『無限収納』をゴミと罵り追放した元パーティが崩壊した頃、俺はアイテム合成と【世界整備】で英雄になっていた。

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第1話 追放された荷物持ちと、世界を裏切る倉庫

「アレス。お前とはここでお別れだ」


 鋭い剣筋を持つ金髪の美男子、ゼノス・ブレイドは、冷たい眼差しでアレスを見下ろした。ここは、王国から遥か東端、魔境との緩衝地帯へと続く寂れた街道の只中だ。


「わかっているよ、ゼノス。とうとうこの日が来たか」


 アレス・クロノスは、表情一つ変えずに答えた。彼の体格は平均的で、武器らしい武器は持っていない。ただ、腰には常に地味な革製のポーチ――『無限収納(アイテムボックス)』の起動媒体――を下げている。


「悟っているなら話は早い。『無限収納』。容量無限、収納物は何年経っても劣化しない。結構なチートスキルだとは思うがな」ゼノスは鼻で笑った。「だが、剣を振るうことのできない、魔法すら使えないただの荷物持ちに、勇者パーティの戦力を割く余裕はない」


 ゼノスは一歩踏み出し、アレスに威圧感を叩きつける。


「俺たちが求めるのは純粋な武力だ。強さで敵を捩じ伏せることこそが、勇者の道だ。お前のような策略や準備に長けた非戦闘員は、いつまで経っても俺たちの足手まといでしかない」


「小細工など無用だ、と言いたいわけだね」アレスは冷静に状況を分析した。「しかし、君たちが今この辺境で苦労している資源の供給や、僕が管理していた流通ルートの維持について、本当に考えているのか?」


「それは大臣殿がどうにかする」ゼノスは即答し、剣に手をかけた。「お前の管理していた物資など、代わりはいくらでもいる。お前は不要だ。いいか、アレス。剣を持たぬ者に、戦場に立つ資格はない」


 勇者パーティの他の面々は、口を開くことなく、ゼノスの決定を是とした。アレスの『無限収納』がどれほど便利でも、彼らが重視するのは「直接的な戦闘力」だった。


「わかったよ」


 アレスはただ、小さく頷いた。彼は去り際、アイテムボックスから必要なサバイバルキットだけを取り出す。ゼノスたちはその行為すら無視した。荷物持ちの分際で、と彼らは思っていたのだろう。


「せいぜい、辺境の隅で静かに朽ち果てるといい。もう二度と、我々の前に現れるな」


 ゼノスの冷酷な言葉が、アレスの背中に突き刺さった。アレスは振り返らなかった。この追放は、彼にとって長年の不満と、真の力を隠蔽するための「解放」でもあったのだ。


「残念だよ、ゼノス。僕のスキルが、ただの荷物持ちで終わるとでも思っていたのかい?」


---


 追放から三日。アレスがたどり着いたのは、旧アヴァロン王国最東端の集落『鉄錆の門(アイアンゲート)』だった。その名の通り、防御壁は常に魔物の血と雨に晒され錆びついており、ここはまさに魔境への入口だった。


 集落の中心部にある、簡易的な酒場兼商館で、アレスは一人の行商人と出会った。


「あんた、新顔だね。しかも随分と装備が地味だ。そんな格好でこの辺境を歩くとは、命知らずか、よっぽどのバカか、どちらかだ」


 大きなゴーグルを頭に乗せた小柄で機敏な女性、リーナ・バローネが、アレスの対面に座った。彼女は辺境を行き来する独立した行商人だ。


「どちらでもないさ。僕はアレス・クロノス。職を失った者だよ」アレスは冷静に答える。「ここでは、食糧や薬草の仕入れはどうなっている?」


「仕入れ? 正規ルートは腐敗した王国の大臣様方が握り潰しているよ。まともな物資は入ってこない。だから、生き残るためには非合法な手段も必要だ」リーナは皮肉めいた笑みを浮かべた。「あんたが持ってるその『無限収納』、噂には聞いているよ。でも、こんな危険な場所で、ただの倉庫番スキルなんて何の役にも立たないね」


 リーナの言葉は事実だった。辺境では戦闘能力こそが全て。しかし、アレスは落ち着いていた。


 この数日間、彼は追放後に得た自由な時間を使って、『無限収納』の内部空間を徹底的に調べ上げていた。そして、驚愕の真実を発見したのだ。


(収納空間内の時間は完全に停止している。そして、その停止した空間内で、アイテム同士の属性干渉が起こる……)


 アレスは、以前適当に放り込んでおいた複数の薬草と鉱物を、ボックス内で意図的に接触させてみた。結果、それらは瞬時に融合し、常識では考えられない濃度の回復ポーションへと変質していた。


 この能力こそが**『時空干渉:合成(アルケミー・マージ)』**。


 ただの倉庫ではなく、そこは時間を止め、物質の属性を合成・強化するチートな「ラボ」だった。


「僕のスキルは、倉庫番なんかじゃないさ、リーナ」アレスは静かに言った。「これは、戦略を実現するための、戦術そのものだ」


---


 その日の夜、集落の警鐘がけたたましく鳴り響いた。


「魔物だ!『凍結の回廊』から、大規模な群れが壁を破ろうとしている!」


 住民たちは恐怖と混乱に包まれた。集落のすぐ外は強力な魔物が出現する魔境だ。物資不足で弱体化している自衛団では、防ぎきれない数だった。


「強化ゴブリンと大型のコボルト群だ! このままでは明け方までもたない!」自衛団の隊長が絶望の声を上げる。


 リーナが血相を変えてアレスを振り返った。「アレス、逃げないと! あんたには戦えないだろう!」


 アレスは冷静だった。彼は酒場の隅で、アイテムボックスのポーチに手をかける。


「逃げる必要はない。僕はもう、準備を終えた」


 アレスの頭の中では、追放された時にゼノスが放った言葉が反芻されていた。

 ――「剣を持たぬ者に、戦場に立つ資格はない」


(戦闘に参加できない? いいや、僕の戦い方は、最前線で剣を振るうことじゃない)


 アレスは、アイテムボックスに意識を集中した。彼は、これまで『アルケミー・マージ』で合成していた大量のアイテムを、特定の座標に配置し始めた。


 必要なのは、単なる倉庫機能の拡張ではない。この無限の空間を、戦闘のための精密な生産拠点として完全に再構築する必要があった。


「よし、今だ」


 アレスが深く集中すると、彼のアイテムボックス内に、時間停止の法則を無視して、隔離されたいくつもの小空間が構築された。一つは高温を保つ鍛冶場、一つは常に液体を冷却する錬金術工房、そして一つは戦場と繋がるゲート。


 **『空間整備(ファクトリー・ゲート)』**の能力が開花した瞬間だった。


「僕の作る『ソレ』は、世界の常識を壊す。リーナ、君にはその『常識を壊す物資』を、正確に必要とされる場所に運んでもらう」


 アレスはアイテムボックスのゲートから、常識では考えられない数の、異常な粘度を持つ【合成爆薬ポーション】と、複数の属性強化が施された【規格外のトラップ部品】を次々と取り出した。その数は、集落の全備蓄を遥かに凌駕していた。


「このトラップは防御壁の隙間に。このポーションは、君が持っている投擲用の皮袋に仕込んでくれ。今から、僕の指示通りに動けば、一人の死者も出さずに、この防衛戦を終わらせることができる」


 アレスの緻密で理知的な眼差しは、目の前の魔物群ではなく、戦場全体を俯瞰していた。彼の準備と策略が、辺境の運命を変えようとしていた。


「さあ、始めよう。追放された荷物持ちが、どのように戦場を支配するかを、見せてやる」

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