第21話 美琴の死因
心筋症で亡くなった妻美琴の妹陽花里は父譲りの頭脳明晰な妹で、お医者様になるべくしてなっていた。結婚して立花総合病を義父母、それに夫と陽花里4人で切り盛りしているのだが、経営悪化を食い止めるために悪戦苦闘を強いられている。
この様な状態の病院にストレスマックスの陽花里は、今まで一度も感じた事のないコンプレックスを姉美琴に感じていた。
(何の取り柄もない姉でも夫が優秀であれば、無能なあんな姉でも光り輝けるなんて……本来は私の方が注目されていて当たり前なのに、最近は夫恭介の力で医学会の至宝の妻なんて言われて持て囃され、癪に障るったらありゃしない。全くうちの夫と大違い。坊ちゃま育ちでどうしようもない!💢💢💢)
そんな時に婿養子に入った恭介と過ちを犯してしまった。
陽花里にすれば自分の方が遥か上をいっていて、姉など眼中になく見下していたのに姉が脚光を浴びているのに我慢ならない。
🥼💉👩⚕️
ある日のことだ。姉美琴は相変わらず習い事の虫となり出かけている。江梨香は小学生でいない。亜里沙は別荘にひっそりと隠されているようなものだ。
そんな時間帯を見計らってやって来る陽花里は、良き妹を演じて姉が夫を放ったらかしているのを気の毒に思い、手伝いに来ているフリをして、そそくさと食事の準備に取り掛かっている。
「お義兄さんハンバーグ大好きなんでしょう。早速作りますね」
そう言って甲斐甲斐しく料理を振舞う陽花里の姿があった。
「どう……美味しい?」
「陽花里ちゃんお料理上手なんだね。凄くおいしいよ。ありがとう」
そんなある日の事、またしても陽花里の姿が神宮寺家にあった。
それは恭介がたまの休みで椅子に腰かけ、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいた時のことだ。陽花里が後ろから恭介にそっと抱き付いて言った。
「お義兄さんのことがずっと好きだったの。お義兄さん……私のことどう思っているの?」
「陽花里ちゃん💦💦……何言っているんだ。仮にも俺たちは兄妹となったのだ。妹として大好きだよ」
「そんなの嫌なの。私結婚したばかりでまだ子供いないから……」
「だから何だって言うんだよ?」
「夫亮と冷め切っているのよ。病院は経営難で火の車。折角苦労して医師になったのに、こんなクズ掴んじゃって。もう絶対にイヤなの!」
尚も恭介を強く抱きしめて言った。
「抱いて!」
「ダメだよ!」
尚も迫ってきて妹陽花里は言った。
「お義兄様が一番欲しいのはノーベル賞でしょう。でも……いち早く研究成果を出しているお義兄様だったら、その夢も現実となる可能性は十分にあるわね。でも有能な父の元を離れたくないので、冴えない姉と夫婦関係を続けているのでしょう?それだったら私と結婚したっていいってことじゃない?」
「人聞きの悪い事言うなよ。姉妹2人に手を出して妻を捨て、その妹と結婚したなんてみっともなくて話にならない話だ」
「姉が病気で亡くなったら話は別でしょう。私だったら夫婦になってもノーベル賞の夢協力できるわよ。医者だから……」
恭介はこの時期愛する静香と疎遠になっていて、静香に男がいることを知りむしゃくしゃしていた。そう帝都ホテルの総料理長の息子との関係を知り自暴自棄になっていた。
一瞬思った。冴えない嫉妬深い女美琴と妹陽花里では、どっちの方が自分にとって得策かと言う事だ。
まだこの頃は美琴が江梨香を虐待していることは、恭介は分かっていなかったが、もうすでに「本型金庫」の存在を知り江梨香が愛人の子供である実態を知って江梨香を虐待していた。
その事実だけでも大変なことなのに、美琴にはさらなる大きな問題があった。一見おとなしそうに見える女なのだが、その実はとんでもない女だった。
これだけ優秀でイケメンの恭介は能力が頭一つ抜きんでていたこともあり、女が放って置かない。あらゆる女が近づいてくる。
ある時は病院の看護師との関係を知り、嫉妬に狂った美琴は寝ている恭介に、金属バットで殴りかかって来たことがあった。またある時は、薬品会社の営業ウーマンとの関係を知り、恭介を階段から突き落としたこともあった。
金属バットの一件では、まだ眠っていなかった恭介は間一髪助かった。そして…階段から突き落とした件は、2階から1階に降りる階段の途中で言い争いになり、段が少なかったので怪我に繋がらなかったが、美琴の嫉妬にはつくづく困り果てていた。
更にはクラブホステスに刃物を挿入して「近づくな!」と書いた封書を送り脅していたりと、探せば数えきれない修羅場があった。
