14.腹を満たす

「ギルムルールに遭遇するばかりか、

あの闇魔法に落ちて生き延びてしまうとはのぉ。

これは目が離せんわい。」


手の上の水晶を眺めながら、

白髪の老人は呟いた。

この世界の観察と管理を任されてから、

実に千と300年の時間が流れた。

その間にダンジョンや魔王に挑んで

死んでいった人間は星の数と同じであり、

異世界から召喚した人間の多くは

魔王に辿り着く前に命を落としている。

その死因の中で最も多いと言われているのが、

この世界の人間や異世界の人間を

最も多く殺している三匹のモンスターだ。

通常、モンスターというのは

種族の名前でしか呼ばれないが、

そのモンスターたちには

恐怖や畏怖の意味の証として

固有名詞がつけられている。

天を舞い大地を燃やす黒竜、テーゼスタ。

全てを破壊し滅する邪鬼、転々門。

命の終わりと絶望を呼ぶ死神、ギルムルール。

黒竜と邪鬼は世界のどこに現れるのか

全く見当もつかない神出鬼没だが、

死神はこの世界に数多存在するダンジョンを

次々に移動していると言われている。

ただ、どのモンスターにしても、

出会うことはその者の死を意味する。

気まぐれで見逃すこともあるが、

基本的には蹂躙してくる。

まさに厄災、畏怖、絶望だ。


「木瀬凛太郎。お主ならこの世界、

救うことができるやもしれんな。」


老人は水晶の中の人間を見つめた。

三大モンスターの一角であるギルムルール。

そいつと対峙して生き残っただけでなく、

絶望の魔法とも呼ばれる魔法を受けて

立っていられるなんて。

彼は一体どこまで行くのだろうか。


「んん?この場所には確か……。

いや、きっと気のせいじゃろう。」


彼が降りた場所に若干の

見覚えを感じながらも、老人は水晶を置いた。


――――――――――――――――――――


攻撃魔法を修得したことに伴って、

基礎ステータスの魔法攻撃と魔力にも

それぞれ100の数字を振り分けた。

かなり大胆に使ったつもりではあるが、

それでもまだ1000以上のSPが残っている。

基礎ステータスに振り分けることも考えたが、

これから先どのようなモンスターに

遭遇するか分からないので、

ある程度余力として残した。

そして、きちんと数字は反映されている上に

新たに修得した魔法やスキルも

問題なく使えることから、

どうやら本当に強くなってしまったようだ。

ダンジョンの中を歩き回って

色々なモンスターと戦っているが、

全くと言っていい程苦戦しない。


「まるで相手にならないな。」


折れそうな短剣を使うこともなく、

一発蹴りを入れただけで

ほとんどのモンスターは息絶える。

ユニークスキルのおかげもあって

戦闘においては常に先手を取れることも

大きな勝因になっているだろうが、

それでもここまで苦戦しないと

強い刺激が欲しくなってしまう。


「奥がどっちなのかも分からん以上、

とにかく足を動かすしかないか。」


探索を始めてからそれなりに時間が過ぎたが、

同じような場所ばかりが続いているので

自分が前進しているのか後退しているのか、

登っているのか降りているのかも分からない。

幸いにも蛇のモンスターや

サソリのようなモンスターは

どうにかすれば食べられそうなので、

食料に困ることはないだろう。

という訳で、今から料理してみる。

他にもクモやスライムのモンスターがいたが、

スライムは倒すと溶けてドロドロになって

食べるどころの話ではなく、

クモは生理的に無理だった。


「お、いい感じに広いな。」


三方向と天井は壁になっていて、

地面も平らになっている。

すぐ近くには小さな泉もあったので、

臨時の部屋にするにはちょうどいい。

いい場所を確保したところで、

無限収納に入れておいたモンスターの

死体を使って料理を開始する。

まずは蛇だが、全身の鱗を全て外す。

硬い鱗は食べられないので収納に戻し、

首の切り口のところから

身と皮を思い切り引き剥がす。

内臓がある場所は抉り取り、

そのまま大きくぶつ切りにする。

あとは火を通せば丸焼きの完成だ。

次にサソリ。関節を外すように折る。

頭と胴体は臭そうなので捨てて、

尻尾も毒が怖かったので捨てる。

残っているのは手足だけだが、

サソリは他にもたくさんいるから大丈夫だ。

これも蛇と同じように火を通せば完成。

下処理が済んだら火弾をぶち込む。


「いただきます。」


ろくな調味料はないし、道具だって何もない。

ただ切って焼いただけだ。

もはやこれを料理と呼んでいいのかも

凛太郎には分からないが、

今はこれで我慢するしかない。

焼きあがった蛇に喰らいつき、

弾力のある肉を噛みちぎる。

殺した後すぐに収納して

泉の水で洗ったおかげで

臭みらしいものはなく、

美味くはないが不味くもない。

腹を満たすには十分な肉質だ。

そしてサソリの足を放り込む。

パリパリとした食感の中に

僅かな甘みが埋まっていて、

蛇を焼くよりも強く長く火を通して

殻まで食べられるようにした甲斐があった。

さすがに王宮で食べた料理とは

比較にならない味であったが、

何もないより遥かにマシであった。


「ん……急に睡魔が…。」


腹を満たした影響だろうか、

凛太郎を強烈な眠気が襲ってくる。

そういえば、この世界に来てから

一度も睡眠を取っていなかった。

元いた世界の朝に起きてから

優に一日は過ぎているはずなので、

今まで眠気が来なかったのが

おかしいくらいである。

しかし、ここはダンジョンの中。

最低限の警戒をするために、

開いていた場所に糸を張り巡らさせて

簡易的な壁を張ってから、

凛太郎は意識を手放した。

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