第8話 共依存

 翌日──

 バイトに行って、先輩に言われた。


「昨日、ヘルプに来て欲しくて電話したけど、出なかったじゃん」

「あー、例の少年とデートしてました」


 そう言うと、先輩が怪訝な顔をした。


「デートはいいけど、あんま利用されすぎるなよ」

「まあ、そうなんですけどねー」


 そして、ため息混じりに言った。


「事故のあと、本当に示談金の200万が振り込まれるし、バイクは新品になって返ってくるし、断りづらいじゃないですか」


「ああ、事故な。そういや、怪我とか大丈夫だったの?」


「バイクで横転したんで、無傷ではないです。路上で揉み合ってるのを見てたから、飛び出してきたとき咄嗟に避けたけど、じゃなきゃ轢いてた」


「それは災難だったな。で、その金どうしたの?」


「母親の入院代で使いました。具合悪かったみたいで、検査行ったら即入院で。

 だから……示談金のおかげで助かったのは事実なんですよね」


「そうか。お前の姉貴も離婚したし、大変だな」


「ですね。でも、先輩の店が落ち着いたなら、俺、いつでも抜けますよ」


「店? 落ち着いてはきたけど、もう少しやれよ」


「はあ」


 ── やはり、まだバイトは辞めれないらしい。


◆◆


 それから──


 しばらくは、何も起こらなかった。

 バイトがない日は、奏多の部屋に呼ばれ続けた。


「用事がないなら呼ばなくても……」

「いっしょに夕飯、食べましょうよ」


 ── 何のこっちゃ。


「お前、ダチとかいないの?」

「いても受験勉強です。高三なんで」


 ── 確かに。

 俺は大学行ってないから、わからないけど。


「お前は勉強しなくていいの?」

「息抜きも必要です」


 ── そのわりには、結構呼ばれてる気がする……。


「まあ、いいけどさー」

 言いながら、机の上にあった参考書をめくってみる。


 ── うわっ、全然わかんねー。


「夕飯、できました」

「あ、悪い」


 俺が部屋に着く前から、奏多が料理をしてくれている。

 結構、美味い。


「お前、いつから一人暮らししてるの?」

「高校です。中学のとき、虐待で通報されて相談所の人が家まで来たんです。そのとき、一人暮らししたいって言って、させてもらいました」


「ふーん」

 ── 虐待ね。


「あれから、義兄、来てないの?」

「はい。悠人さんが来てくれるので」


「は? 俺?」


「人が来るようになったら、下手に暴力振るって、バレたら大変だから」


「いや、よくわからないけど……」

 ── つまり、俺、利用されてる?


「悠人さんの携帯に、この部屋の鍵、送ったんで、あとで登録してくださいね」

「は?」


「だってスマートキーだし、失くしたら困るじゃないですか」


「いやいや。俺のこと、信用しすぎじゃね?」


「家族より信用してますよ?」

「いや……」


「必要なくなったら、登録削除するから大丈夫です」


◆◆


 翌日──


 バイト先で先輩に相談したら、大笑いされた。

「あはは。お前、すごいのに捕まったな」


「いや、笑いごとじゃないっすよ」


「確かに、お前の性格じゃ断れないし、その少年も相手がお前でよかったな」


「俺がよくないです」


「でも、お前が頻繁に出入りするようになったら、下手に義兄が手出しできなくなるっていうのは正解じゃね?」


「そうですか?」

 ── 俺には、何のメリットもないけど。


「そういう家って、世間体、気にするだろうし。示談金もらったんだから、しばらく通ってやれよ」


「示談金……」

 ── 確かに。助かったけど……。


「もっとふっかければよかった」

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