異世界救って帰ってきたら、ヤンデレ聖女が現実まで追ってきたんだが、元カノと修羅場は勘弁してくれ!
とくとろ
プロローグ 『修羅場』
「どういうことか説明して」
彼女の言葉に部屋の空気が一気に凍りつく。
メラメラと燃える気迫が俺の元カノ―七瀬ゆかりの背後に見えた。
この緊張感、魔王城に足を踏み入れた時以来、2年ぶり2回目だ。
「どういうことも何もただ私がついて来ただけですよ?ね~タクヤさん」
対して、隣のおバカ聖女はのほほんとした表情で佇んでいる。
あ、こいつ腕絡めてきやがった。
「エリーさん?今くっついてきたら火に油を―」
「何目の前で浮気してんのよ!バカじゃないの?」
俺に抱き着いてきたエリーを引きはがし、ゆかりは叫んだ。
ほら!言わんこっちゃない、ゆかりのボルテージ上がってんじゃん!
「浮気?あれれ、おっかしいな~。私、タクヤさんから彼女とは別れたって聞いたんですけど。違うですか?」
エリーもやめて?それ煽ってるようにしか聞こえない!
「そ、それは……」
ゆかりの語気が弱まった。
やばい。エリーが不吉な笑みを浮かべてる。
「あ、もしかしてゆかりさん未練があるんですか?も~駄目ですよ。一回自分で振ったんですから諦めないと」
「………くっ」
一瞬、ゆかりと目が合った。
どこか重たく悲しい色に言葉が詰まる。
「重たい女だって思われちゃうよ?元カノさん」
『重たい、元カノ』その単語にゆかりの肩がピクリと震える。
刹那、目に生気が戻った。
「それを言ったらアンタもそうでしょう?!他の世界からわざわざ追いかけて来て!しかも拓也に何回も振られてるってもう知ってるからね!」
「なっ!それ誰から?!」
「拓也」
「タクヤさん?!」
エリーがひるんだのを見て、ゆかりが一歩前に出る。
ここに、胸が寂しいから迫力がないなんてツッコミは必要ない。
「残念でしたー。拓也はね、一回私を選んでるの。あなたはまだ選ばれてもない。スタート地点にも立ててないなんて哀れね!」
「あわ、あわ、哀れって!今時哀れなんて使いませんよ!」
「この世界に来たばっかりでなんで今時がわかんのよ」
「私の世界の話です!」
論点すり替わってるよってツッコミたいが口を噤む。
ここで口をはさんでも絶対相手にしてもらえないのは分かっているのでね。
俺に出来るのは、静観、それだけだ。
「そもそも!私が拓也のお母さんから一緒に住んでってお願いされたの!だからこうやって大学の近くに同棲できる部屋を借りてるんじゃない」
「残念でしたー。私は前の世界でタクヤさんとずっと一緒にいるって約束してるんです~」
「は?拓也、どういうことか説明して」
ゆかりの敵意が俺に向けられた。
俺、静観も出来ないのかよ。
「いや、それは戦争中で状況が違うというか。そうしないと聖女にならないって言うからしょうがなくというか」
「え、あの約束しょうがなくだったの……?」
俺の言葉に今度はエリーの目が曇った。
いや、曇るという表現じゃ足りない、完全に光が無くなっている。
「いやそれは言葉の綾というか!」
「残念だったわね!やっぱりスタートラインにも立ててなかったじゃない!」
対照的にゆかりは目をキラキラ光らせ煽っている。
容赦ないじゃん……俺の元カノ、魔王よりヤバいかも。
「…………」
エリーは、ゆかりの煽りを聞いていないのか目を合わせようとしない。
「なによ、もう反論できなくなった?それならとっとと自分の世界に帰りなさい」
「……………」
意識ここにあらずといった様子のエリーに一瞬、あの時の記憶がよみがえる。冷や汗が背中を伝った。
「エリー?どうした?」
「………おかしい」
「「え?」」
先ほどまでとは違う、冷たく透き通った声。ただその声色には確実に狂気が紛れていた。
「おかしいおかしいおかしいおかしい。私はタクヤさんに選ばれてずっと一緒にいるはずなのに、こんな状況有っちゃダメ、ダメダメダメ……そうだ全部燃やしてしまえばいいんだ。燃やそう燃やしてしまえ」
やばい!目のハイライトが完全になくなってる!
こいつ、この世界で魔法使う気だ。
「エリー、それは駄目だ!落ち着いてくれ!」
エリーの腕を引っ張りこちらに抱き寄せ、耳元で呼びかける。
目が合った。これならまだ間に合う。
「ちょ、なに抱き着いてんのよ!離れなさいよ!」
あーもうゆかり!今それどころじゃないんだよ!
異世界救って帰ってきたら、ヤンデレ聖女が現実まで追いかけてんだが、元カノと修羅場は勘弁してくれ!
【あとがき】
読んで頂きありがとうございます。
次話から本編スタートです。
毎日更新の予定ですので、少しでも気になったら、フォロー&★をよろしくお願いします!
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