こんな時期に陽花里に言い寄られ、甘い誘いに乗り関係を結んでしまった。
「お義兄様離れたくないわ💞💝愛しているの💋ブチュ」
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恭介はいろんな女に言い寄られ、つまみ食いは度々繰り返していたが、中には自殺未遂を図り結婚を迫る大それた女もいた。
次期病院長と呼び声高い教授のお嬢様が、恭介の妻だと分かりながらも、自分をコントロールすることが出来ずに自暴自棄になり、自殺未遂を図る女も中にはいるのだ。
恭介は嫌と言うほど修羅場を見せつけられ、女にはうんざりしているが、それでも女から迫って来られれば据え膳食わぬは男の恥ということわざ通り、手ぐすね引いて待っている訳にはいかない。ついつい飛びついてしまうのだ。
こうしてとうとう義妹陽花里とも関係を持ってしまった。
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陽花里はイケメンで優秀な恭介と関係を持ってしまい、夫亮の事が益々イヤになって恭介との甘い結婚生活を切に願うようになり、最近は恭介に対して無言の圧力を送っている。だが、恭介の態度が煮え返らない。
そこで考えた。恭介には女の影が絶えない。姉美琴は愛人問題でよく揉めていて精神的に追い詰められて、あらゆる騒動を引き起こしていた。ある時は女医と恭介が怪しいと悟った美琴は車で愛人の後をつけ、その女が、まいたため急スピードで車で追跡して田んぼに落ちてしまったことがあった。
更には今度は看護師との浮気が発覚。恭介が仮眠を取るために借りているマンションに愛人がちょくちょく顔を出していると聞きつけ、脅しで出刃包丁を振り回し誤って自分の膝を切ってしまったことがあった。
この様に嫉妬に狂う美琴は愛人退治に奔走するあまりに、怪我が絶えない。だが可愛い大切なお腹を痛めた亜里沙がいるのだ。そこで……もしもの時は妹陽花里に亜里沙を面倒見てもらいたいと考えていた。「コケイン症候群」の亜里沙は20歳くらいまでしか生きられないと言ってみたところで、あくまでもそれは平均で有り、実際のところはなってみなければ分からない。60歳までの生存例もあるのだ。といってもⅠ型Ⅱ型III型とありIII型では成人期以降に「コケイン症候群」が発症するので60歳までの生存例があるので、こればかりは何歳まで生きるかは分からない。
このような理由から美琴は、今まで危険な目に遭っているので、もしもの時は両親では高齢なので亜里沙を託すことが出来ない。そこでたった1人の妹陽花里に亜里沙の後継人として、面倒を見てもらうために高額保険に入り、受取人を陽花里にしたのだ。
ここで陽花里の企みが見えてくる。美琴が死ねば高額保険金と愛する恭介を自分のものに出来る。
こうして犯罪は起こった。
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恭介はいろんな女と付き合い、最終的にはお金で方を付けて来たが、余りの美琴の行状に耐えられなくなり考えた。美琴の余りの切れように、恐れをなした恭介は、いくらイイ女と良い思いがしたいと思っても、それ以上の惨劇が待っているのだったら、少し考えを変えようと思った。
そこで、最近はどうしても縁の切れない妻美琴と、妹陽花里と、静香だけにしている。他の女はいくら誘われても無視するようにした。
それは3人だけはどうしても切ることが出来ないからだ。美琴は悪妻でも出世の手段として必要だ。静香は優秀な江梨香の母だ。それと……自分の全てをさらけ出すことが出来る唯一無二の女だからだ。最後は義妹陽花里だが、どうしても切ることが出来ない。「私と別れるというの。そんなことしたら両親と姉美琴に私たちの関係をバラすわよ!」そいうって脅されている。
このような理由から恭介が他の女と手を切った事で平穏が戻りつつあった。まさか可愛い妹と深い関係になっていようなど考えもつかない事。そこまで卑劣な男ではあるまいと思っているし、あんなに可愛がってやった妹陽花里が、姉を裏切るなど露ほども思っていない。それからあと1人の天敵静香は結婚するらしいと聞いているので、美琴は最近は嫉妬も鳴りを潜めている。
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いくら姉といってもいざという時は自分が可愛い。美琴が死ねば高額死亡保険金と愛する恭介を自分のものに出来る。 いつまでも煮え切らない恭介に業を煮やした陽花里は、姉美琴とは1歳違いで、美琴の友達とも大の仲良しだった。
