自称クズ、聖人やってます ~ざまぁみろ。絶望さえも奪ってやったぞ~

杞憂谷

第1話

俺の名前はマサト、稀代のクズだ。借金をして、一時的に海外に逃亡している。


今もこうして、紛争地域で貧しい奴らを操り、労働ってやつを教えている。


こいつらを自立させて、豊かにして、勉強させてやるぜ…。苦悩するあいつらの顔を想像するだけでも、口角が上がる。


俺の計画は完璧だ。


「おい、マサト。休憩にしようぜ」


「ククク……。そうだな。井戸も完成したことだし、こいつらに水をガブ飲みさせてやろうぜ……」


「相変わらず変なやつだな……。みんなー!休憩だ!」


彼の一声で、畑で作業をする村人たちは引き上げる。


村人たちは井戸から水を汲み上げている。いい気味だ。水汲みは重労働だからね。ククク…。


「それにしても、あと一週間でマサトともお別れか。名残惜しいな。日本でも連絡とり合おうな」


「フハハハ、当たり前だ…。たまに連絡してお前の自由時間を消し飛ばしてやるさ…」


「ははは、頼むよ。暇なときでいいからな。お前は借金返さないといけないみたいだしな」


「ククク……。バイトを掛け持ちしてすぐに返すさ……。そして、また借りてやるのさ」


「また借金して海外ボランティア!?心底人助けが好きなんだな……」


「貧しいやつら、不幸なやつらを見ると心が躍るんだよ。フフッ」


「はいはい……」



遠くから戦闘機の音が聞こえる。村人が騒がしくなる。


このままじゃまずい!


俺は声を枯らす程の大声で叫ぶ。


「おい!女子供、動けない年寄りを優先的に穴に避難させろ!」


自然と体は動いていた。


俺は幼いガキ共を抱えて、塹壕に放り込む。


クッソ、なんてこった。爆撃が来る。


俺は村を走り回り、危険を知らせる。


子供を抱きながら、年寄りを塹壕へ速やかに案内する。


小さな村なのが幸いした。あらかた村人の避難は終わったようだ。


俺も塹壕に入ろう。


そう思った時だった。


一人の女性がパニックになっている。どうやら娘が見当たらないようだ。



……誰も死なせねぇよ。お前らを長生きさせて、たくさん苦労させてやるんだからよ。



「マサト!どこ行くんだ!もう無理だ!」


その制止を無視する。俺は引き返し、村の方へ走る。


既に爆撃は開始されており、辺りは火の海。轟雷のような音が鳴り響く。


そんなことには目もくれず、俺は走った。


確かあのババアの家はこの辺だったよな……。


少女の泣き声が聞こえる。その方向へ走る。


いた!


「おい!ガキ、しっかり捕まってろよ!」


少女を抱きかかえ走る。既に肺が張り裂けそうだ。呼吸が浅くなる。


足を止める訳にはいかない。穴にさえ辿り着けば……!



「走れ!マサト!」


遠くから声がする。うるせぇな、こっちだって必死に走ってんだよ。


爆撃は鳴り止まない。


頼む、間に合ってくれ……!


こんなところで死ぬわけにはいかねぇんだよ!……


……。


「キャアアア!」


抱きかかえている少女が叫び声を漏らす。


その刹那、背中から胸にかけて信じられないほどの激痛が走る。


おい……うそだろ……?


まじか……。


俺の胸から突き出たこれは……。胸が焼けるように熱い。


俺は、転ばないように少女を地面に降ろす。


膝をついたまま、塹壕を指して、


「い、ってくれ……」


思うように声が出ない……。


俺の血を浴びた少女は背を向けて走り出す。


あのガキ、トラウマだろうな……。


「マサトオオオオオ!」


絶望しやがって……。そんな顔するんじゃねぇ……。


俺は胸から突き出た、朱に染まった何かの破片に触れる。


視界が歪み、暗くなる。


少女が塹壕に入る瞬間を見届ける。



よかった、お前らじゃなくて俺で……。



――


次の瞬間、ざわめきの中にいた。


……っ!?


俺はベンチから起き上がり、周りを見る。


ここは、広場……?


俺はパッと目を見開いた。


俺は死んだはずじゃ……。


見知らぬ街角、石畳、異様な服装の人間たち。


そして……


な、なんだ、あれは……?


街を行く人々の頭上に、ぼんやりと文字が浮かんでいる。


目を凝らしてみると「絶望レベル0」「絶望レベル1」と表示されている。


「フハハハッ!……これは、面白い……」


俺の唇が歪む。



「ククク……どうやら、まだまだ俺に、不幸や絶望を見せてくれるらしいな……!」

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