第18話 光安の陰謀
「う~ん」
桜華は静かに目を覚ました。
そこはいつも桜華が政陽と寝起きしているベッドだった。
「私……」
「目が覚めたか?桜華」
ベッドの横の椅子に政陽がいる。
「セイ……そうだ、私は……」
桜華の脳裏に魔王城での出来事が蘇る。
そしてカークお爺さんの最後の姿も。
「カークお爺さん……なぜ、光安様が……」
桜華は全てを思い出した。
自分は10歳の時に光安たちに誘拐されそうになったのだ。
その時斧で助けようとしてくれたカークお爺さん。
そしてそのカークお爺さんの首を刎ねた光安。
「カークお爺さん!」
桜華はベッドから上半身を起こし泣き出した。
「桜華」
政陽は優しく桜華を抱き締める。
なぜ光安は自分を誘拐しようとしたのかは分からない。
だが桜華はその時の記憶がないことを利用されて光安と伽羅に育てられたのだ。
そして人界神レオンの体を手に入れるという密命を受けて人間界に行く途中で界嵐に巻き込まれて魔界に飛ばされて政陽たちと出会った。
「うっ……うっ……」
桜華は涙が止まらない。
「桜華。思い出したんだね」
政陽の言葉に桜華はコクリと頷いた。
「セイ……いえ、政陽様。私を助けてくれてありがとうございました。私は天使族で天界にいました。人間界にも」
「君の身に何が起こったのか説明してくれるかい?」
「はい……」
桜華は政陽に自分の過去を話した。
10歳まで人間界でカークお爺さんに育てられたこと。
そして光安と伽羅に誘拐されそうになった自分を助けようとしてカークお爺さんが光安に殺されたこと。
その時の記憶を失い光安たちに天界で育てられたこと。
光安の密命を受けて人界神レオンの体を探しに行く途中で界嵐に遭い魔界に飛ばされて政陽に助けられたこと。
政陽は桜華の話を黙って聞いていた。
「なぜ、光安が私を誘拐したのかは分かりません。でも私はカークお爺さんの仇に育てられていたなんて……」
桜華は唇を噛みしめる。
「その光安という男がなぜ桜華を誘拐しようとしたかは心当たりがある」
「え!」
政陽の言葉に桜華は驚いた。
「君が育ったのは人間界にある『忘れの森』だろう。そこには確かに人界神レオンの体があるが結界が張られていて通常天族や魔族は森に入れない」
「そうなんですか? でも私は自由に入れたけれど」
「ああ。君が赤子の内に森に入ったために結界は君を敵として認識しなかったんだ」
「敵として認識しなかった?」
「そうだ。その結界は悪しき心を持ったものに反応する。おそらくその光安という人物は桜華を使って人界神レオンの体を手に入れるために桜華を誘拐しようと思ったのだろう」
「そんな」
桜華は絶句する。
そんなことのためにカークお爺さんは死ななければならなかったのか。
「光安が人界神レオンの体を手に入れたがっている理由は予想できる。神の力を得たいのだろう」
「神の力ですか?」
「この三界を治める神の血潮を飲んだ者は神と同等の力を得ると言われているからな」
「そうなんですか?」
「ああ。だから三界の神の体が眠る場所は結界に守られている」
「なぜ、光安は神の力を望むのでしょうか?」
桜華は首を傾げる。
今のままでも光安は天翔族の貴族として力溢れる存在だ。
もっと力が欲しいのだろうか。
「おそらく天帝の地位でも狙ってるんだろう」
「天帝様の!?」
桜華にとって天帝は雲の上の存在だ。
その圧倒的な力は並ぶ者はないと天使学校でも教わった。
「魔界でも魔王の地位を狙う者は珍しくない。力に拘る輩はどこにでもいる」
「では光安は天帝様の命を狙うために人界神レオン様の体を手に入れようとしていたのですか?」
「おそらくな」
「私は……知らなかったとはいえなんということに手を貸そうとしていたの……」
桜華は体の震えが止まらなかった。
天帝の命を狙うなど大罪だ。
「桜華は何も知らなかったんだ。気にすることはない」
「私は三界の神様が存在することも光安から聞いて初めて知ったんです。古の神話はあくまで神話に過ぎないと思っていましたから」
「古の神話は本当にあった出来事だ。それで桜華はこれからどうしたい? 天界に帰るか人間界に帰るかこの魔界に残るか」
「私は……」
桜華は政陽の顔を見る。
光安がカークお爺さんの仇と分かった以上もう光安に協力する義理はない。
天界に帰れば自分は光安に殺されて終わりだ。
人間界にももうカークお爺さんはいない。
ならば政陽の側にいたい。
もちろん政陽と自分の身分がつり合わないことはよく分かっている。
政陽は魔界において魔王の次の位の「大公」だ。
それに比べたら桜華は下級天族の天使の一人に過ぎない。
それでも政陽に惹かれる心を桜華は止められない。
「政陽様。私を政陽様のお側に置いていただけませんか? 掃除でも洗濯でも何でもします。この神霊宮で雇ってください」
政陽は桜華の返事に少し驚いたようだったが笑顔を浮かべる。
「桜華は使用人の真似をすることはない。ここにいたければ私の客人としてずっといるといい」
「でもそれでは政陽様にご迷惑が」
自分のような女が政陽の周りにいたら政陽が本当に愛する女性ができた時に困るに違いない。
「安心しなさい。私は桜華のことを気に入っている。それに私のことはセイと呼ぶようにと言っただろ?」
「政陽様」
「違う。セイだ」
「セイ……ありがとう」
桜華は政陽の胸に自分の頭を預ける。
政陽は桜華の銀髪を撫でた。
「少し昔話をしよう。桜華のために」
政陽はそう言って古の神話の話を始めた。
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