エピローグ
少女たちは眠るⅠ
死なないから囮として使い回す事が出来る。それがヒイングがエルピスに期待していた全てだった。蓋を開ければ、自分たちの命を自分たちで危険に晒す問題児だった。もうダメだと思い、しばらくは自主性に任せてほっておく事にした。
そしたらこの戦果だ、流石のヒイングも機嫌がよくなる。
少しは労わってもいいだろう、と地上で有名なケーキを買いもした。潜水艦の温度調整は難しいが、それくらいの骨は負ってもいい。ヒイングの中でも最大限の譲歩だ。仲間同士の助け合いは、とても善かった。
なんと言っておだてるか、考えながら一か月ぶりにヒイングは竜宮城へと帰還した。
「――何をしているんだ馬鹿どもが……!」
半裸に剥けて床に倒れ込んでいるアーディア。同じく半裸、口から泡を吹いて倒れているエリザベート。メイド服こそ無事だが、頭から地面へと埋まって呻いているヨーベル。「勝った! 拙者の勝ちだ! 拙者の勝ちだあ!」と壊れた刀の柄を握りながら手を掲げているホタル。右腕を握りしめ、プルプルと震えているリッサ。
意味がわからない。何故こいつ等は本拠地で互いを潰しあっている。仲間同士の善き助け合いは何処へ行った?
「殺されたくなければ事情を説明しろ……!」
ヒイングは実際に拳銃に手を伸ばしている。最悪竜宮城の一区画を切り離す事になっても仕方が無いと思っているのだ。
ヒイングの声を聞き、ピクピクと身体を動かしだしたヨーベルが説明を始める。
「第一回、チキチキエルピスのリーダーは私だ! バトルロワイヤル~!です」
何一つ具体的に説明していないが、ヒイングがキレていいと判断するには十分な情報だった。
「ここまで騒いでいるガキを殺したいと思ったのは初めてだ……!」
そんなお遊びの為に、竜宮城内をここまでボコボコにしたのかとヒイングは問い詰めたくなったが、それももう面倒となった。溜息を一つ、ヒイングは気を取り直す。
「察するに、リーダーを決めようとしたのか?」
「そうです。ホタル様が勝利で幕を閉じました」
「バトルロワイヤルにはリッサも参加したのか?」
「リッサ様はバトルロワイヤル終結後に勝者とじゃんけんをしました。先に三勝した方が勝つルールです」
「そうか」
頭がめり込んでいるのによく話せるな、とヒイングはどうでもいい事に感心する。
「無駄な事を。リーダーの事は既に決めている」
「……え?」
ヨーベルは間抜けな声を上げる。他の少女たちも同じだ。意識のある人間は、ヒイングの言葉に怪訝な顔を浮かべる。
「そもそもの話だ。リーダーを作ったとする。お前らは指示に従うか?」
「「「「「ううん。絶対無視する」」」」」
「従え、馬鹿ども」
予想通りの舐めた言動にヒイングの額には青筋が浮く。それをなんとか抑え、ヒイングは決定事項を伝える。
「お前らはちょっと暴走している仲間に付き合わされるくらいが向いている。だからリーダーは無い。強いて言えば、纏めての指示を出す俺がリーダーのポジションに近いと言えるな」
「そ、れ、は、な、い、ですわ!」
「ヒイングの今までのセンスの無さの中でも、ぶっちぎりで無い。恥知らずってよく言われない?」
「拙者の今までの苦労をなんだと⁉」
「ヒイング様。ヒイング様のセンスの無さもお慕いしておりますが、賛同するかは別です」
「横暴だね、横暴!」
「文句があるならかかってこい。バトルロワイヤル、なんだろう?」
「「「「「乗った!」」」」」
そして、三十秒後。
「勝者としての命令だ。個人面談を行う。後ほど、一人ずつ部屋へ来い」
傷一つ負わず全員をぶちのめしたヒイングは、土産のケーキを床に置き自室へと向かって行った。
「正直に言うと、全てが解決した後にエリザは国に戻っちゃうかも、と思ってたんだ」
面談が終わり、帰って来たエリザベートは真っ先にアーディアの部屋へと訪れた。今は入れ替わりでリッサが面談を受けている筈だ。
「あら、わたくしは今でもその可能性を捨ててはいませんわよ。ですが、当面はマティアスに任せますわ」
エリザベートは余裕を見せて微笑む。
暫定政権が国に戻り、国王に即位したマティアスが新政権の組閣を命じた。
国中に浸透していた帝国兵による暴走を危惧していたが、想像よりも静かに撤退していったらしい。帝国兵二万と英雄的界華兵の喪失、その二つを知ればむやみやたらと反抗するつもりは無くなったそうだ。
帝国はデイサスを大々的に非難し、開戦一歩手前の宣言まで行うが実際には挙兵しなかった。デイサス・エリザベート・ヒイングの関係性がどういう状態かわかってない以上、下手に手を出せなくなったのだ。どれだけデイサスが無干渉でいられるかわからないが、一時の平和は勝ち取った。
「アーちゃんの言う通りですわ。平和では物足りません。楽園、という物を作ってみれば、国に戻れる気もしますわ」
初対面と比べて、だいぶ余裕が出来た。そんなエリザベートに、もう少しツンツンしてもいいなぁと思いながら、やはりアーディアは締まりの無い顔でと笑う。
「これからもよろしくお願いしますわ」
「こちらこそ、だよ」
放送で名前を呼ばれた。アーディアの番だ。
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