第29話 異変
クライスとフレイアは1日遅れで目的地であるドライアシティに到着した。
「やっと着きましたね。フレイアさん!」
「そうだな。とりあえず今晩泊まる宿を探そう」
遅れた理由は【
幸いにも死亡者はいなかった。
左翼に穴が空いたジラも回復魔法で元気になっている。
落下した【
一応、【
ドライアシティはカイゼルシティやスケイルシティよりも規模が小さい街で鑑定等を行うギルドが無い。
討伐報酬が後日になるのも、鑑定等をスケイルシティに戻ってから行うためだ。
「それじゃあ、行きましょう」
クライスとフレイアが乗り場から出ていこうとした時、ジルが駆け寄ってきた!!
「キュルル〜...」
「ジル!!」
「キュル〜...キュルル〜...」
どうやらジルは、お別れをしたくない様子だ。
目には涙を浮かばしている。
「ジル...ごめんな!俺達は行かなきゃならないんだ」
「キュル〜」
「ジルのおかげで命を救われたんだ!本当にありがとう!!また、絶対にスケイルシティに会いに行くから!!」
「キュル〜!!キュルル〜!!」
「それじゃあ...」
「キュルル〜!!」
クライスはジルの感情が乗った魔力を感じ取った。
『クライス...ありがと...大好き...』
「ああ、俺も大好きだよ」
『また...絶対に...会う...約束...』
「勿論!約束だ!!」
名残惜しい気持ちで、いっぱいだったがクライス達は進まねばならない。
ジルや騎士団員の人達に礼を言い、その場を離れた。
ジルはクライスの姿が見えなくなるまで翼を振っていた...
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
クライスとフレイアはドライアシティの中へ入った。
ドライアシティは精霊の森の恩恵を受けているため、野菜等の食材が有名な街でもある。
精霊の森の恩恵は食材だけではない。大気中の魔素が安定しているため魔物が湧かない。
仮に魔物が外から入り込んで来たとしても、精霊の森に住むエルフ達が討伐してくれる。
比較的治安の良い街なのである。
そのおかげで観光地としても有名で精霊の森を見て回るツアーなんかも開かれていたりする。
「とりあえず大通りに行きましょう。この街の人に聞いたら宿屋の場所も教えてくれるでしょうし」
「そうだな。私も...そろそろ限界だ...」
グギュルルルルルル...
フレイアのお腹が、ものすごい音を立てた!!
「お腹...空いた...」
「アハハ...急ぎましょうか」
クライス達は小さな脇道を抜けて、大通りに出た。
沢山の人で溢れ返っているんだろうな...
2人はそう考えていた。
しかし、そこの光景は2人が考えていたものとは正反対のものであった!!
「え?」
「人が...いない?」
なんとドライアシティのメインストリートに人っ子一人いないのだ...
「誰も歩いていないですね」
「まだ真っ昼間なのに、おかしいな...」
観光地であるはずの街で、明らかに異様な光景だった。
「フレイアさん!あそこ!見てください!」
「おお!ラッキーだな!宿屋の看板が見える!」
人が誰もいないのが、逆に幸いして、すぐ宿屋の看板を見つけることができた。
「一応、営業中みたいだな...」
「入ってみましょう」
ガチャッ...
宿屋に入ってみると受付に女性店主がいるだけで、他の客は見当たらない。
「あら、いらっしゃい。珍しいわね、お客様が来るなんて」
「すみません。一泊させていただきたいのですが...」
「ああ、勿論構わないよ。部屋は空いてる。好きな部屋を使って良いよ」
「あの、街に人が...」
「いないって話だろ?アンタ達、この街の人間じゃないね?」
「はい。俺達はカイゼルシティから来ました」
「なら事情を知らないのも無理ないね。アンタ達は精霊の森にエルフとダークエルフが住んでるのは知っているだろう?」
「はい。一応は...」
「エルフとダークエルフには其々、女王様がいてね、お互いが尊重しあい、森の平和が保たれていたんだ。だけど3カ月前...」
「何かあったんですか?」
「ダークエルフの女王が処刑されたのさ」
「処刑だって!?」
「事情を全て知ってる訳じゃないけどね、どうやらダークエルフの女王は森の力を使って
フレイアは女性店主の言っている事が信じられなかった。
「そんな!彼女がそんな事をするわけがない...」
「あら、そこのお嬢さんはテラ様を知ってんのかい?」
「ああ、古くからの友人だ。私は彼女が、そんな事をするとは到底思えない!!」
「実はアタイも信じられないんだよねぇ。テラ様は優しくて人望も厚かったからね」
「絶対に何かある...」
「テラ様が処刑されてから、精霊の森のエルフ達の様子もおかしくてね。この街の市長もテラ様に助力した罪で屋敷で軟禁状態だし...」
「市長が軟禁?」
「そうさ。テラ様に資金的援助をしたとか何とか言ってたけどね。実際わかりゃしないよ。市長が軟禁されてからは治安が悪くなってね。魔物の出現も頻繁に起きるわ、精霊の森の観光ツアーも無くなるはで、人が減ってく一方さ」
「それで、こんなに人がいないんですね...」
「元々、この街は商いの街だからね。人が来ないなら商売上がったりさ。生活も成り立たないから、この街を出ていく人も増えたのさ」
この街に異変が起きていることは間違いなかった。
「いやぁ、すまないね。お客様に長話しちまったね。ささ、お部屋へどうぞ。一階の奥が食堂だ。また夜になったら降りてきな」
「ありがとうございます」
クライスとフレイアは部屋がある2階に向かった。
階段を上がると2階のフロアに出た。
シーンッ...
誰もいない。まるでオバケ屋敷だ...
物音1つ無い。本当に宿屋か?と言いたくなるほどだった。
「フレイアさん、どうします?好きな部屋使って良いって言われましたけど...」
「とりあえず、お言葉に甘えることにしよう。窓から街と精霊の森が少しでも見える部屋が良いな」
「そうですね。じゃあ、この突き当たりの方にある部屋が良いかな?」
ガチャッ...
「広くて良い部屋だな。窓からの眺めも良いし、ここにしよう」
「じゃあ、フレイアさんは、この部屋で...俺は...」
「一緒に寝ないのか?」
「え?」
「こういう時こそ同じ部屋の方が良いだろう?」
「そ、そうですかね?」
「ほら!ベッドも広いし、一緒に寝れるぞ!!」
「でも、俺...」
「なんだ?私と同じ部屋は嫌なのか?」
フレイアの目がウルウルしている。
「いやいやいや!!そんな事ないですよ!!ただ、俺、邪魔じゃないかなって思って...」
「そんな事ないぞ!!私はクライスと同じ部屋が良い!!」
「わ、わかりました!わかりましたよ〜...」
俺、緊張して寝れないかも...
なんだかフレイアさん、日に日に甘えん坊になってないか?
今まで強がっていただけで、本当はずっと1人が苦しくて寂しかったフレイアは、心から信頼できる仲間ができたことで、自分の弱い部分を見せることが徐々にできるようになっていた。
そしてクライスもフレイアの魅力にどんどん惹かれていた。
だが、お互いが、その気持ちに気づくのはもう少し後の話...
とりあえず、クライスとフレイアは同じ部屋で寝泊まりすることになったのであった。
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