば素手で岩を破壊できる人間になれるようになる特訓をするのだからその過程で死ぬのもありえるのか。


「そしてそういう奴の大半は努力すれば結果は現れる!の綺麗事をほざく。自分自身が生まれながらにして天性の才能を持っている事を自覚すらしていない」


「そういうのは後から来るものでは?」


「あのな……オレも25年以上生きてるけどよ、努力を一切せずに上澄みも上澄みな人間になったって聞いたことねえぞ?努力を一切せずに何かの世界大会に出て金メダルを取れたなんて聞いたことが無い。努力はするものじゃない、して当たり前で効率を如何にして良くする事がホントの努力だ。鯨六の奴はそれを理解しているからあの学校を作った……」


「あの学校って……」


「そこは気にするな」


 やはりと言うべきかこのオカルト課は緩いところは緩いが色々と厳しい現実を普通に突きつけてくる。

 才能の様な先天性の様な物を重視している……だが、それは否定出来ない、いや、しない。

 才能と言っても色々とある。スポーツの世界では体が大きいのは才能の一種だ。しかし大きい胸が邪魔で動けないからと胸を小さくする手術を受けた女性のプロアスリートがいる。走るのが得意と言っても長距離走は得意でも短距離走は苦手、そういう人は普通にいる。だからこの仕事、オカルト課に向いている才能があるかどうかの確認をし、採用をする。


「1つはたまにオカルト課に就職しないか?ってこの業界で求人を出す」


「……普通、そういうのって9月から12月にかけてからとかじゃないのですか。人員不足なのは分かりますが」


「会社の社員になったけどもブラック企業だった、上司との人間関係が嫌になった、お金が無いから3カ月だけは務めて給料を蓄えてから辞表を出した。そういう奴は6月に結構居るから狙い時だ」


 そこは一般社会と同じなのか。

 とりあえず3ヶ月ぐらいで会社を辞めるは割とよく聞く話だ……最近だとGWの連休で仕事に行きたくなくなると言う理由で退職するのが多いらしいが。


「でも、先ほどから不採用のハンコしか押してませんね」


「そりゃそうだ。不採用な奴等はオカルト課には不要な存在だからだ」


「……黄金の夜明け団所属……コレはイギリスの有名な魔法等の神秘的な術を扱う団体ですね……何故不採用なのですか?」


 龍一課長が不採用!不採用!とハンコを押しまくっている履歴書をチラリと見る。

 一般的な履歴書に加えて神秘の異能や技能の情報を記載している職務経歴書ならぬ神秘異能経歴書なのが入っている。一番真上にある履歴書、外国の人だが黄金の夜明け団と言う立派な組織に所属している。


「いやいやいや、あのね上原……送る部署が違う。オカルト課はオカルト案件の仕事をするけども、色々と部署が違うから。猿七みたいに法律を扱う部署もあれば鯨六みたいに学校と言う1つの社会運営の部署もあれば十螂みたいな異世界への営業担当もあるんだよ」


「つまり、能力と仕事内容が噛み合っていないと?」


「そうだよ。まぁ、確かにこの不採用の黄金の夜明け団所属の良いところのお嬢様は魔法使いとして優秀だ。でも、それだけだ。多分、何かあったら自分で魔法を使って解決しようって考える。それはダメだからね」


「…………?」


 何かあったら魔法を使って解決しようというのはこの業界的には普通なのではないのか?

 龍一課長の言っていることが意味が分からない。そう思っていると黒代さんが分かりやすく教えてくれた。


「龍一課長、それじゃ分かりづらい……上原、漫画とかでよくあるだろ。主人公は特別もしくは物凄く力を持っている。剣と魔法のファンタジーな世界観ならばそれを惜しげなく発揮出来る。しかしここは現代の地球の日本、それを発揮する機会は早々に無い。そしてオカルト課は国防省の1つの部署だ。社会人としての報告・連絡・相談の報連相は当然大事だ。便利な力を持っている奴は滅多なことじゃない何かがあれば自分の独断でその便利な力を行使して問題を処理する。そしてその事に関して特に大きな事件じゃないし自分から見れば些細な問題だったから勝手に力を使って勝手に解決した事を一切報連相しない。便利な力を持つが故に誰かに頼る、法律や常識の力を頼るなんて事をしない。自分やその周りだけで勝手に解決云々をする。周りに1から10まで全てを報告しろとは言わない。だが、便利な力を持つが故になんかこのままだと問題になりそう。まぁ、問題が起きてもオレが最終的に解決(物理または論破)すればいいだろうな思想を持った奴は要らねえんだよ」


