8.道の先
「浦野!一匹行った!」
杉森の横を通り過ぎたモンスターが
後衛にいる柑凪たちの方へ突進する。
回復役の柑凪と魔法による遠距離からの
攻撃役である寺門、そして味方の攻撃力や
防御力を上げる援助役の杏沢。
後衛からの手厚い支援によって、
前衛の杉森や凛太郎は強く戦える。
典型的なバランスの良いパーティーだが、
逆に言えば後衛の支援役が潰れれば
簡単に瓦解してしまう。
だが、本来の役割とは少し違う
立ち回りをしている浦野によって、
後衛の彼女たちは守られている。
「おうよ!」
突進してきたのは狼のようなモンスターで、
それなりの速さと牙を持っている。
しかし、彼らのステータスを前に
その牙はほとんど脅威にならない。
浦野は腕を構えて、飛びかかる狼の前に
見せつけるように差し出す。
当然その腕に噛みつく狼であったが、
全くもって歯がたたなかった。
「おらっ!」
必死に腕を噛みちぎろうとする狼を掴み、
思いきり地面に叩きつける。
それだけで狼は絶命して、
ピクリとも動かなくなってしまった。
本来、盾を持つタンク役というのは
前衛で敵を引きつけたり抑えつけて
他の仲間に攻撃させるのが役割だが、
今の浦野にはその盾がなかった。
だから仕方なく後衛に回ったのだが、
後衛の魔法使いたちを浦野が守って
前衛は杉森と凛太郎の二人が
圧倒的な力と速さで狩り尽くす形は、
図らずともいい連携になっていた。
杉森は攻撃のステータスが高く
大剣による攻撃範囲も広いので、
凛太郎が隙を埋めるように立ち回れば
簡単に相手を殲滅できるのだ。
「ふぅー、これで12匹か。
どうにか食料は確保できそうだな。」
今の凛太郎たちの状況を整理すると、
人攫いの仲間である男の案内で
彼らの拠点へと向かう途中、
突然男が消えて岩が転がってきた。
ここから考えられることとしては、
凛太郎たちは騙されたのだろう。
人攫いの拠点に連れていくというのは
凛太郎たちをここへ導くための嘘で、
自分が逃れるばかりか
凛太郎たちを亡き者にしようとした。
ただ、どうにか生き延びたはいいが、
ここがどこなのかも分からない上に
食料も限られている以上、
考えなしに行動することはできない。
それに浦野の大盾、杉森の大剣、
凛太郎の短剣はかなりのダメージを受けて
ほとんど使い物にならなくなっていた。
「じゃあ、最終目的は外へ出ること。
ただし先立っての目的は
食料の確保ってことでいいか。」
10分間の話し合いの結果に
このような結論が導き出され、
凛太郎たちは食料を探しながら
外へ出るための道を模索していた。
こんな場所に食べられるような物が
あるとは思えなかったが、
狼や猪のような動物系のモンスターは
食べられるのではないかと考え、
荷物と一緒に確保している。
ただ、荷物が増えることは
それだけ運搬も大変になるのだが、
全員が行動しやすいようにと
浦野が大盾を捨てて荷物のほとんどを
背負うことを名乗り出てくれた。
原型を失ったとはいっても
多少は使えそうであったのだが、
中途半端な盾を持つより味方を
最大限活躍させることを優先したらしい。
「上はまた岩が落ちてくるかもしれない。
この道の奥へ進むか、ここから更に下へ
降りていくかのどちらかだけど、
とりあえずはこの道を行ってみるか。」
岩から逃れるために入った道。
杉森の提案に従って進んでいく。
複雑に入り組んだ地形は迷路のようで、
自分たちが今どこにいるのか
全く見当もつかない。
いくらかモンスターとも遭遇しているが、
今のところは特に苦戦していない。
これも高いステータスのおかげだろう。
道はまだ奥へと続いているようで、
この先に何があるのか想像できない。
だが、今更引き返すことなどできず、
凛太郎たちは道を進んでいく。
「結局、あいつはどこに消えたんだろうな。」
周囲に罠がないかどうか、
モンスターが襲ってこないか等
観察しながら慎重に進んでいると、
ずっとみんなの心に引っかかっていた疑問を
浦野が口に出した。
いくらこの洞窟が薄暗くて
視界が確保できない場所だったにしても、
姿を消すのは容易ではない。
凛太郎のような認識を阻害する魔法か
スキルでも持っていれば別だが、
ただ姿を消しただけではあの岩に
巻き込まれてしまう。
となると、あの近くに隠し通路か
抜け道のような物があったと考えるのが妥当だ。
凛太郎たちが見逃しているだけで、
そういった物があったのかもしれない。
「確かに気になるけど、考えても仕方ない。
今はここを脱出するのが先決だ。」
「それもそうか。外に出た時に
ばったり出くわすかもしれないしな。」
そして、たまに雑談を交わしながら
周囲を警戒して進んでいると、
その扉は凛太郎たちの目の前に現れた。
見るからに重厚感のある扉だ。
それもかなり大きく、
3mは優に超えているだろう。
ここまで人工物のような物はなかった。
なのに、突然扉が現れるなんて。
しかも扉の左右に並んでいる
2つの人間の石像のような物は、
神社に佇む狛犬のように一対になっている。
これでは扉ではなく、門だ。
「明らかにやばそうだな…。」
先頭に立っていた杉森だけでなく、
後ろにいた全員がその圧を感じ取った。
「これ開けたら外…って訳じゃないだろうしな。」
ここまで順調にやってきた彼らだが、
今回ばかりは頭を悩ませる。
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