第26話 九曜の子供の数
政陽は流星を伴って魔王城にやって来た。
今日は先日の虚無の騒動の一件を九曜に報告に来たのだ。
魔王城の入り口に羽馬をつけると馬番の者が羽馬を引き取る。
政陽は流星を連れて魔王城の九曜の私室の前まで来た。
「九曜はいるか?」
見張りの兵士に政陽が訊くと兵士は答える。
「はい。中にいらっしゃいますが今は取り込み中かと……」
兵士が歯切れの悪い返事をするのを聞いて政陽はピンと来た。
「女といるのか?」
「はい。魔王様には誰も通すなと」
政陽は仕方ないとばかりに少し時間を潰すことにした。
魔王城の休憩室に流星と向かう。
女といるところを邪魔されるのを九曜は好まない。
緊急な用件だったら別だが今回は緊急という訳ではないから少し時間を潰せば女とも終わってるだろう。
休憩室には高位貴族しか入れない部屋がある。
政陽はその部屋に入って失敗したと思った。
中には先客がいたのだ。
三魔王子の一人である雷牙だ。
雷牙は政陽を見てソファから立ち上がる。
「これは大公様。魔王様に御用ですかな」
「ああ、ちょっとな。お取込み中だったから時間を潰そうと思ってな」
「なるほど。魔王様も相変わらずお盛んなようですからねえ。私としてはこれ以上兄弟の数が増えてもらっても困るのですがね」
雷牙は意味深な笑みを湛える。
「まあ、そうだろうな。九曜の子供は認識しているだけでも50人はいるだろうからな」
「いえいえ。こないだ生まれた赤子も入れれば234人ですよ」
雷牙の返事に政陽は思わず絶句する。
いつの間にそんなに増えたのだろう。
そういえばもう九曜の子供の数を数えることを止めて久しく経つことを思い出した。
しかし九曜さえ覚えていない子供の数を正確に把握しているとはさすが三魔王子の一人だ。
「で、そのうち生きているのは何人だ?」
政陽は面白くもない顔で雷牙に訊いてみた。
三魔王子に殺された九曜の子供の数は多い。
「今日現在で103人の王子と王女が生きてますよ」
つまりは残りの子供は殺されたということだ。
弱肉強食が魔界のルールとはいえ政陽には平然と言ってのける雷牙の神経が信じられない。
まあ、元はと言えば九曜が子供を作り過ぎなのが原因なのだが。
九曜の女好きと争い好きには政陽もうんざりしているところだ。
「そんなに子供が多いとは思わなかったな」
「そういえば大公様も最近女性を囲っているとか聞きましたがきっと素敵な女性なのでしょうねえ」
雷牙はニヤリと笑う。
どうやら桜華のことはもう知れ渡っているらしい。
だから気をつけなければならない。
大公の寵愛を得ているというだけで桜華は他の魔族からマークされる。
政陽の子供はいない。
それはもちろん政陽には子供を作る訳にはいかない理由があるからだがそれを知っているのは魔王の九曜と天帝の飛翔とごく一部の者だけだ。
当然雷牙は知らない。
知らないからこそ大公である政陽の子供を産む可能性のある女性をマークしているのだ。
政陽が九曜と同等以上の魔力があることを魔界の者ならば皆知っている。
その子供となれば魔王子と同等かそれ以上の魔力を持って生まれることが考えられる。
次期魔王の座を狙う者からしてみれば邪魔者以外の何でもない。
そこに侍従が政陽を呼びに来た。
「大公様。魔王様がお会いになるそうです」
「分かった。すぐ行く」
政陽は休憩室を出て魔王の私室に向かった。
流星が政陽に声をかける。
「魔王様は何であんなに子供を作るんですかね」
「単なる暇つぶしだ」
政陽の捨て台詞に流星は唖然とした。
「暇つぶしで子供作ってるんですか?」
「あいつは性格が破綻しているところがあるからな。子供たちの争いを楽しんでいるんだ」
「はた迷惑な性格ですね」
「それでも古の神の一人である以上私が九曜を処分もできないしな」
「それはそうですね」
流星はそう言うと黙り込んでしまう。
古の神は特別な存在でその存在をどうこうできる権限など誰も持たないのだ。
政陽は九曜の私室の前で溜息をついて扉をノックした。
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