第21話 ドーム後の日常
東京ドームライブから一週間後。
拓真は、いつものように自室で配信の準備をしていた。
「えーと、今日の企画は……」
ノートを開く。
視聴者参加型のゲーム大会。
いつもと変わらない企画だ。
「ドームが終わっても、やることは変わらないんだな」
拓真は笑った。
でも、それでいい。
配信が、自分たちのホームだから。
コンコン。
ドアがノックされた。
「拓真、入るよ」
凛が部屋に入ってくる。
「今日の配信、準備できてる?」
「まあ、一応」
拓真はノートを閉じた。
「お前は?」
「できてる」
凛は頷いた。
「じゃあ、始めようか」
「おう」
***
その日の夜。午後八時。
配信開始。
「はーい! みんなこんばんは! 日里燈だよー!」
「東遊里です」
『きたああああ』
『今日も楽しみ!』
同時接続数は、開始一分で二十万人を突破していた。
ドームライブ後、視聴者数は安定して高い水準を保っている。
「今日はですね、いつも通り視聴者参加型のゲーム大会やります!」
「ドームが終わっても、やることは変わりません」
遊里が笑った。
『安定してる』
『それがいい』
『変わらないでね』
「じゃあ、今日のゲームは……マリオカート!」
「また燈が勝手に決めた」
「勝手じゃねーよ!! お前に相談したじゃん!」
「してない」
「したよ!!」
『もう喧嘩www』
『ドーム後も変わらないwww』
『これが燈と遊里だ』
配信は、いつも通りのペースで進んでいく。
喧嘩して、笑って、また喧嘩して。
視聴者たちは、それを楽しんでいた。
***
配信終了後。
拓真と凛は、リビングでお茶を飲んでいた。
「なあ、凛」
「なに?」
「ドームが終わって、なんか拍子抜けだな」
拓真は笑った。
「わかる」
凛も笑った。
「あれだけ夢見てたのに、終わったら急に目標がなくなった感じ」
「ああ」
拓真は頷いた。
「次の目標、考えないとな」
「うん」
そのとき。
拓真のスマホが鳴った。
「お?」
マネージャーからだ。
『明日、事務所に来てください。大事な話があります』
「大事な話……?」
凛が覗き込む。
「なんだろう」
「わかんない」
拓真は首を傾げた。
***
翌日。
拓真と凛は、事務所に呼ばれていた。
「お疲れ様です」
マネージャーが笑顔で迎える。
「実は、お二人に新しい後輩ができました」
「後輩?」
拓真は目を丸くした。
「はい。事務所の新人VTuberです。お二人に、指導をお願いしたいんです」
「俺たちが、指導……?」
「はい。お二人は、もうこの事務所の看板ですから」
マネージャーは資料を見せた。
「後輩の名前は、天音カナタ。十八歳の女の子です」
「十八歳……若いな」
凛が呟いた。
「今日、紹介しますね」
マネージャーがドアを開けると、そこには。
「は、はじめまして! 天音カナタです!」
ピンク色の髪をツインテールにした、元気そうな女の子が立っていた。
「あ、はじめまして。葉夜拓真です」
「鷹野凛です」
二人は軽く会釈した。
「せ、先輩! お二人の配信、いつも見てます!」
カナタは興奮した様子で言った。
「特に、喧嘩しながら配信するスタイル、すごく好きで!」
「ありがとう……」
拓真は照れくさそうに笑った。
「じゃあ、これから、よろしくね」
「はい! よろしくお願いします!」
カナタは深々と頭を下げた。
***
その日から。
拓真と凛は、カナタの指導を始めることになった。
「えーと、配信の基本は……」
拓真が説明する。
「視聴者とのコミュニケーションが大事。コメントをちゃんと読んで、反応すること」
「はい!」
カナタは真剣にメモを取っていた。
「あと、企画も大事だね」
凛が続ける。
「視聴者が楽しめる企画を考えて、実行する」
「はい!」
「でも、一番大事なのは」
拓真は笑った。
「自分らしくいること。無理に作らないこと」
「自分らしく……」
カナタは呟いた。
「はい。俺たちも、最初は色々試したけど、結局『喧嘩しながら配信する』っていう自分たちらしいスタイルに落ち着いた」
「なるほど……」
カナタは真剣に聞いていた。
「じゃあ、実際に配信してみようか」
「え、もう?」
「うん。実践が一番の勉強だから」
凛が笑った。
***
カナタの初配信。
拓真と凛も、ゲストとして参加することになった。
「は、はーい! みんなこんばんは! 天音カナタです!」
カナタの声は、明らかに緊張していた。
「そして、今日はスペシャルゲストがいます!」
「日里燈です!」
「東遊里です!」
