I’m Not Interested in Romance, So Why Does Everyone Around Me Act Like We’re in One?
@coneaa
第一章 ― 不器用な嵐の前の静けさ
俺は、人が嫌いなわけじゃない。
ただ……できれば、声が聞こえないくらいの距離にいてほしいだけだ。
冷たいと思われるかもしれない。
でも高校で「静けさ」なんて、ほとんど奇跡だ。
噂話、笑い声、そして“面白い人間”を演じようとする声。
その中での沈黙は、宝物みたいなものだ。
水ノ戸カズヤ。俺は、単純な男だ。
単純な夢を持っている。
静かに卒業して、静かに就職して、静かに生きる。
――波風なし。
――噂なし。
――そして、恋愛もなし。
恋愛なんて、正直疲れる。
メッセージ、駆け引き、期待。
俺は昼飯すら決められないのに、感情なんてどう決めろっていうんだ。
だから、平和で、何も起こらない日々があればそれでいい。
……人生は、そんなお願いを聞いてはくれないけど。
第1章 ― 不器用な嵐の前の静けさ
「水ノ戸! おい、またボーッとしてんぞ!」
それがダイチ・タナベ。俺の親友だ。
もしエネルギーが通貨なら、こいつは億万長者だろう。
「ボーッとしてない。」俺は顎に手を当てて言った。
「観察してるだけだ。」
「何を?」
「人間の混沌。」
「お前さ、十七歳のくせに中年みたいなこと言うなよ。」
「褒め言葉として受け取っておく。」
いつも通りの朝だった。
窓から差し込む陽光。遅れている教師。
教室には他愛のない噂話。
その静けさを楽しんでいた、まさにその時――
ガラッ、とドアが開いた。
「おはようございます! 黒崎ハナです! 東京から転校してきました!」
クラスがざわついた。
転校生。
つまり、俺の平穏を壊す存在。
彼女は教室を見渡し、視線を一人ひとりに向け――
なぜか、俺で止まった。
そして笑った。
よりによって、俺の隣の席が空いている。
その後――
彼女はそこに座った。
「やっほー!」と明るい声。
「君、水ノ戸くんでしょ?」
「……ああ。」
「よろしくね!」
「うん。」
沈黙。
それで終わると思った――その時、彼女は身を乗り出した。
「ねえ、あんまり喋らないタイプ?」
「……理由がない限りは。」
彼女はにやっと笑った。
「じゃあ、理由をいっぱい作ればいいんだね!」
二つ隣の席からダイチの声。
「おい……お前の静かな人生、終わったな。」
ため息。
「もう感じてる。」
次の日の朝も、いつも通り静かに始まった。
教室はざわざわしていたけど、俺の机の周りだけは静寂の島。
誰も話しかけてこない。
これが理想。
――だったのに。
「おはよう、パートナー!」
顔を上げるまでもない。
こんな朝からテンション高い声、ひとりしかいない。
「ハナ。なんで“パートナー”なんだ。」
「だって、隣の席でしょ? だからデスクパートナー!」
「理屈で言うなら、俺は壁ともパートナーだな。」
「……君、NPCみたいな喋り方するね。」
「それが目的だ。」
彼女は声を上げて笑った。
まるで太陽に音量がついたみたいな笑い方。
俺は窓の外を見て、恥を感じないふりをした。
別に、うるさいとは思わなかった。
ただ……音が増えただけだ。
「ねえ、カズヤ。」彼女が少し声を落とした。
「話すの、苦手?」
「相手による。」
「じゃあ、今は?」
「話す理由がない。」
彼女は唇を尖らせた。
「ほんと、難しい人。」
「よく言われる。」
昼休み
ダイチが弁当箱を俺の机にドンと置く。
「お前、ファンできたな。」
「違う。自然災害だ。」
「体育の時間、ずっとお前の話してたぞ。」
「感染の心配でもしてたんだろ。」
「お前のそのネガティブ、もはや才能だな。」
「努力の成果だ。」
その瞬間、ハナが現れた。
「やっほー! ここで食べていい?」
ダイチは俺を見もせずに答えた。
「もちろん。」
――裏切り者。
彼女は当然のように隣に座り、弁当を広げた。
「ねえ、休み時間っていつも何してるの?」
「存在してる。」
「それ、活動じゃないよ。」
「生き方だ。」
彼女はまた笑った。
前よりも柔らかく。
……不思議と、悪くなかった。
放課後
チャイムが鳴った瞬間、ようやく平穏が戻る――
と思ったら。
「ねえ、水ノ戸! 一緒に帰ろ!」
「なんで。」
「一人より楽しいじゃん!」
「……議論の余地がある。」
「決まりっ!」
笑顔のまま、彼女は先に歩き出す。
しばらくその背中を見ていた。
エネルギッシュで、自由で、猫に話しかけている。
ダイチが肘でつつく。
「行かないのか?」
「放っといたら迷子になるだろ。」
「……その言い訳、苦しいぞ。」
ため息をついて、俺も歩き出した。
――そして、その日から俺の「静かで何もない日常」は、
少しずつ笑い声を含むようになった。
幕間 ― 陽だまりとノイズ
黒崎ハナみたいな人間は、ドラマの中だけの存在だと思ってた。
壁と喋っても、きっと壁が照れる。
そんなタイプ。
うるさいし、どんくさいし、喋りすぎる。
でも、必要もないのに笑う。
なぜか、毎日俺の隣に座る。
「友達になりたい」って言ってくる人は、今までもいた。
でも大抵は、俺が“面白くない”と分かった瞬間に去っていく。
ハナは違う。
彼女は喋る。俺は聞く。
彼女は笑う。俺は黙る。
……それだけなのに、彼女がいないと、
沈黙がやけに大きく感じるようになった。
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