「なるほど……要するに揉める前にちゃんと間に入れる奴をと」


「そうそうそんな感じ。昔、課長は出張で神秘異能協会の息がガッツリ掛かった学校に行ったことがあるけどスゲえ酷かったよ。ちょっと問題を起こすのに神秘の力に頼るしキレたら暴走するし」


 なんというか……ちゃんとした採用基準があるのだな。人間性がしっかりしているとかそういうのが。と言うかロクでもないな。

 しかし、履歴書から見る感じかなり優秀な人に見えるのだが。


「問題が起きる前に問題の事案や問題になりかねない事案の解決及び再発防止。オカルト課の仕事内容的に言えば事件が起きてから解決しないといけないけど、基本的には大きすぎる事件に発展する前に処理するのが大事だからね……後、戦闘能力だけを買われてオカルト課の課長になったからスゴい魔法使って相手を倒せますとか言われてもね……」


「戦闘能力もいいが事務処理能力も高めてくれ。その不採用の奴等にお祈りメールを送るのオレなんだから……たま〜に、なんで採用されないんだよ!!ってキレた奴から呪術飛んでくんだぞ」


「黒代さん、お疲れ様です……近くのコンビニで使える缶コーヒーの引換券がありますから奢りますよ」


「後、30分で午後の休憩だからそん時に買いに行ってくれ……」


「黒代、不採用のハンコ押すだけなの辛いからテレビつけていい?」


「どうぞご自由に」


 社会人は大変だなと思いながらも事務仕事をする。途中で話が脱線したのでオカルト課に所属する他のルートは聞けないがあまり雑談にのみ集中しては本来の業務である事務仕事が手につかなくなるので聞かない。

 龍一課長はテレビのリモコンを手に取りテレビの電源をつけた。時間帯的にお昼のバラエティ番組かワイドショーが映るだろう。


『政府は高校の専門学科に新たにスピリットモンスターズ科の設立を検討中とのこと』


「最近はeスポーツが出来る普通の高校が増えてるって聞くけど遂にeスポーツ科が出来るのか」


「龍一課長、テレビに意識集中するなら消せ……」


 流れていたワイドショーを見て仕事が手につかない龍一課長を見て黒代さんは注意する。

 龍一課長は注意されたので直ぐに履歴書の確認からの不採用のハンコを押す。俺も黒代さんもオカルト課に届いている色々な部署からの情報等を確認し、1つずつ処理しあっという間に午後休憩の時間になった。


