道端で拾ったメイドは同級生!? ご奉仕ラブコメ始めました。

冰藍雷夏『旧名は雷電』

第1話 秘密のメイドは同級生

 「………メイドさんが倒れてる」


 ────道端には出会いがある。メイド服を着た同級生との出会いが。


 そう。この僕、風間刀也かざまとうやにも出会ったんだ。道端に寝転がったメイド服姿の同級生との出会いが。


「……あの大丈夫ですか? 野垂のたれ死にはいけませんよ。メイドさん」


 危ないもの、変なものにはあまり関わない。人生はノーリスク高リターンが一番望ましいと僕は思うよ。


 でもやっぱりさ。道端に人が倒れていたら助けないわけにはいかないよね。


「………! その声は私がお仕えし、ご奉仕すべきご主人様ですか?」


 何を言っているんだろうね? このメイドさんは………ていうかこの声はまさか?


「えっと。何してんの? 藤乃ふじのさん」


「はい。メイド服を着て道端に倒れてました。ご主人様」


「いや、違うよ。僕と君は同じ高校、千歳ちとせ高校の同級生だから。何の主従関係もないんだよ」


「またまたご冗談を……ご主人様。お会いしたかったです」


「うん。数十分前に教室で帰りの挨拶をすましたばかりだよね。僕達」


 藤乃紫陽花ふじのあじさいさん黒紫色パープルブラックの髪色をお団子状の髪型にして、肌は雪化粧を思わせるように白くて綺麗で、顔立ちも整っている和風美人の女の子。


 学校ではミステリアスで寡黙な雰囲気を持つ同級生。がメイドさん姿で道端に落ちているなんて思いもしなかった。


「……これも何かの運命ですね。ご奉仕致します。ご主人様」


 何で丁寧語? 学校だと普通の喋り方なんだけど。どうしちゃったんだろうね? 倒れた時に頭でも打って可笑しくなっちゃったかな?


「いや良いよ別に。うちはマンションで狭しいし。家事とかだいたいの事は自分でできてるしね。なんか普通に喋れてるし、大丈夫そうだね……じゃあ、気をつけて帰りなよ。じゃあね。藤乃ふじのさん」


 よく分からないけど。この雰囲気のイベントは関わっちゃいけないイベントだね。恋愛系のソシャゲにも良くあるハニートラップで……


「お待ち下さいませ。ご主人様。私を置いて行かれては困ります」


 藤乃ふじのさんは無表情のまま、僕のYシャツを凄い力で引っ張ったよ。そんな事をされるとどうなるかってね……Yシャツが破けるんだ。


ビリビリビリビリ!!


「な、何してくれてんの? 藤乃ふじのさん」


「も、申し訳ありません。ご主人様。つ、つい万力まんりきの力が入り力んでしまいました」


 万力まんりきの力って……その細くて綺麗な腕のどこに万力の力がやっとってるんだい。


「これは……不味いかな。直ぐに家に帰らないと。藤乃さん。Yシャツ弁償できる?」


 質問したら何だかめんどくさい事に巻き込まれると思ったけど。


 Yシャツだってただじゃない。僕の両親が汗水垂あせみずたらして働いたお金で買ってくれたものだ。弁償してもらわないと割に合わないよ。


「えっと……無一文です」


「え? 何で? 家に帰ればご両親とか居るでしょう? 何かあったの?」


「はい。今日、家に帰ったら、家族は誰も居ませんでした。家も売り物件になっていて入れなくなっていましたし。家具も一切ありませんでした」


 とんでもない爆弾発言がどんどん出てくるたけど。あれ? 藤乃ふじのさんって、今リアル家なき子状態なの?


「家族からの置き手紙ではこのように書かれていました」


「どれどれ?」


『父さんの会社が倒産して借金ができたから、紫陽花あじさいを除いた家族で、蟹工船かにこうせんに乗せられて、蟹漁業をする事になったから数年はそっちには帰れない。


 メイド服と紫陽花あじさいの私物だけは差し押さえしないように頼んでなんとか取られずに済んだ。


 なので住み込みで暮らせる生きられる場所を探して、どうにか数年は自力で生きてくれ。ああ、高校卒業までの学費は既に払ってあるから。これまで通り学校には通えるから安心してくる。PS頼りないパパより。済まない紫陽花あじさい。頑張って生き残ってくれ。』


「……蟹漁業の蟹漁業って、ヤバいやつじゃん。絶対にヤバいやつじゃんこれ」


「はい。家の庭で争った形跡と血痕の後が散乱していました」


「ヤバイ! やつじゃん。警察に……」


「というのは冗談です。会社が潰れてしまったので、お父様達は資金調達に蟹漁船に乗りました。家は賃貸で貸し出すだけです」


「なんだ。そうなの……良かった本気で心配しちゃったよ。僕」


「ご主人様はお優しいですね」


 藤乃ふじのさんは右手を口に当てて、クスクスと笑った。


「あれ? それじゃあ。藤乃ふじのさんはどこに住むわけ?……」


 しまった。この質問はエヌジーだった。こんな質問をしないでさっさとこの場から去れば良かったと、発言した後に気づいちゃったよ。


「………行く場所が無いので雇って下さい。ご主人様。メイド藤乃紫陽花ふじのあじさいは、ご主人様に……風間刀也かざまとうや様に全力でご奉仕致します」


ビリビリビリビリ!!


「ちょっ! 僕のYシャツ切れてる切れてるって!!」


 万力の力を込めての決意表明だったのかな? 


 普段はクールでミステリアスな藤乃紫陽花ふじのあじさいが凄く張り切っていたよ。


 しかし、いきなり貴方のメイドになりますとか言われたけど……何でいきなりこうなってんの?


 僕はただ道端に倒れていたメイド服の同級生に話しかけただけなのにさ~!



第1話を最後まで読んで頂きありがとうございます。

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