『きたああああ』
『燈と遊里!?』
『豪華すぎる』
コメント欄が爆発的に流れる。
カナタの配信に、拓真と凛のファンも集まってきた。
同時接続数は、開始五分で五万人を突破していた。
「す、すごい……」
カナタは驚いていた。
「大丈夫。落ち着いて」
燈が優しく言う。
「じゃあ、今日は三人でゲームしようか」
「は、はい!」
ゲームが始まる。
今日はアリオカート。
「よし、今日は絶対勝つ!」
燈が意気込む。
「燈、カナタちゃんの初配信なのに」
「関係ねーよ! 俺は本気でいく!」
「相変わらずだね」
『もう喧嘩www』
『安定してる』
『カナタちゃん困惑してそう』
レースが始まる。
最初のカーブ。
燈のカート、コースアウト。
「ぎゃああああああ!!!」
「ほら」
「うるせえ!!」
『www』
『燈wwww』
『予想通り』
カナタは、笑いをこらえていた。
「せ、先輩たち、本当に仲良いですね……」
「良くないです」
「良くねーよ」
二人は即答した。
『www』
『カナタちゃんかわいい』
レースが終わる。
一位:東遊里
二位:天音カナタ
三位:日里燈
「……最下位」
燈が項垂れる。
「お疲れ様」
「カ、カナタちゃん二位!? すごいじゃん!」
「あ、ありがとうございます!」
カナタは嬉しそうに笑った。
『カナタちゃんいいね』
『先輩たちとの掛け合いいい』
『また見たい』
配信は、二時間続いた。
そして、配信終了。
同時接続数は、最終的に八万人を記録していた。
***
「お疲れ様でした!」
カナタは、深々と頭を下げた。
「お疲れ」
拓真と凛も答える。
「どうだった? 初配信」
「す、すごく楽しかったです!」
カナタは目を輝かせていた。
「先輩たちと一緒にできて、光栄でした!」
「よかった」
拓真は笑った。
「これから、頑張ってね」
「はい!」
カナタは元気に答えた。
「先輩たちみたいに、有名になりたいです!」
「なれるよ」
凛が言った。
「カナタちゃん、才能あるから」
「本当ですか!?」
「本当」
凛は笑った。
「自分らしく、頑張って」
「はい!」
カナタは涙を流していた。
***
その夜。
拓真は、ベッドで天井を見つめていた。
「後輩、か……」
自分たちに、後輩ができた。
指導する立場になった。
「俺たち、いつの間にか先輩になってたんだな」
拓真は笑った。
でも、それと同時に。
責任も感じる。
「ちゃんと、教えないとな」
拓真は呟いた。
「カナタちゃんのために」
拓真は、そのまま眠りについた。
***
翌日。
拓真と凛は、朝ごはんを食べながら話していた。
「なあ、凛」
「なに?」
「カナタちゃん、いい子だったな」
「うん」
凛は笑った。
「これから、ちゃんと指導していかないとね」
「ああ」
拓真も笑った。
「俺たちも、もっと成長しないとな」
「うん」
そのとき。
拓真のスマホが鳴った。
「お?」
カナタからのLINEだ。
『先輩! 昨日はありがとうございました! おかげで、登録者が一万人増えました!』
「一万人……」
凛が覗き込む。
「すごいね」
「ああ」
拓真は笑った。
『よかったね。これからも頑張って』
返信を送る。
すぐに返信が来た。
『はい! また一緒に配信してください!』
『もちろん』
拓真は笑った。
「後輩を育てるのも、悪くないな」
「うん」
凛も笑った。
***
その日の夜。午後八時。
配信開始。
「はーい! みんなこんばんは! 日里燈だよー!」
「東遊里です」
『きたああああ』
『今日も楽しみ!』
『カナタちゃんとのコラボよかったよ』
「ありがとう! カナタちゃん、いい子だったでしょ?」
燈が嬉しそうに答える。
「これから、ちゃんと育てていきたいと思います」
「先輩として」
遊里が笑った。
『頑張れ』
『応援してる』
「ありがとう! じゃあ、今日も配信頑張るぞ!」
「今日は何する?」
「視聴者参加型のゲーム大会!」
「また燈が勝手に決めた」
「勝手じゃねーよ!!」
『もう喧嘩www』
『安定してる』
配信は、いつも通りのペースで進んでいく。
喧嘩して、笑って、また喧嘩して。
でも、視聴者たちはそれを楽しんでいた。
世界一うるさい青春は、まだまだ続いていく。
後輩もできて。
新たな役割も増えて。
でも、変わらないものもある。
それは、二人の絆と、配信への情熱。
拓真と凛は、これからも走り続ける。
喧嘩しながら。
でも、お互いを信じて。
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