砂と海のアイダⅡ
反撃に有効な手立てはもうない。下手に界華を使う物なら、この死刑執行の猶予も吹き飛ぶのだろう。それを察したエリザベートは、痛みを堪えながらヒイングに問う。
「な……んで……」
「惡い質問だな。ルールは説明した筈だ」
「っ……でも! 貴方は言いましたわ! 夢を叶えられると! 望みを叶えるってルールを!」
「仲間の望みを叶えろ、だ。誰もお前自身で叶えろと言っていない」
エリザベートの言葉に答えているが、問答はしない。自分の中で決めたルールを一方的に伝えているだけだ。
「事の推移は知っている。お前は仲間に自分の夢を託さず、自分を助けさせようとしなかった。結果はそこの運が悪ければ死ぬ人間を見ればわかるだろ」
エリザベートは、ヒイングの指の先へと目を向ける。元気そうに見えるが、肩が抉れいつ腕が捥げるかわからない、傷付いたピンク髪の少女が映る。自分なんかを助けようとした、善良なる一般市民が。
「あぁ……」
若しくはそれは、自分の当面の目標を果たせたからこその気付きかもしれない。自分が拒絶したモノの善性と優しさ。アーディアといういけ好かなかった少女への、罪悪感。
「仲間じゃ無いのなら、危険因子は取り除くに限る。お前は囮として不適切だ。慈悲はやる、お前が守りたかったものの始末くらいはしてやる」
そしてヒイングは変わらない。対象が泣こうが喚こうが、自分の中のルールに基づき敵を殺す。
「最期に、言い残す事は?」
エリザベートは赤髪の処刑人の方を向かない。自分を守ろうとしてくれた少女だけを見ていた。
走馬灯にも浸らず、王族の身分すら脱ぎ捨て、痛む首を強引に縦に振った。
「――ごめんなさい、ですわ」
「いーよ。許してあげる」
返事をしたアーディアの右手が光り、甲の烙円の紋様が変わる。ソレと同時に、ヒイングが手にしていた銃が分解されていく。
「一日に二回もお姫様を助けるのって、カッコいいと思わない?」
推移を見守っていたアーディアは立ち上がり、右腕が捥げないように抑えながらゆっくりと歩き、ヒイングとエリザベートの間に割って入る。
「ルールの事なら気にしなくていい。仲間というのが前提だ、自ら仲間でないとほざき、ルールを破ったコイツを守る必要は無い」
胡乱で面倒な奴が入って来た、とヒイングは嫌な顔を隠さずに吐き捨てる。
「私は特にルールを気にしてないよ。年頃だし」
「どういう理屈だ」
ヒイングは仄かに頭痛を覚えるが、アーディアは気にしない。
「仲間かどうか、なんて大人の決める事じゃないと思わない? 私は、仲間になりたい子と仲間になりたい」
「それで?」
「確かに、エリザベートちゃんは我儘だし意地悪だし人のいう事聞かないし猪突猛進だし自分に酔ってる悲劇のヒロイン面してるし……」
あとそれと……と動く方の指を折り畳みながら、追加で何個か悪口を並べる。
「……わたくしの事、嫌いですの?」
後ろからのエリザベートの問いに振り向き、はにかみながら答える。
「今は苦手だよ」
「苦手なら、わたくしの事を見捨てたっていいでしょう?」
「でも、私はエリザベートちゃんの仲間になりたい。かわいいし一生懸命だし、事情はよく知らないけどきっと頑張ってたし。すぐには難しいかもしれないけど、私はエリザベートちゃんの仲間になりたい」
もう一度ヒイングに向き、アーディアらしからぬ決意の表情を見せる。
「仲間の命を守れ。それもやる。ヒイングの命令何て関係なくね」
動かない右手を左手で持ち上げ、烙円を見せつける。戦う、という宣言だろう。
「だけど、仲間になりたい子の命も守るよ」
「なんて、言っているがお前たちはどうする」
臨戦態勢に入っているアーディアを無視し、他の二人へと目を向ける。
「ホタルちゃん! ヨーベルちゃん! やっちゃおう!」
ヒイング越しのアーディアの言葉に、ホタルは諦めたように砂浜に置いておいた刀に手を伸ばす。状況の不味さに冷や汗が垂れていたが、こうなった以上は仕方が無い。
「拙者達が協力しても、ヒイング殿には敵わない」
腰を下ろし、刀を構える。瞬撃で少しでも隙を作る為に。
「全力で逃げるぞ、全員で」
ホタルに次いでヨーベルも短刀を構える。失効過学が無い事を少し悔やむが、今更言っても仕方が無い。
「ヒイング様。敬愛するヒイング様。貴方はきっと、ヒイング様に阿る私より、仲間を庇う私が好きだと思うのです」
ホタルが悲壮感に満ちた覚悟なら、ヨーベルは恋に酔った乙女の心情だ。愛する男と敵対するロマンスに酔っているのかもしれない。
『もし誰かが死んだら、今そっちに向かってる潜水艦を沈める。ヒイングが帰って来れないように、ね』
イヤホンから聞こえるリッサの声は勝利を確信している。
囮の少女たちは、仲間の為に武器を取る。
その光景を一瞥し、ヒイングは煙草に火をつける。
「リッサが把握していない潜水艦が一艇も無いと思っているのか?」
『……え、あるの?』
「そして、この状況で逃げられるというのも、随分と楽観的だ。仮に俺から逃げ延びたとして、科学の医療が無ければ、アーディアの寿命はあと三日程度だがそれはどうする?」
「…………最悪、アーディア殿は諦めてもいい」
「ひっどい! ホタルちゃんにそんな事言われると傷付くんだけど!」
「だが」
やはりヒイングはにこりともしない。だが、アーディアですらわかるくらいに肩の力を抜く。緊張を緩和させるように。
「集まった奴らが仲間になっていく……善いな」
全員が集中力を限界まで研ぎ澄ませている中、一人で海へと歩いて行く。潜水艦とのランデブーまでは、まだ八時間くらいある筈だ。
「命令違反に次は無い。木の枝を集めておけ」
そうしてヒイングは海の彼方へ。遠距離から界華を使って一方的に攻撃する気では?とも警戒するが、そんな事が必要ない戦力差だと思い出し少女たちも脱力していく。
「…………助かったぁ~」
緊張の緩和と共に腰が抜けたアーディアは、そのままへたりと座り込んだ。
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