3.壊すくらいならいっそ死ね

 空中に『ログハウス』が浮かび上がって思い出しました。


「ミスターすばしっこ少年にお別れを言ってない!」


「もう無理だな。だいぶ空中にあがってしまった」


「ソフィーはスカートで『浮遊』は出来るけど『飛行』が出来ないコャ。それじゃあ戻ってくることは出来ないコャ」


「うーん、このまま去るのも寂しいですねえ」


 なにかないかな。

 小物くらい飛ばせないものかな。


「そうだっ。大将、副砲の権限返してもらいますね」


 ログハウスにある副砲、それを一つ起動し、精密ロックオン開始。


「いましたいました、ミスターすばしっこ少年。この子にロックしてっと。それでは発射、輸送弾!」


 これで恐らくミスターすばしっこ少年に「鶏肉」が届いたことでしょう。欲しいって言っていたもんね。

 輸送弾で鶏肉を飛ばしたってわけ。

 この弾なら爆発を起こすことなく、ものを遠くへ飛ばすことができる。


 さて心残りもなくなった私達はぶーんと飛んでヴェルズガルド伯爵領へ。光学迷彩が効いているから完全に侵入がバレてない。


「森のところに降りたいですねえ。大将、良いところないですか」


「開拓が進んでいるせいか森が遠いな」


「あの古城はどうコャ。使われていないし森も沢山あるコャ」


 なるほど、確かに使われていなさそうな古城があるではありませんか。


「おーあそこ都市から近いし良いんじゃないですか?」


「……いや、やめとけ」


「なんでですか、大将? 虫がいっぱいいるとか?」


 大将は暗い顔で答えます。


「魔導レーダーの反応からするとあそこはヴァンパイアの古城だ。いくら命があっても足りないだろう」


「げぇ、ヴァンパイア」


「コャに『神聖なる魂』の祝福を宿せば蹴散らせるコャ」


 いやーでもなー祝福は時間制限あるんだよなあ。


「もっと信者が増えてくれればもっと長く祝福を授けられるんだけど……」


「信者がお前一人ではな」


「実は神様なんていなくて全部ソフィーの力によるものだったりしないかコャ」


「そんなことないです! ダーイチ様はいまーす! エルフのおばあさんもミスターすばしっこ少年もきっと信者になってくれましたよっ、信者は一人じゃなぁぁい」


 まあ、そんなわけで古城は見送り。古城とは反対側の遠い方に森があったのでそこに着陸しました。


「よし、飛行モード終了。ログハウスモード開始」


ズゴゴゴゴと戦闘艦部分が沈む。これで見た目は牧場付きログハウス。

ログハウスは戦闘艦部分も併せ持っている非常にとんでもない乗り物なのだ。


「行ってきまーす」


 もふりんにまたがりながら都市へと向かいます。

 村が途中であったのですが、村民に姿を見られると軒並み家に入られ鍵をかけられました。


「なんでですかねえ。怪しさは一切ないのに」


「もふりんがデカすぎるのコャ? お馬さんサイズになればいいのかなコャ」


「確かに。パーフェクトジャイアントウマウマーンをも超える大きさのきーつねとか見かけませんよね……今度から歩いて行きましょうか……」


 もふりんが「歩くなんて駄目コャ〜! そんなの嫌コャ~! ソフィーの足はもふりんだコャ~! 一緒に行動するコャ〜!」と泣きだしたので、「そんなことしないよ、冗談だよ」となだめつつ、まあるくまあるくしていきジャンボ毛玉になったところで『赤く凄いショルダーバッグ』に収納。少し寝ていててね。


そして都市に到着。デカい! 大きい! びっくり!

城壁は分厚く高く、門は大きくて頑丈そう!


「手のひらを広げても入りませんよ」


早速もんのとこへ駆け出します。門の前には長い列が。身分確認でもしているのでしょうか。

長く待ってやっと私の番。


「身分証はあるか」


「ないです。祝福なら出来ますが」


「なんだ、スキルか? 開拓者の連中か?」


「開拓者?」


「知らないのか。開拓者ギルドに入っていればそれが身分証明になるんだが。何もないなら通行税を払ってもらう」


つまり協同組合があるレベルで人がいるんですねえ……初耳です。


「誰もそういうのは入っていないので、通行税、ですね」


「お上りさんということか。まあ、こういう大きな都市に来ないとわからない世界だろうな。lこういうシステムは寒村には存在しない。通行税は必ず払ってもらうぞ」



というわけで無念の退散。

とぼとぼ歩いているとガタイのいいにーさんに絡まれた。


「ねーちゃん、災難だったな」


 聞くと都市の外で商人をしているとのこと。


「外で、ですか?」


「ああ、外にも金が必要な人がいるからな。何でも買い取っているんだ。ねーちゃんなんかないか、高く買うぜ」


「なんか……マナポーションとか?」


赤く凄いショルダーバッグの中にはいろんな時の消耗品が大量に眠っている。

 その中であまり使わないのがマナポーションだった。魔素を回復するお薬。


「十分! 駆け出し開拓者はお金を持ってないからな。すぐに死ぬから期限なんていくらでも良い。ただのお守りだ」



 というわけでやっすいマナポーションを数個渡してお金をもらい、この日は退散。


「で、帰ってきたわけか。散々だったな」


「大将いれば撃退できたのに。明日は大将も来てくださいよぉ」


「俺は後方支援と遺跡が専門だからな。で、いわれたマナポーションだが木製瓶製はいくらでもやる。木製以外は材料が希少だから売るなよ。自分で使って瓶はここまで持ってこい。無駄に破損させるな。壊すくらいならいっそ死ね」


「ひどっ。死なないから売って良い希少なやつくださいよー。もー」


 明日は通過できますように。お休みー。

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