第22話 先輩の責任

カナタのデビューから二週間後。


拓真は、カナタの配信を見ていた。


「はーい! みんなこんばんは! 天音カナタです!」


画面の中のカナタは、元気に配信していた。


でも、同時接続数は千人ほど。


デビュー配信の時より、大幅に減っていた。


「……厳しいな」


拓真は呟いた。


デビュー配信は、自分たちがゲスト出演したから盛り上がった。


でも、カナタ一人だと、まだ視聴者が定着していない。


「これが、現実か……」


拓真は、画面を見つめ続けた。


***


翌日。


拓真と凛は、事務所に呼ばれていた。


「お疲れ様です」


マネージャーが真剣な顔で迎える。


「カナタさんのこと、なんですが……」


「はい」


「彼女、最近元気がないんです」


マネージャーは資料を見せた。


「デビュー後、視聴者数が伸び悩んでいて。本人も、かなり悩んでいるようです」


「……そうですか」


拓真は項垂れた。


「俺たちも、気づいてました」


「お二人に、相談に乗ってあげてほしいんです」


「わかりました」


凛が頷いた。


「話してみます」


***


その日の午後。


拓真と凛は、カナタを呼び出した。


近所のカフェ。


「せ、先輩……お呼びいただいて、ありがとうございます」


カナタは緊張した様子で座った。


「いや、こちらこそ。ちょっと話したくてさ」


拓真は笑顔で言った。


「最近、どう? 配信」


「あ、は、はい……楽しいです……」


カナタは目を逸らした。


明らかに、嘘だった。


「カナタちゃん」


凛が優しく言った。


「無理しなくていいよ。本当のこと、話して」


「……」


カナタは黙り込んだ。


そして、涙を流し始めた。


「ごめんなさい……私……」


「どうした?」


「私……全然ダメなんです……」


カナタは泣きながら言った。


「デビュー配信は、先輩たちのおかげで盛り上がりました。でも、一人で配信すると、全然視聴者が来なくて……」


「……」


「登録者も増えないし、コメントも少ないし……」


カナタは顔を覆った。


「私、VTuberに向いてないのかもしれません……」


拓真と凛は、顔を見合わせた。


「カナタちゃん」


拓真が口を開いた。


「俺たちも、最初は全然ダメだったよ」


「え……?」


「本当。最初の配信なんて、視聴者十人くらいしかいなかった」


拓真は笑った。


「コメントも全然来なくて、一人で喋り続けるだけ。めっちゃ辛かった」


「そうだったんですか……」


「うん。でも、続けてたら、少しずつ視聴者が増えてきた」


凛が続ける。


「そして、あの放送事故でバズった」


「マイク切り忘れ……」


「そう。あれがきっかけで、一気に有名になった」


凛は笑った。


「でも、あれも偶然じゃない。それまで地道に配信を続けてたから、バズった時に視聴者が定着してくれたんだと思う」


「……」


カナタは、二人の話を真剣に聞いていた。


「だから、カナタちゃん」


拓真は真剣な顔で言った。


「諦めないで。続けてれば、必ずチャンスは来る」


「でも……私なんかに、できるでしょうか……」


「できるよ」


凛が断言した。


「カナタちゃんには、才能がある。私たちが保証する」


「先輩……」


カナタは涙を流した。


「ありがとうございます……」


「じゃあ、今度一緒に企画考えようか」


拓真が提案する。


「カナタちゃんらしい企画」


「私らしい……」


「うん。無理に他の人の真似しなくていい。自分らしく、楽しく配信すればいい」


「……はい!」


カナタは笑顔で頷いた。


***


その日の夜。


拓真と凛は、カナタの企画を一緒に考えていた。


「えーと、カナタちゃんの特技は……」


拓真がノートに書いていく。


「歌が上手い、明るい、元気……」


「じゃあ、歌配信とかどう?」


凛が提案する。


「いいね。カナタちゃんの歌、上手かったし」


「あと、視聴者参加型の企画も入れよう」


「おう」


二人は、真剣に企画を練っていた。


***


一週間後。


カナタの新企画配信。


「はーい! みんなこんばんは! 天音カナタです!」


「そして、今日もスペシャルゲストがいます!」


「日里燈です!」


「東遊里です!」


『きたああああ』

『また燈と遊里!?』

『楽しみ!』


同時接続数は、開始五分で三万人を突破していた。


「今日はですね、歌配信をやります!」


カナタが元気に宣言する。


「みんなからのリクエストを受けて、歌っていきます!」


『楽しみ!』

『カナタちゃんの歌好き』


リクエストが次々と来る。


「じゃあ、最初の曲!」


カナタは歌い始めた。


「♪〜〜〜♪」


上手い。


透き通った声が、配信に響く。


