正体
帰り道、昨日見たあれがいないか用心しながら歩いた。
電信柱の裏や、暗い路地裏に嫌な予感は感じたが黒い靄は見えなかった。
神社に到着して「そういえば・・」と思った。
神社はあるが、ここに家らしきものはない。
「いや・・ここ、あいつの家じゃないよな?」
神社の中に住んでいるってことは無いだろうし、御社殿には人が住む部屋があるほど大きいとは思えない
そうなると、神社と家は繋がっていたりするのか?
そんな事を考えながら境内を見渡す。
社務所らしき建物はあるが、建物の電気はついていないし窓も締め切られ人が住んでいるような感じではない。
御社殿の裏に家でもあるか?と裏に回ってみたが何も無かった。
そこで、いよいよ困ったぞ・・と途方に暮れた。
「あいつの家・・どこだ?」
神社の近くに家があるのか?一軒一軒確認する?
唐糸と連絡先を交換するんだった・・と後悔していると不意に生暖かい風が頬を霞めた。
何故か、その風に胸騒ぎを感じて顔を上げ周りを見渡した。
すると、赤い鳥居の向こう側に黒い影が見えたような気がして視線を止めた。
「え・・」
夕日に照らされた陰ではない。そこにいる黒い「ソレ」には見覚えがあった。
昨日俺の部屋の前にいたのと同じだ・・
一瞬で全身に悪寒が走った。
怖いのに、目を逸らすのはもっと怖くて「ソレ」を凝視する。
『・・・っ・・っ』
黒い靄はユラユラ左右に揺れているのだが、時折顔の中央が大きく揺らぎ何か言っているように感じる。
だが、鳥居を潜ろうとはしない。いや、おそらく潜れないのだ
「ここに居れば・・安全か・・」
強張っていた体から少し力が抜けた
とはいえ、そいつが消えなければ、俺は帰ることができない。
「くそ・・あいつと連絡先交換しとけばよかった・・」
いやまてよ・・小鳥遊なら連絡先知っているか?とスマホを取りだした時
「なんだ?こんなところで何している」
「うわ!」
急に背後から唐糸の声がした
驚いて振り返ると、俺の直ぐ後ろに立っていた。
「あ・・」
声が聞こえるまで、足音も気配も感じなかったのに・・
「お前、いつの間に・・」
驚かせるなと言いたかったが、それを制するように人差し指を唇に当て「シっ」と言った。
そして「ソレ」を睨みつけ
「お前の来るところじゃないだろ」
唇に当てた人差し指をゆっくり移動して上に突き立てヒュイっと空気を切るように振り下ろした。
その瞬間、それはまるで刀に切られたかのように二つに分かれ、黒い霧となり消えた
「は?・・はは・・・」
一瞬で消えたソレに俺は乾いた笑いが漏れた。
何それ・・何で、そんなんで消せるんだ?
こいつは、本当に何者なんだ
神社の息子だからできるってことじゃないよな?
「お前はいったい・・」
「ううん・・これは、俺のせいかもな~」
はあっとため息をつきながらゆっくりと俺に近づいてきた。
「俺の家に来ていた奴だ・・なんなんだよあれ」
「ちゃんと魔除け渡したのにな~・・裏目に出たか。雑魚だととりあえず付いてくるからな」
溜息をつき、眉を顰めた。
「何を言っているんだ?意味が分からないってか、お前マジで何なの?」
「マジで、何なんだろうね?ってかお前もな」
ククっと笑いながら俺の目の前までくると顔をジッと見てきた
「な・・なに?」
黒い瞳に見つめられ、なんだか分からないがゾクっと背筋に悪寒のようなものが走った。
「目は良いんだよな~でも、見えるんだろうけど・・幽霊はあまり見えてないのか?」
「・・・・・・」
「さっきのあいつは、雑魚だけど、そこら辺の幽霊とは違うからな」
「幽霊は・・死んだ人の事だろ?」
俺が見ているモノ全てが幽霊とは思わないが・・でも、幽霊と言われているものは、もっと人間のような形をしている。
「あいつも、元は同じだ」
「同じ?あんなのが?」
俺が見えている「ソレ」は人の形をしているようで、そうではない。
姿かたちは様々だ
さっきのやつは、顔は真っ黒で手と足は妙に細く蟲の足のように見えた。
そして身長は高く胴体は膨らんで見えて、気持ちが悪い。
眉を顰め唐糸の顔を凝視した。
「結局のところ・・なんなんだよ」
「集合体って感じかな」
そう言って、目を細めながら俺の顔をジッと見つめた。
まるで何かを見定めるような目だ。
「神社の息子だから見えるのか?」
「ンなわけねーだろ」
フンっと鼻で笑った。
「生まれつきって感じ?」
「・・・ってか、俺に何か用あってきたんじゃないの?」
言われて、頼まれたことを思い出した。
「担任からこれ渡せって言われたんだよ」
鞄からプリントを取り出し渡した。
「どうも」
頭だけペコっと下げると、踵を返し歩き出そうとした。
「なあ・・ちょっと話したいことあるんだけど・・さっきのアレの事で」
その背中に話しかけると、歩く足を止めた。
太陽が沈み、辺りが薄暗くなってきている。
この近くにスタバがあったかな・・と考えていると
「俺の家でいい?」
振り返り、俺を見た後にまた前を向き歩き出した。
「え?・・いいの?ってか、お前の家どこ?」
「は?ここに決まってるだろ」
そう言って神社を指さした
「じ・・神社に住んでるの?」
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