「缶コーヒー買ってきますね」


「あ、上原。ついでにポテチ買ってきて。うすしお味で。メーカーは何処でもいいけど一番安いので」


「わかりました……黒代さんはコーヒー以外になにか?」


「オレはコーヒーだけでいい」


 午後休憩の時間になったので黒代さんの労いの為にもと缶コーヒーを買ってくる。

 近くにある大手のコンビニで売っている大手の缶コーヒーを手にし、財布から引換券を取り出した。


「やはりコンビニ価格は高いな……」


 一番安いのを買ってきてくれと頼まれたが、そこはコンビニ価格。スーパーで買うよりも20円以上高い。

 うすしお味指定だったので出来るだけ安いのを買おうと値段を確認していれば、在庫処分のセールス品にうすしお味のポテトチップスが置いてあった。


「お会計189円です」


 メーカー指定は特にされていないのでとりあえずそのポテチと黒代さんの缶コーヒーと自分の缶コーヒーを買う。


「63円ってめっちゃ安いな……1円玉ないから65円で」


「両替しましょうか?」


「お前をパシらせた手間賃2円だ」


 買い物を終えたのでオカルト課に戻ればレシートを龍一課長に見せる。

 セールス品のポテチが63円な事に驚きながらも財布を取り出したが1円玉が無いので65円を渡してくれる。


「ポテチはやっぱりうすしお味ぃ〜……ん?なんか付いてる?」


 ポテチが手に入ったので早速食べようとする龍一課長だったがポテチに何かついている事に気付く。


「そのポテチはカードのおまけ付きのポテチです」


「プロ野球チップス的なのね……えっと……スピリットチップスね」


 買ってきたポテチはカードのおまけ付きのポテチだと言えば龍一課長はレシートを見る。

 スピリットチップス、聞いたことがないポテチでおまけで付いているカードは先ほど龍一課長がチラリとテレビで見ていたスピリットモンスターズで使えるカードだ。なにが入っているかはお楽しみでホントになにが入っているかは分からない。


「1枚、カードがあったって公式戦とかそういうのに出来ねえんだから要らねえわ」


「あ、じゃあオレにくれ。レアカードなら売れるかも」


「いやいや、ここはこのポテチ買ってきた上原の物でしょう」


「別にスピリットモンスターズをやっていないので黒代さんに………………………」


「どったの?」


 中に入っているカードはレアカードかもしれない、そのかもしれないだけで射幸心は煽れる。それだけで面白い。

 だが、オレはスピリットモンスターズをやっていない。例えそれがレアカードだとしても売りに行くのは手間がかかるし黒代さんに譲ろうと思った。それなのに、何故か俺は無性にこの中身が全く分からない、ルールすらも知らないスピリットモンスターズのカードが入っているおまけの袋を無性に開けたいと言う思いが溢れてきた。


「……くだ、さい」


「あ、うん。どうぞ」


 理由は分からない。でも、このおまけのカードが欲しい。

 龍一課長にくださいと言えばおまけのカードが入っている袋を渡してくれたので俺はハサミを使って袋を開いた。


「【無限の暴食魔人 ソウルイーター】……え〜っと、どういうカードだ?」


 中に入っていたカードは【無限の暴食魔人 ソウルイーター】

 スピリットモンスターズのルールをこの3人は誰も知らないのでそのカードの正しい価値がよく分からない。午後休憩はまだ続いているので黒代さんがスマホを取り出してカード名で検索をした。


「……?」


「出てこないね……スピリットモンスターズって追加したら?」


「ああ」


 どういうカードでどういう組み合わせが最適とかどれくらいのレアカードなのかの確認の為に検索したがなにも出なかった。

 ソウルイーターと名のつく漫画のキャラ等が出てきたので龍一課長が検索の際にスピリットモンスターズを追加したらというので追加した……が、出てこなかった。


「え、なんで出てこないの!?」


「………まさか……いや、まさか……………………」


 龍一課長が検索しても出てこないことに驚いていれば黒代さんが何かに気付く。

 なんだと思えば【無限の暴食魔人 ソウルイーター】を検索から外し、スピリットモンスターズだけを検索すれば先ほどチラリとテレビで見た日本初のスピリットモンスターズ科の高校の設立の記事が出てきた。


「……上原、そのカードを貸せ」


「え?」


 【無限の暴食魔人 ソウルイーター】のカード、そしてカードが入っていた袋を切ったハサミを黒代さんは手にし……カードを切断しようとしたが何かに弾かれた…………っ!?


「なんだ……なにか、なにかがおかしい!?」


「早く目を覚ませ!!でなきゃ手遅れになる!!」


「え、コレってもしかしてアレな感じ!?」


 黒代さんがカードを切ろうとして切らないで!と思う自分となにしてんだ?と思う自分の2つの感情が出てきた。

 それは自分の感情な筈なのに不思議な違和感を感じており、なにかに弾かれた黒代さんは【無限の暴食魔人 ソウルイーター】のカードを睨みつけ、龍一課長はなにかに気付いた。


「コイツは……玩具常識改変罪に問われる案件だ……」


 黒代さんがそう呟き新しい事件がオカルト課に巻き起こった。ただの事件でなく、ある意味世界を巻き込む大事件が。

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