stair. (High sensibility.)

春嵐

第1話

踏み外してしまった。そういう感覚が、あった。


普通に生きて、普通に過ごしてきた。


その普通が、ぽろっと、こぼれ落ちたような。そんな感じ。


「うん。ごめん。ごめんね。うん」


彼氏と別れる。浮気がちな男だけど、顔がよかったので我慢していた相手。別れるという連絡だけ入れて、来た電話に軽く挨拶をして。連絡先をブロック。


うわ。


自分の薄情さに、なんか、すごく萎える。


連絡先消しただけで別れられるぐらい、身体のどこかで、脳内のどこかで、彼のことを無意識に切り離していた。それに、今、気付いてしまった。


彼氏、かわいそう。わたしの本当の名前も住んでる場所も連絡先も、知らないんだ。メッセージひとつ電話ひとつだけで、簡単に終わっちゃった。


「さて、と」


この死体。どうしよう。


ものの弾みで殺しちゃったけど。


人では、ないよね?


なにこれ。機械?


でも、殺したとき、なんかこう、ものすごく、きもちわるい感じがした。

昔見たロボットアニメの、あの、顔も知らない相手のコクピット潰したときに、潰した相手の断末魔が聴こえるやつ。あれと一緒。ノンフィクションなんだ。知らなかった。また見てみようかな。今後のために。

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