第2話
「あの…。何か、お困りでしょうか?」
急に女性の声がし、振り返ると、20代前後くらいだろうか。肩程までに伸びた金色の髪に、赤のカチューシャ、碧眼の女性が首を傾げていた。
彼女の頭上を見ると、絶望レベル34。
なるほど、34レベルがどれくらいかは知らないが、何かしら問題を抱えているといったところか。
「ククク、確かに俺は今困っている。が、あんたも困っていることがあるんじゃないか……?」
「えっ?た、確かにそうですけど……。なんでそれを?」
「頭上のこれ、34って数字が出ている。他の人より数字が高いだろ?」
「え!?頭上?何かありますか……?」
彼女は天を仰ぐように頭上に視線を移す。
なるほど、こいつには絶望レベルとやらが見えていないみたいだ。
もしかして俺にしか見えていないのか……?
彼女の頭上の絶望レベルが35に上がる。
っ!?……まさか、俺に困惑して絶望レベルが1上がったとでもいうのか?
「あぁ、いや。すまない。なんでもない」
「そうですか……」
平静を装う。なんとか誤魔化せたようだ。
「グヘヘ……。俺でよければ、あんたの困っていること、聞こうか……?」
彼女は少し考えると、話始める。
「初対面の方に、こんな話するのはどうかと思うんですが……」
すぅーっと空気を吸い込み、彼女は続ける。
「私の実家、お花屋さんなんですけど、売り上げが悪くて。もう店も畳まないとって話になっていまして……両親が借金もありまして……」
「……なるほどな。将来への不安が拭いきれないか」
「そう、ですね……」
彼女の絶望レベルが31に下がっている。
まさか、この女。現状を話すだけで楽になってやがるのか……?
それにしても、花屋か。バイトで少し手伝ったことはあるが、力になれるだろうか……?
「ククク…。その花屋とやら、案内してくれよ」
「え?あ、いいですよ。ちょうど帰るところでしたので……」
俺は少女についていくことにした。
――
彼女は、おおよそ花屋には見えない緑に覆われた建物に入る。
「ただいまー!パパ―?いるー?お客さん連れてきたよー!」
奥から「おかえりー」という気の抜けた声が聞こえてきた。
彼女と同じ、金色の髪、碧眼、シャツにジーンズ。エプロンを着けた中年男性が出てくる。頭上を見て見ると、絶望レベル45の表示。
「はいー、いらっしゃい!お客さんとは珍しいなー」
「ククク……。客じゃないよ、俺はここに来たばかりで一文無しなのさ」
「なんだ、客じゃないのか……」
男性は肩を落とす。
「俺は案内してくれとしか言ってない……」
「あ、すみません!てっきり、花を買ってくれるものだと思ってました……」
女性は、男性と同じような仕草で肩を落とす。
「グフフ、潰れかけの花屋と聞いて、一目見たかっただけさ……」
彼女や男性の落ち込む姿を見て、胸が高鳴る。
「そう、ですか……。」
彼女の絶望した表情に、思わず吹き出してしまう。
「フハハハ!……俺、ここに来たばかりで行く当てもないし、暇だから、今日だけでいいからここで働かせてくれない?タダでいいよ……」
気付けば俺はそう、口を開いていた。
男性が驚いた様子で聞き返す。
「ここで働く!?しかもタダ!?」
「グヘヘヘ……どうせ潰れそうなんでしょ、タダだし、なんでもいいでしょ」
男は困ったように首を傾げ、腕を組む。
少し考えたかと思うと、俺の目を見て言う。
「そうだな、これ以上、損はしないだろうし、やってみてもいいよ。本当にタダでいいのかい……?」
乗ってきたな、このおっさん。お前らに地獄というものを見せてやろう。
「あぁ、いいよ。そのエプロン、もう一着あるかい?あと鎌も欲しいな」
「あぁ、ちょっと待っててくれ」
男性は店の奥へ姿を消した。
目を丸くしてこちらを見ていた女性が、口を開く。
「えっと、あなたは一体……」
「ククク……。俺は希望ヶ丘聖人、マサトって呼んでくれ」
「キボウガオカマサト……?変な名前ですね?」
「そうだろう、ククク……。君は?」
「私はアリスって言います。マサトさん、よろしくお願いします!」
「アリス、か……。良い名前だね」
俺は、上がりそうになる口角を抑えるのに必死だった。
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