そのお友達は、釣り好きのご主人様を持つ友達だったのだが、立派なマグロが釣れたのでお友達も招いての食事会をしようと、誘って来たのだ。
ド素人のその夫がマグロをさばいたのだったが、どうもそれが問題だったらしい。
あの食事会の日陽花里もお友達から招待を受けた。何と運の良い事に、その日は姉の家にいた。姉美琴に甘えるふりをして結局は恭介に会いたくて時間が空くと姉の家にやって来ているのだ。それはいくら冴えない姉でも女に変わりない。
ひょっとして恭介が姉を抱くかもしれない強迫観念から、時間が空くと出掛けて様子を伺っていた。
そんな時にお友達から電話が入りお誘い頂いた。
「美琴も陽花里も大きなマグロ主人が釣って来たから一緒に来てね。待ってるから」
テトロドトキシンは、神経細胞にあるナトリウムチャネルをブロックし、脳から筋肉への信号伝達を遮断する。これにより、呼吸や運動ができなくなる。一方で、痛みを感じる神経の働きも抑える可能性があるため、鎮痛剤としての研究が進められている。
研究熱心な恭介は義父聡の力もあり、意外と自由に薬を持ち出せる立場にあった。
そんな時にうっかり陽花里に話したことがあった。
「テトロドトキシンは、神経細胞にあるナトリウムチャネルをブロックし、脳から筋肉への信号伝達を遮断する。これにより、呼吸や運動ができなくなる。一方で、痛みを感じる神経の働きも抑える可能性があるため、鎮痛剤としての研究が進められている。マンバルジンは、キノコの一種であるドクツルタケに含まれる猛毒だ。キノコの破片が残っていれば目で見てわかる場合もあるし、食品の色やにおいに変化があれば、気づくかもしれない。ただし、ごく少量であれば、見た目やにおいだけでは判断が難しい。マンバルジンは非常に微量でも人体に影響を与える猛毒だ。わずかな量でも命に関わる可能性がある。ヘビやクモ、サソリなどの動物の毒は、幅広い用途に向けた医薬品開発が行われているからね」
「そうだよね」
2人は医薬品の話もちょくちょくしていた。その時陽花里は悟った。
(これはいける!)
「ねえ。テトロドトキシンとマンバルジン家に持ってこれない?」
「ナイナイ危険な薬品だからね」
「ねえ私に少しだけサンプル品で良いので持ち出ししてくれない?」
「ダメダメ絶対にダメ!」
「もう💢💢💢お父様と美琴に2人の関係言ってやるから!」
「……分かった。じゃあ微量だけ」
だが、最近恭介が陽花里を避けて会ってくれない。そこで考えた。立花総合病院にも毒薬があることを……
あの日姉美琴は先にお友達の食事会に参加したが、陽花里は思いついた。家に帰り姉に飲ます毒薬を持ち出し食事会に参加した。そうなのだ。あれ以来いろんな毒で証拠が残らずに殺せる方法はないものか、ずっと考えていた。
姉がダイエットサプリを飲んでいる事を知った陽花里は、姉美琴がトイレに行くと言った時にサプリメントをすり替えた。
「バック持っていてあげるから行っておいで」と言ってテトロドトキシンの入ったサプリと交換して何食わぬ顔で食事会に参加していた。こうして陽花里が家に着いて2時間後に緊急電話が入り、駆け付けたが、美琴の状況が悪化して5時間後に亡くなった。
こうして完全犯罪は成立した。
次回最終話
*参考まで
フグを捕食する生物は自然界に存在し、イカ、タコ、ウツボ、クエ・ハタ類、大型ベラ類などもフグを捕食することが知られている。これらの生物の中には、フグ毒に耐性を持つものや、毒の強い部位を避けて身だけを食べるものが存在する。
フグ毒(テトロドトキシン)は、フグ自身が作り出すものではない。
テトロドトキシンは、ビブリオ属やアルテロモナス属などの海洋細菌が出した毒や、毒を持つ生物の死骸が海底に残留し、それを有機物を食べる動物が食べ、体内に毒を蓄積する。さらに、その有機物を食べる動物を別の生物が食べることで、食物連鎖を通じて毒が濃縮されていくと考えられている。
例えば、イカがフグを捕食する可能性があるとされているが、フグを食べたイカの体内にテトロドトキシンがどの程度蓄積されるか、またそれがイカの健康や捕食した人間へどのような影響を与えるかについての具体的な研究結果は見当たらない。フグ毒は、フグの種類や部位、生息場所、時期によって毒の量が異なる。
もしイカがフグを捕食し、その体内にフグ毒が蓄積されたとしても、イカの種類や食べたフグの毒性、食べた量によって蓄積される毒の量は大きく変動すると考えられる。
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