第31話 恋の呪いの指輪
政陽たちは魔王城に着いた。
「魔王はいるか?」
「魔王様はこの時間は中庭にいらっしゃいます」
「分かった」
政陽は桜華の手を取り奥宮にある中庭を目指す。
流星も後に続く。
中庭に着くと見張りの兵士が政陽に頭を下げる。
「魔王は中庭だと聞いたのだが」
「はい。東屋にいらっしゃいます」
「そうか。入らせてもらうぞ」
政陽は中庭の東屋に向かった。
東屋には九曜がゆったりとクッションに寝そべり楽師が音楽を奏でていた。
とても美しい旋律だ。
桜華は緊急事態なのも忘れて思わず楽師の音楽に魅了される。
「九曜。少し話がしたい」
九曜は政陽と桜華を見るとクッションに座り直した。
「セイか。こないだの調査の結果か?」
「それもあるが別件もあってな。人払いを」
「分かった。お前たち下がっていい。いいと言うまで誰も来ないように」
「はい。承知いたしました」
楽師が奏でていた音楽を止めて東屋から出て行く。
九曜はその後に東屋に結界を張った。
ここでの話が外に漏れるのを防ぐためである。
「桜華ちゃんも来たのか。久しいの」
「お久しぶりです。魔王様」
桜華は九曜に挨拶をする。
「まず最初の報告は武暗の一族の謀反に関する噂だが、武暗が住んでいたと思われる村はもぬけの殻だった」
「そうか」
「一族が逃げたのかどこかに潜んでいて再び九曜の命を狙っているのかは分からなかった」
「なるほどな。まあ、武暗という男もたいした魔力は持ってなかったしその一族もたいしたことはできないだろう」
九曜は酒を飲みながら政陽の報告を聞いている。
「それからもう一つ。昔、私に『魔の指輪』をくれたことは覚えているか?」
「魔の指輪? なんだっけ?」
「この指輪だ。桜華、九曜に指輪を見せて」
「はい」
桜華は自分の右手に嵌まって取れない指輪を九曜に見せる。
指輪の石は七色に輝いている。
「ああ、思い出した。その指輪か」
「この指輪が桜華の指から抜けなくなってしまったのだ。指輪を抜く方法を知らないか?」
「指輪が抜けない?」
「そうなんです。魔王様」
桜華は半泣きの顔になる。
そんな桜華の様子を九曜は不思議そうに見ていたが溜息と共に答える。
「その指輪は飛翔に貰った物だ。何でも天界に置いておくと厄介だから魔界に置いておいてくれと言われてな」
「どんな効力の指輪か聞いたのか?」
「指輪を嵌めた者は指輪を贈った者に恋するモノだと聞いた。石が綺麗だったからもらった記憶がある」
「そんな物を私に渡したのか?」
政陽は苛立ちを表した。
「そう怒るな。セイが桜華と出会うずっと前の話だろう。お前がその指輪を誰かに贈って恋が実ればいいと思って渡したんだ」
「だがこの指輪は桜華の霊力を少しずつ奪っている。呪われた物ではないのか?」
「そこのところは飛翔に訊かないと分からんな。それに指輪が抜けなくなるという話は知らなかった」
「本当だろうな?」
「私がセイに嘘をついてどうする。飛翔と話すなら通信回路を開いてみるか?」
九曜の提案に政陽は頷く。
魔王城と天帝宮には九曜と飛翔だけが使える通信回路が存在する。
お互いに問題が生じた時に話し合いをするためのものだ。
「では飛翔に連絡をしてみよう」
九曜が力を行使すると空間がグニャリと揺れる。
そしてしばらくして天帝の飛翔の姿が映像に映し出される。
「九曜か。何用だ」
飛翔は物憂げな表情で訊いてくる。
「あいにく今日は私ではなく政陽が用事があるそうだ」
「政陽が?」
飛翔は九曜の隣にいる政陽に目を向けた。
「飛翔。昔、九曜に渡した『魔の指輪』を覚えているか? 七色に石が輝いている指輪だ」
飛翔は少し考えて答えた。
「ああ、『恋の呪いの指輪』か」
「恋の呪いの指輪?」
「その指輪はある貴婦人に恋をした宝石職人が作った指輪でな。自分の想いと共に貴婦人に贈ったのだがその旦那にバレてその宝石職人は首を刎ねられた」
桜華はその話に背筋をゾクリとさせた。
「その宝石職人の想いがその指輪に宿って相手の意思に関係なく贈った者に恋をする呪いがかかったものだ。だから天界では『恋の呪いの指輪』もしくは『魔の指輪』と呼ばれた」
「そんなものをよく人に渡したな。おかげでこっちは大迷惑だ」
政陽は怒りに満ちた声を発する。
「その指輪がどうかしたのか?」
「桜華が誤って嵌めて抜けなくなったんだ。しかも桜華の霊力を指輪が吸い取ってる」
飛翔は桜華を見た。
桜華は天帝に見つめられて緊張する。
「それはすまないことをしたな。その指輪は天族には危害を加えるが魔族には普通の指輪としか作用しないのが分かったから九曜に渡したんだ」
「それは本当か?」
「ああ。それじゃなかったら私が九曜に呪いの指輪を贈ったことになってしまうだろう。さすがに九曜にそんなことしたら後が面倒だからな」
「まあ、そうだな。そんなことされたらお礼参りをしていたところだ」
九曜は皮肉気に飛翔に言う。
「とにかく桜華の指輪を外したい。どうすればこの指輪は外れるんだ?」
「それなら天界にある『天の泉』に指輪ごと手を浸せば取れるはずだ」
「じゃあ、天界まで行かないといけないということか?」
「まあ、そうなるな」
飛翔は淡々と答える。
「仕方ない。いろいろお前には言いたいことはあるが後日桜華を連れて天界に行くから」
「分かった。天界に来たら私の別邸に来い。天の泉の場所を教える」
「準備ができしだい天界に向かうから」
「待っている」
そこで飛翔との通信は終わる。
「桜華。聞いていたと思うが天界に行かないとその指輪は取れないようだ。準備をして天界に行くぞ」
「は、はい」
「天界へは裏ルートを通るのか?」
「ああ、そうなるだろう」
「まあ、私も責任の一端はあるからな。留守中の神霊宮のことは任せてくれ」
「そうだな。よろしく頼む」
政陽は桜華の手を握り立ち上がる。
「じゃあ、少しの間天界に行ってくる」
「気をつけてな」
九曜は東屋から出て行く二人を見送った。
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