第28話 酔っ払いのお姉さん魔導師
仕事としての魔導師……特に王宮魔導師と呼ばれる人達は、基本的に男所帯だ。
対魔物、あるいは対敵国との戦場の最前線で戦う人達だから当たり前といえば当たり前なんだけど……だからこそ、そんな男所帯の魔導師職に就いた女性は“魔女”と呼ばれ、特に同性から尊敬の念を集めている。
“蒼炎の魔女”ルミア様に憧れたのも、私が目指したい魔導師像のロールモデルとして、一番良いと思ったからだ。
結局、欠片も似てないスタイルになったけど。
とにかく……だからこそ私は、“無貌の魔導師”は男なんだと思い込んでいたし、今も目の前のお姉さんが本物かどうか、かなり疑っている。
人手も何もかも足りない時に、頼るべき王宮魔導師がこんな呑んだくれの酔っ払いだなんて、信じたくなかったから。
「まあまあ〜、こんなところで立ち話もなんだし、中へどうぞ〜」
何とも気の抜ける声で小屋の中へ招かれて、私はどうしようか正直迷った。
戦力として当てにならないなら、もうここに用はないし……さっさと次の街へ向かった方が……。
「あ。この暑苦しい“衣装”は脱がせちゃうね〜、肩凝っちゃうでしょお?」
「え……?」
ローラさんがそう言った時には、既にその手に私の仮面が握られていて……当然、私が纏っていた幻影も解除されていた。
一体、いつの間に……!?
「だーいじょーぶ、同じ魔導師仲間だし、秘密はちゃーんと守るよ、“仮面”のお嬢ちゃん?」
「…………」
少なくとも、腕前は確かみたい。
当たり前といえば当たり前の事実を再認識した私は、返された仮面をネックレスに戻し、小屋の中へ。
……予想通りというかなんというか、ゴミだらけな上に酒臭い。
「散らかっててごめんねぇ〜、今片すからさ〜」
そう言って、ローラさんが手をさっさっと振ると……風の魔法で、小屋の真ん中にあったテーブル周りのゴミが全て、壁際まで吹っ飛ばされていた。
酒の臭いも、消臭魔法で臭いの上から強引に消し飛ばすという力技を見せ付けられ……私は、あまりの既視感に頭痛を覚える。
……うちのお姉ちゃんと、同じことやってるよ。
「ローラさん……消臭魔法は、臭いの元を絶たないと一時凌ぎにしかなりませんよ……? ゴミだって、これを片付けたとは言いません」
「細かいことはいーの〜、どうせここには寝に帰るだけなんだし〜」
ダメだこの人、聞く耳持たない。
でも、今はローラさんの生活習慣についてとやかく言ってる場合じゃない。
ローラさんの対面に腰掛けた私は、意を決して自分から口を開いた。
「……ローラさん、今、西部が大変なことになってるんです、だから……」
「うん~、知ってるよ〜?」
「だから……って、え?」
知ってる……?
じゃあ、なんで……。
「『なんでこんなところで呑んだくれてんだ』って……そう思った〜?」
「…………」
否定出来なくて、私は黙り込む。
そんな私に、ローラさんは構わず話し続けた。
「私はね〜、決めてるの。疲れた日の夜は酒を飲んで、それが抜けるまではキッチリ休む。万全になるまで動かない、ってね〜」
「そ、そんな悠長な……!」
「私達が倒れたら……誰が、インラオン連合国からこの国を守るのぉ? サンフラウ家が奪還されたくらいで、連中は諦めたりなんかしないよ〜?」
間延びした口調はそのままに、ローラさんはそう言った。
決して強い口調じゃないのに、有無を言わせないそのセリフに、私は言い返す言葉もない。
「仮面ちゃん。私達魔導師は、“英雄”ではあっても“神様”じゃないんだよ〜? 人にはね、出来ることと出来ないことがあるの。なんでもかんでも、節操なしに手を伸ばせば……いつか、壊れちゃう」
「……分かりました」
ローラさんの言っていることも、一理ある。
サンフラウ家を乗っ取ろうとしていたラットンは捕まえたけど、ここから更に巻き返すための作戦が控えている可能性があるって言われたら、私には否定出来ないし……そもそも、その可能性をまったく考慮していなかった自分が、少し恥ずかしいくらいだ。
「なら、ローラさんはもしもの時のために、しっかり英気を養っておいてください。その分、私が頑張ります」
だからこそ、私が……非正規の魔導師である私が、今は気張る時だ。
そう思って、椅子から立ち上がろうとして……とんっ、と。
額に指先が触れて、それ以上体が起き上がらなくなった。
「なぁ〜んにも分かってないじゃん……私はね〜? あなたに“休め”って言ってるんだよ? 仮面ちゃん」
「え……? いや、そんな。まだ一徹した程度ですし、まだまだ動けますよ、これくらい大したこと……」
「さっき仮面を奪った時と、今。“蒼炎”に勝つほどの実力があるはずのあなたが、この程度の動きに反応すら出来なくなってるのに〜?」
「っ……」
私はその指摘に、二重の意味で驚いた。
私の疲労度合いを見抜かれたっていうこともそうだし……ルミア様が、“賊”じゃなくて“仮面の魔女”に倒されたってことを、把握されているってことにも。
「でも、困っている人がいるって分かってて、じっとしてろっていうのが難しいなら……そうねえ〜、仮面ちゃん、この後回ろうとしてた街のリストとか、誰かの命令書とか、持ってたりする〜?」
「あ、はい……一応……」
言われるがまま、私はルルーナ様から預かった命令書を差し出した。
見せていいのかどうか、迷わなかったかといえば嘘になるけど……でも、もしローラさんが連合国に寝返った存在なら、私はもうとっくに死ぬか、気絶させられるくらいはしてるはずだから。
「ふんふん……あーこことぉ……こっちも……後こっち……」
テーブルの上で、命令書に次々と横線を引いている。
何をしているのかと思っていたら、ローラさんはそれを改めて私の方に差し出して、あっけらかんと言い放った。
「私がもう回ったところは、消しといたから〜」
「えっ!? ……こ、こんなに!?」
私が徹夜してまで駆けずり回ったよりも多くの街で、ローラさんは既に救援活動を行っていたらしい。
それでいて、私と違って自分が休む時間までしっかり確保するなんて……凄すぎて、理解が追いつかないよ。
こんな酔っ払いが役に立つのかな? なんて思ってすみませんでした……。
「これで、仮面ちゃんの肩の荷もだいぶ降りたでしょ〜? ほら、お姉さんと一緒に休みましょ〜?」
「…………」
ベッドに移動してこちらを手招きするローラさんだけど……それでもまだ、素直に休むことに少し抵抗がある。
その場から一歩も動けないでいると、私の身体は突然の浮遊感に襲われ……気付けば、一瞬でベッドの中に収まっていた。
えっ、何が起きたの!?
「よーしよし〜、いい子いい子〜」
戸惑う私を抱きながら、ローラさんは私の頭をよしよしと撫でる。
露骨な子供扱いに、文句を言おうかとも思ったけど……不思議と、嫌な気持ちはしなかった。
「よく頑張りましたね、仮面ちゃん。大丈夫、お姉さんがいるから……今は、ゆーっくりと、お休みなさい〜」
まるで子守唄のように響く、その優しい声色に促されて……自分でも思っていた以上に疲れ果てていた私の身体は、あっさりと睡魔に呑まれて意識が遠ざかっていく。
あ、そういえば、私……まだ、自己紹介すら、してなかったな……。
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