第34話 恐怖を刻め
……本当に、自分が嫌になる。
アティナ様を助けたくてここに来たのに……アティナ様が守りたがっていた西部の人達を守ることも出来なくて、ローラさんに全部丸投げして。
そうまでして戻って来たのに、結局傷付けた。
「メ……リリアナ、様……」
アティナ様が、泣いてる。
ルルーナ様も、怪我をしてるのか足下がフラついてる。
カリル君も……あの様子だと、いつ殺されてもおかしくない状態だったと思う。
ううん、実際、殺される寸前だった。
私が防がなかったら、あの見るからに物騒な“機関銃”で……間違いなく、みんな蜂の巣にされていただろう。
ああもう、本当に……情けない。
『アティナ様、ルルーナ様、そこにいてください』
目の前の敵を見据えたまま、背後の二人に語り掛ける。
二人を挟んで更に離れたところに倒れているカリル君の拘束を遠隔で解除し、風の魔法でアティナ様の下まで運びながら……ただ、一言。
『すぐに、終わらせますから』
これ以上、誰も傷付けさせてなるものかと、自分自身に誓うように。
「っ……大した自信だなぁ、やれるもんならやってみやがれ!!」
敵が、また機関銃を構えて私に向かって乱射する。
火薬の破裂音と共に襲い来る、暴虐の嵐。
けれどそれは、私の展開している白い霧に飲まれると、全て失速したりあらぬ方向に曲がったりして、一発たりとも私の下まで届かなかった。
「バカな……なぜ通じねえ!? この弾丸は、どんな魔法だろうと防げねえはず……!!」
『
対物理結界と一口に言っても色々あるけど、一番ポピュラーなのは“指定エリアを通過しようとした物体を強制停止させる魔法”だ。
物理的な壁を構築しようとすると、どんな属性の魔法でも展開に時間がかかるけど、これならほぼノータイムで作れるし、何より光や音は透過する。
たとえ全周展開したとしても、周囲の状況把握に支障が出ないんだ。
ただし、結局のところ“対象物に魔法をかけて防いでいる”ことに代わりはないから、強弱に関わらず魔法の影響を受け付けないグレイアース製の武器は防げない。
だから。
『物理的な障害物があれば、その弾丸は届かない』
私が指を鳴らすと、霧に偽装していた“盾”の姿が露わになる。
大気中の水分をかき集めて作った、廊下を埋め尽くす水球の群れを。
『水は、見掛けによらず盾として優秀です。街一つ吹き飛ばす戦略級魔法も、池に飛び込むと無傷で切り抜けられることもあったりしますからね』
水を空中で保持するための魔法を撃ち抜かれないために、実は床に魔法を仕込んであったりする。
前にルルーナ様とデートに行ったレストランの、料理に使われていたお遊び魔法を参考に組んだんだけど……この感じなら、問題なさそうだ。
こいつにも、バレてないみたいだし。
「そうじゃねえ!! 何でそれを……この武器の対処法をてめえが知ってやがる!?」
『……? 調べたからですけど。ラットンが使っていた銃の仕組みを』
「は……?」
ラットンの銃を解析した限り、特に魔法の力に頼らず、本当に火薬の力で撃ち出す紛れもないただの拳銃だった。
あの仕組みでは、たとえ対物ライフルを作ったとしても魔導師の……特に、王宮魔導師クラスの対物理結界は容易に突破出来ない。
これから戦争しようっていう国の最大戦力を想定するなら、あんな武器じゃ力不足だ。
だから、考えた。
私なら、銃を使ってどう魔導師を殺すかを。
『いくつかパターンは考えましたが……アティナ様達が《
「待て、待て、待て待て待て!! じゃあ何か? てめえは魔法に頼らずに魔導師を殺す方法を、大真面目に考えてたってのか!? 魔導師の癖に!?」
『……それ、何かおかしいですか?』
私は、魔法なら誰にも負けない。負けるわけにはいかないと思ってる。
でも、魔法が何よりも優れた絶対の技術だなんて思うほど、自惚れてもいない。
魔法がなければ、ただのコミュ障陰キャ魔法オタクでしかない私は、極論大人の男と殴りあっただけで死ぬんだから。
『考えるでしょう、普通。自分が死ぬ可能性くらい』
「っ……!! この……魔導師の癖に……!!」
何が彼の逆鱗に触れたのかは分からないけど、無駄なお喋りのお陰で時間は十分に稼げた。
水の盾を一度は霧だと誤認させ、わざわざ目の前で種明かししたのは、何もこの男をおちょくって自分の考えをひけらかしたかったからじゃない。
私の切り札が完成するまで、待っていたんだ。
「なら、コイツならどうだ!! ……え? な、ない? 俺の武器が、ない!?」
《
相手の五感を、あらゆる認識全てを支配するこの魔法の影響下で、武器なんてただの一つも使えるとは思わないで。
「くそっ! くそっ! くそっ!! 一体、何がどうなって……!? く、来るな、来るんじゃねえ!!」
自分で作った水の盾の中を、ゆっくりと進んでいく。
殊更に、恐怖を煽るように。
その感情が、私の武器になるから。
「っ……う、うわぁぁぁ!!」
唯一見付けた……私が見付けさせた拳銃を手に、男は何度も発砲した。
結界に防がれることもなく、全て私に直撃して……それでもなお、微動だにせず眼前に到達する。
そんな私を、恐怖一色に染まった顔で呆然と見つめながら、名前も知らないその男は叫んだ。
「この……化け物、が……!!」
『その化け物を怒らせたのは、あなた達です。だから……』
その恐怖を胸に刻んだまま、永遠に眠れ。──《
こうして私は、アティナ様を狙った連合国の刺客を打ち倒し、何とか命だけは守り通した。
これを最後に、連合国も完全に手を引いたのか。それ以上、特筆するような事件が起こることもなく……。
西部地域一帯を巻き込んだ一連の事件に、ようやく終止符が打たれたのだった。
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