32.お色気シーン
可愛らしい寝顔。
一言でそれを言い表すなら、
これ以上に相応しい言葉は見つからない。
凛太郎が目を覚ますと、
右腕に日々和がしがみついていた。
ぬいぐるみを抱く子どものように、
凛太郎の腕を自分の胸に引き寄せている。
僅かに触れている日々和の胸に目をやると、
ただでさえ開いている服のデザインのせいで
全部が見えそうになっている。
これでは少し凛太郎が角度を変えるだけで
簡単に見えてしまうだろう。
見るか、見ないか。
凛太郎に迫られる究極の二択。
紳士であればこのような状況下で
女の子に手を出すなんて真似はしないだろうが、
生憎と凛太郎は健全な男子高校生だ。
「……ふー…。」
凛太郎は見る方を選んだ。
男たるもの、据え膳食わぬは何とやらだ。
ここで何もしないようでは
凛太郎の男が廃ってしまう。
だが、行動は慎重に起こさなければならない。
軽く腕を揺さぶって日々和の
僅かな胸の感触を確かめながら、
日々和の額に息を吹いて
彼女が起きないかどうか確認する。
「……よし。」
日々和は起きる気配がない。
どうやら久しぶりにベッドで寝たことで
かなり深くて長い睡眠に落ちたようだ。
これは大いなるチャンス。
凛太郎はそっと腕を寄せて
日々和の両腕を伸ばさせると、
広がった隙間を覗けるように
ジリジリと彼女の方へ体を寄せた。
彼女が目を覚ます前に、
彼女が寝返りを打つ前に、
凛太郎は男のオアシスに飛び込んでいく。
「ふむ……。」
服の上からでは分からない程に
小さく慎ましやかな二つの山。
もはやそこには山もなければ谷もないのだが、
二つの山頂は確かに存在していた。
ピンクというには霞んでいて、
茶色というには明るい色合い。
例えるなら雨に濡れた桜の花弁のようだ。
山頂の周りにある湖は狭く、
桜の木の一本も生えそうにない。
ただ山頂の美しさを際立たせるために
佇んでいるような、狭い湖だ。
凛太郎が腕を少し動かすと、
山の頂きが押し潰されて
日々和の口から吐息が漏れる。
その息で凛太郎の心臓が
跳ね上がるように動揺したが、
依然として日々和が起きる気配はない。
このままもう少し堪能しようと思ったが、
これ以上は凛太郎の煩悩が
爆発してしまいそうだったので、
凛太郎は影移動を使ってベッドから降りる。
そして、収納から匕首を一本取り出して
お風呂場に向かうと、
思い切り自分の手のひらを刺した。
「ぐっ……!」
ぽたぽたと血が垂れて、
痛みが全身を駆け巡る。
おかげで凛太郎の煩悩は鎮まり、
回復魔法を使って傷を癒した。
垂れた血もしっかりと流し、
ついでに冷水で顔を洗う。
一気に凛太郎の意識が覚醒して、
先程までの自分の行動を思い出して
悶える結果となった。
いくら寝起きでボケていたとはいえ、
少し間違えていれば凛太郎の命と
この世界が終わりを迎えていただろう。
「危なかった……。」
血のついた匕首も洗い、証拠は完全に消した。
起きてきた日々和が何か言ってきても、
寝ぼけていたで通すことができる。
日々和の体を隠すように布をかけ、
凛太郎は朝食を調達するために部屋を出た。
「朝食を二人分頼む。」
「あいよ。」
やはり受付にいる男には
凛太郎が認識できているようで、
わざわざローブを翻さずとも
普通に会話をすることができた。
凛太郎を認識できる者に
どのような違いがあるのか
凛太郎にもまだよく分からないが、
こうしてまともに会話ができるのは
かなり助かることである。
「二人分で20ゼルだ。」
1階が食堂になっていることもあって、
宿代とご飯代は別料金だ。
それでも二人分で200円なので、
かなり良心的な値段である。
二人分のサンドイッチと
スープのような物を受け取り、
凛太郎は部屋へと戻っていく。
「起きたか。」
ガチャリとドアを開けると、
その音に反応したのか
ちょうど日々和が起き上がったところだった。
髪は乱れ、目もまだ虚ろな様子だったので、
凛太郎は彼女に顔を洗ってくるように言う。
日々和が部屋に戻ってきたのは
それから十数分後のことで、
しっかりと身なりを整えてきた。
薄い服装のままでいられると
凛太郎の方がもたないので、
首元の閉じた服で良かった。
「おはよう、木瀬。」
「あぁ、おはよう。」
「朝ごはんありがとね。」
二人でサンドイッチにかぶりつき、
まだ湯気の立ち上るスープを飲む。
途中で日々和の口元に
ソースがついていたのを
凛太郎が紙で拭いてあげると、
彼女は顔を赤く染めていた。
そんなこともありながら朝食を済ませ、
二人はそれぞれの支度を整える。
これからいよいよ調査開始だ。
エルフなどの種族を捕まえて
奴隷として売り捌いている
悪い貴族を突き止め、
その根性を叩き潰すのだ。
「それじゃ、夕方には戻ってきてね。」
「日々和も気をつけろよ。」
ここから先、二人は別行動を取る。
ユニークスキルのおかげで
他者から認識されにくい凛太郎は、
裏路地や闇市などを徹底的に徘徊して
裏の取引ルートをなどから探る。
一方で日々和は表に並んでいる商品や
噂話など、街全体の情報を探る。
一日の調査で成果が出るとは思わないが、
どんなことが起こったとしても
夕食までに戻ることを約束し、
もしもすぐに戻れないような事態に
陥ってしまった時や助けが必要な時は、
どこか街の目につくような場所で
赤色の煙を出すアイテムを使う。
近くの仲間に合図を送るアイテムだ。
お互いの無事を祈りながら、
二人は街へ繰り出していった。
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