第31話:床板スライスと、最初の警告

異世界三十日目。 俺は、茂みの中で見た昨日の光景を反芻(はんすう)していた。 あの少女は、俺の食料を「誰か」に運んでいる。 俺は、この森の、見えない「誰か」のテリトリーに、土足で家を建ててしまったのかもしれない。 いずれ、種族の「長」が挨拶に来るだろう。それが友好的なものとは限らない。


「……だからこそ、急ぐ必要がある」 岩棚(拠点)は無防備すぎる。このログハウスを、一刻も早く完成させる。


俺は建築現場に戻った。 「グェ!」 グリーン1号・2号が、すでに待機している。本当に優秀な正社員だ。 俺は報酬の木の実をいつものように与えた。


「……木の実だけじゃ酷だよな」 こんだけ働かせて、現物支給(木の実)のみ。ブラックな土建屋だ。 「そのうち給料あげてあげなきゃな。焼き魚とかでいいか?」 答えが返ってこないのを承知で、二羽の頭を(恐る恐る)撫でてやった。


「さて、今日は内装だ!」 屋根と壁はできた。次は「床」と「扉」だ。 床がなければ、地下室(セラー)がただの穴ぐらのままだ。


俺は、運び込まれた丸太の一本を台座に固定する。 「炎のノコギリ(熱線)」を、カッターナイフの刃よりもさらに薄く、広く。 イメージは「スライサー」だ。 (ジュウウウゥッ!)


熱線を丸太の端から端まで、水平に走らせる。 甲高い音と共に、丸太から厚さ3センチほどの完璧な「板(フローリング材)」が、一枚、切り離された。 切断面は炭化し、黒く滑らかで、防腐処理も完璧だ。 これを量産していく。


森の奥。 いつもの切り株の上に、今日もあの少女が座っていた。 彼女は、俺が「丸太」を「板」に変えていく様を、信じられないものを見るように、ぽかんと口を開けて見つめている。 石を切り、石を薄く剥がし、今度は木を紙のようにスライスしていく。 彼女の常識では、俺はもはや「森の火の化身」か何かだろう。


俺は、切り出した床板を、地下室の穴を覆うように、家の土台(ログ壁)に敷き詰めていく。 (ジュッ) サイズが合わない部分は、熱線で瞬時にカット&補正。 地下室に降りるための「入り口(床下収納のフタ)」も、同じように板で作成した。


夕方。 ログハウスの床が、ほぼ完璧に張り終わった。 「よし、今日はここまでだ」 俺は二羽に報酬(木の実と、おまけの焼き芋)を与え、空へ帰す。


そして、いつもの大樹の根元へ向かった。 少女の姿は、もうない。 カゴが置かれている。中には、今日も山菜と「種」が入っていた。 俺は、お返し(焼き芋と焼き魚)を置いた。


だが、今日はそれだけではなかった。


俺が立ち去ろうとした、その時。 カゴが置かれていた場所のすぐ横、大樹の幹に、それが突き立てられているのに気づいた。


「……槍?」


それは、明らかに「大人のもの」と思われる、精巧な作りの木の槍だった。 柄(え)は俺の背丈ほどもあり、磨き上げられている。 そして、その穂先は……鋭く研がれた「黒曜石」だった。


それは、威嚇のようでもあり、力の誇示のようでもあった。 あるいは、「贈り物」かもしれない。 だが、俺には分かった。 これは、あの少女の保護者――あるいは「長」からの、最初の「挨拶」だ。


「……来たか」


俺は、槍を抜くことも、触れることもしなかった。 ただ、その黒曜石の穂先をじっと見つめ返した。 いよいよ、対話(あるいは対決)の時が近い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る