『上手い!』

『めっちゃいい』

『カナタちゃん才能ある』


コメント欄が、称賛の言葉で埋まる。


燈と遊里も、静かに聴いていた。


「……すごいな」


燈が呟く。


「うん。私たちより、全然上手い」


遊里も感心していた。


歌が終わる。


『最高!』

『また聴きたい!』

『カナタちゃんファンになった』


「あ、ありがとうございます!」


カナタは嬉しそうに笑った。


「次の曲、行きます!」


配信は、三時間続いた。


カナタは、次々とリクエストに応えて歌っていった。


そして、配信終了。


同時接続数は、最終的に五万人を記録していた。


***


「お疲れ様でした!」


カナタは、深々と頭を下げた。


「お疲れ」


拓真と凛も答える。


「どうだった?」


「すごく楽しかったです!」


カナタは目を輝かせていた。


「みんな、私の歌を聴いてくれて……嬉しかったです!」


「よかった」


拓真は笑った。


「これが、カナタちゃんらしい配信だよ」


「はい!」


カナタは笑顔で答えた。


「これから、もっと頑張ります!」


「おう」


拓真は、カナタの頭を撫でた。


***


翌日。


カナタの配信が、Twitterでトレンド入りしていた。


「#天音カナタ歌上手すぎ」


のハッシュタグが、五位に入っていた。


コメント欄には。


『カナタちゃんの歌、最高』

『才能ある』

『これからも応援する』


そんな言葉が、溢れていた。


拓真と凛は、スマホを見ながら笑っていた。


「よかったな」


「うん」


「カナタちゃん、これから伸びるよ」


「ああ」


二人は、嬉しそうに笑った。


***


その日の夜。午後八時。


配信開始。


「はーい! みんなこんばんは! 日里燈だよー!」


「東遊里です」


『きたああああ』

『今日も楽しみ!』

『カナタちゃんの配信よかったよ』


「ありがとう! カナタちゃん、頑張ってたでしょ?」


燈が嬉しそうに答える。


「これから、もっと伸びると思います」


「先輩として、ちゃんとサポートしていきます」


遊里が笑った。


『頑張れ』

『応援してる』


「ありがとう! じゃあ、今日も配信頑張るぞ!」


「今日は何する?」


「視聴者参加型のゲーム大会!」


「また燈が勝手に決めた」


「勝手じゃねーよ!!」


『もう喧嘩www』

『安定してる』


配信は、いつも通りのペースで進んでいく。


喧嘩して、笑って、また喧嘩して。


でも、視聴者たちはそれを楽しんでいた。


***


配信終了後。


拓真と凛は、リビングでお茶を飲んでいた。


「なあ、凛」


「なに?」


「先輩って、大変だな」


拓真は笑った。


「後輩の面倒見るの、想像以上に責任重い」


「うん」


凛も笑った。


「でも、やりがいあるよね」


「ああ」


拓真は頷いた。


「カナタちゃんが成長していくの、見るの楽しい」


「うん」


凛も笑った。


「これからも、ちゃんと育てていかないとね」


「おう」


二人は拳を合わせた。


***


その夜。


拓真は、ベッドで天井を見つめていた。


「先輩、か……」


自分たちに、後輩ができた。


指導する立場になった。


「責任、重いな……」


拓真は呟いた。


でも、それと同時に。


やりがいも感じる。


「カナタちゃんが、俺たちを見て頑張ってくれてる」


拓真は笑った。


「俺たちも、もっと頑張らないとな」


拓真は、そのまま眠りについた。


***


翌朝。


拓真のスマホに、通知が来た。


カナタからのLINEだ。


『先輩! おかげで、登録者が五万人になりました! 本当に、ありがとうございます!』


「五万人……」


拓真は笑った。


『おめでとう。これからも頑張って』


返信を送る。


すぐに返信が来た。


『はい! 先輩たちみたいに、有名になります!』


『期待してるよ』


拓真は笑った。


「頑張れ、カナタちゃん」


拓真は呟いた。


「俺たちも、負けないように頑張らないとな」


拓真は、凛の部屋に向かった。


「凛、起きてる?」


「起きてるよ」


凛が部屋から出てくる。


「カナタちゃんから連絡来た?」


「来た。登録者五万人だって」


「よかったね」


凛は笑った。


「じゃあ、私たちも頑張らないと」


「ああ」


拓真も笑った。


「今日も配信、頑張ろう」


「うん」


二人は拳を合わせた。


世界一うるさい青春は、まだまだ続いていく。


後輩を育てながら。


自分たちも成長しながら。


拓真と凛は、これからも走り続ける。


喧嘩しながら。


でも、お互いを信じて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る