4.精霊診断。なんすかそれ。たべものですか

「今日こそ門をくぐりますよ」


「ま、俺がいるから大丈夫だろ」


 そう、大将ことクラックスさんも来ているのだ。その開拓者ギルドに用があるんだってさ。

 ……身分証持っている人、ここにいます。

 さくっと都市に入都してびっくり。とんでもない世界がそこにはあった。


 綺麗に敷き詰められた石畳。

 石造りの家に、そこに刻まれた綺麗な彫刻の数々。

 住宅、工業、商業と整理された区画。

 町を彩るみずみずしい街路樹。


 ――今までとは世界が違う。


「開拓者ギルドの方に出向いてみるか。冒険用の旅支度をする奴らが大半だ、何でも揃っているんじゃないか」

「は、はいっ」


 通りを歩くと漂ってくるパンの香り。米の臭い。食べ物が何でもある……!


「都市って凄いですね……!」


「ここは伯爵領だから相当大きいってのもあるぜ。ほれ、武器屋とか防具屋とかが出てきた。ギルドまではもうすぐだろう」


 そしてギルドへ。おおきなおおきな建物でした。


 中へ入ると人でいっぱい。受付している人、部屋に入る人、談笑している人、カフェ? バー? でくつろいでいる人。

 対応している職員もずらり。

 ひ、人がいっぱいで酔いそうです……。


「俺は個室の用意が出来たからそこで話してくる。せっかくだし開拓者ギルドに入ってみたらどうだ。ここに参加すると入れなくなるギルドとかもないからな」


 といってスタスタと上階の個室へと進んでいくクラックスさん。

 お い て か な い で ぇ ぇ ぇ ! !

 生まれたての小鳥のように追いすがろうとしますが、無碍なく蹴り飛ばされ階段をゴロゴロ転がり落ちる始末。途中でもふりんが受け止めてくれたけれどもっ。


 それで、入会用紙を提出したんですけども、魔素保有限界量が測定不能になって若干騒ぎが。あとは……。


「年齢は……5017歳、と。まあいいか」


 事務員さんが呆れた顔でつぶやきます。


「私は5000年眠った5017歳ですよ!」


「17歳はどこから来てるのさ」


「起きて3年経つから5003歳かもしれないけど、そもそも大地賛美教は永遠の5017歳教なのです。絶対に5017歳」


 起きて3年でも5017歳。

 0歳の時に5000年眠っても5017歳。

 子供を産んでも子供が孫を産んでも5017歳。

 お酒は飲みます。煙草は医薬用なら。


「そっか、自己申告制だからどうでも良いわ。んじゃ次ね」


 ……流された? 5000歳を?


 骨粗鬆症でもなかったよぉ。


 次の検査はなんだろな。


「魔にゃ:どかーんどかーん。火にゃ:なし。水にゃ:なし……」


「あれはいったい何との相性を調べているんでしょうか?」

「精霊じゃないかにゃ……コャ。魔素があっても、精霊と親和性がないと効果的な魔法や魔術を使うことは難しいって大将が言っていたのに……コャ」


 精 霊 

 な に そ れ 


「つちにゃ:なし。癒やしにゃ:なし。黄金にゃ:どっかーんどかん!」


 黄金にゃってなに? なにが当てはまったんです? 黄金ですか? 金でも出せるの。凄いなお金持ちだ。


 なにもわからないまま黄金魔術師という職業名をもらいました。


「なんでこんなことに」


「魔にゃはともかく、黄金にゃは珍しいですよ。金属を操る属性です。もしかして機械人間ですか?」


「機械なんて失礼な。私には祝福という人間しか行えない素晴らしい力があるんです。さぁ、それに関した職にして貰いましょう!」


「はぁ……わかりました。でも魔にゃと黄金にゃがあるということは忘れないでくださいね。魔法を操る精霊と、金属を操る精霊ってことは必ず覚えておいてください」


 3秒で忘れた。


 というわけで張りきって次の検査。

 最後の検査でした。その最後に一つ実施試験がありまして。


「この蓑虫を今すぐ羽化させろ? 生物の強制進化は危ないですけど、大丈夫ですか?」


 周りからOKと指示が出たので祝福を開始。


「生まれろ、生まれろ、うーまれろー」


 そして生まれました。


 蓑虫の内側についていた卵、その全ての生物が。ついてに蓑の材料になっていた木材が緑を吹き返しめきめきと成長しています。


 もちろん大混乱である。筆舌に尽くしがたい光景。



 するとそこに個室から帰ってきたクラックスさんが。


「なんだこりゃ、1階が真っ黒じゃねえか。ソフィーがまたなにかしたか」


「げふんげふん、ソフィーが虫を大発生させちゃって、殺虫ガス魔法が発射されているコャ」


「ソフィーにケガは?」


「古代服が絶対拒絶結界を自動展開しているから大丈夫だと思うコャ。さすが普通の衣服じゃないだけあるコャ」


 ……なんとか騒動を収めて。


「なんであんなになるような秘術使かったんですか!?」


 と職員さんがおっしゃりますけど、


「私の特技は祝福しかないっていったじゃないですか! そこら辺の雑木林から取ってきたのが悪いんですよ!」


 この押し問答は私の方が勝ちました。最近見たことないっていっても祝福はまだ存在する技術だもん。


 職業名を『祝福士』と無事に変更されて、とりあえず一件落着したのでしたー。



 ――ギルド付属のカフェにて


「これでみんな開拓者ギルドの一員になったんですけど、これでなにが出来るようになるんですか? 薬草やポーションの卸しですか? お金管理が楽になるんで嬉しいですねっ」


 ふわふわのクリームが載ったシェイクを飲んでる私。ちめたくておいちい。


「まあそういうのもあるんだが、全員開拓者ギルド持ちのパーティーだけが入ることのある遺跡ってものがあってだな」


 渋く珈琲ブラックで飲んでいるクラックスさん。渋いぜ。


「もふりん『荷引き馬』で登録されたコャよ。馬でもないし荷も引かないんだけどコャ」


 それはまあどうでもいいんだよとクラックスさん。


「ごほん、でだ、俺はそこそこ開拓者をやっているからそこそこ上級な遺跡にも行ける」


「おおおおお、どこへ行くんですか!?!?」


「古城」


 ……?

 …………?


「あのヴァンパイアのいる古城ですか? なんで? 行く意味は? 勝算は?」


「一番近い盗掘歴無しの遺跡だ、行くしかあるまい。多分美味しい遺跡品がかなりの量で出るぞ。ソフィーの聖なる光の祝福でも照らしてやればヴァンパイアなんて即座に死ぬ」


 考えが浅い。なんとかしないと。


「祝福の修行してからでしょうねえ。信者増やさないと作用時間が短いかもしれません。開拓者ギルド周辺なら緊急事態が多分に発生すると思うので、当分はここで布教してますね」

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