第9話「仲間の勝利」


 ランキング戦が終わった翌日。


 月曜日の放課後。


 僕が部室に入ると、天音が一人でテーブルに座っていた。


 彼女の表情は——珍しく、暗かった。


「天音?」


 彼女は、顔を上げた。


「あ、ユウくん……」


「どうした?」


 天音は、少し躊躇った後——小さく言った。


「……実は、挑戦状が来たの」


「挑戦状?」


 天音は、一枚の紙を差し出した。


```

挑戦状


天音殿


私、二年B組の柳瀬アヤは、

貴女に「ポーカー」での勝負を申し込む。


能力者同士の——本気の勝負を。


柳瀬アヤ

```


「柳瀬アヤ……」


「彼女も、感情読解系の能力者なの」天音が言った。「でも、私よりずっと強い」


「……」


「私の能力は、"感情共鳴"。相手の感情を読み取って、つなげる能力」


 天音が、俯いた。


「でも、柳瀬さんの能力は、"感情支配"。相手の感情を読み取って——支配する能力」


 僕は、息を呑んだ。


 感情支配。


 それは、リオの感情誘導よりも、さらに強力な能力だ。


「私、勝てないかもしれない……」


 天音の声が、震えていた。


 僕は、彼女の肩に手を置いた。


「天音。お前は、一人じゃない」


「……え?」


「ランキング戦で、お前が教えてくれただろう。仲間がいれば、勝てるって」


 僕は、天音を見た。


「だから、今度は——俺が、お前を支える」


 天音の目に、涙が浮かんだ。


「ユウくん……」


 その時、扉が開いた。


 凛と司が入ってきた。


「天音。話は聞いた」司が言った。


「私たちも、協力する」凛が言った。


 天音が、驚いた顔をした。


「みんな……」


 御影も、部室に入ってきた。


「天音。今回の勝負は、君一人の戦いじゃない」


 御影が、穏やかに微笑んだ。


「カジノ部全員で——君を勝たせる」


---


 その日から、僕たちは天音の特訓を始めた。


 凛が、感情に流されない方法を教えた。


「感情支配を防ぐには——自分の感情を"理解"することが大事」


 司が、データ分析を提供した。


「柳瀬の過去の試合記録を見ると——彼女には、"パターン"がある」


 僕は、論理的な対策を考えた。


「感情支配は強力だ。だが——完全ではない。その隙間を突く」


 御影は、全体を統括しながら助言した。


「天音。君の"感情共鳴"は、防御ではなく——攻撃にも使える」


---


 三日後。


 金曜日の放課後。


 柳瀬アヤとの勝負の日が来た。


 部室には、多くの生徒が集まっていた。


 カジノ部の部員だけでなく、他の部活の生徒たちも——この勝負を見に来ていた。


 柳瀬アヤが、部室に入ってきた。


 黒髪のロングヘア、冷たい目つき。


 彼女は、天音を一瞥しただけで、ポーカーテーブルに座った。


「……始めましょう」


 天音も、席に着いた。


 彼女の手は——わずかに、震えていた。


 僕は、天音の隣に立った。


「天音。大丈夫だ」


「……うん」


 御影がディーラーとして、中央に立った。


「ルールは通常のテキサスホールデム。10回勝負で、チップの総数が多い方が勝者だ」


---


 ゲームが始まった。


 第一ゲーム。


 カードが配られる。


```

天音の手札:K♠、Q♠

コミュニティカード:J♠、10♣、2♥

```


 ストレートドロー。


 天音が、ベットしようとした——その瞬間。


 柳瀬が、天音を見た。


 その目は——冷たく、鋭い。


 天音の手が、止まった。


「……」


 彼女の表情が、強張った。


 感情支配——柳瀬の能力が、発動している。


 僕は、すぐに気づいた。


「天音!」


 僕は、天音の肩に手を置いた。


「大丈夫だ。俺がいる」


 天音が、はっとした顔をした。


「……ユウくん」


「お前の感情を、俺が支える」


 天音が、少し落ち着いた。


「……ベット、100」


 柳瀬が、冷たく言った。


「レイズ、200」


 次のカードが開かれる。


```

コミュニティカード:J♠、10♣、2♥、A♠

```


 ストレート完成。


 だが——天音の表情は、まだ強張っている。


 柳瀬の感情支配が、効いている。


「天音」僕は囁いた。「お前の手札は強い。自信を持て」


「……でも」


「俺を信じろ」


 天音が、僕を見た。


 そして——少し、笑った。


「……うん」


「ベット、300」


 柳瀬が、少し驚いた顔をした。


「……コール」


 最後のカードが開かれる。


```

コミュニティカード:J♠、10♣、2♥、A♠、3♦

```


 オープン。


```

天音の手札:K♠、Q♠(ストレート)

柳瀬の手札:J♦、J♥(スリーカード)


天音の勝ち

```


 天音が、小さく笑った。


「勝った……」


 柳瀬が、冷たい目で僕を見た。


「……邪魔ね」


---


 第二、第三、第四ゲーム。


 柳瀬の感情支配は、次々と天音を襲った。


 だが——その度に、僕が天音を支えた。


```

現在スコア:天音 600 - 柳瀬 1400

```


 それでも劣勢だ。


 だが、天音は——諦めていなかった。


 凛が、観客席から声をかけた。


「天音!自分の感情を信じて!絶対大丈夫!」


 司が言った。


「柳瀬の支配には、限界がある。データ上、5回以上連続では使えない」


 天音が、はっとした顔をした。


「……そうか」


 彼女は、柳瀬を見た。


「柳瀬さん。あなたの能力は強い。でも——」


 天音の目が、輝いた。


「——私には、仲間がいる」


---


 第五ゲーム。


 カードが配られる。


```

天音の手札:A♠、A♥

コミュニティカード:K♠、Q♦、J♣

```


 ポケットエース。最強のスタートハンド。


 柳瀬が、天音を見た。


 感情支配——発動。


 だが——天音は、動じなかった。


「私の感情は——私のものだ」


 天音が、ベットした。


「ベット、500」


 柳瀬の顔が、わずかに歪んだ。


「……レイズ、1000」


 オールイン。


 天音が、僕を見た。


 僕は、頷いた。


「信じろ。自分を」


 天音が、深く息を吸った。


「……コール」


 次のカード、最後のカードが開かれる。


```

コミュニティカード:K♠、Q♦、J♣、10♠、2♥

```


 オープン。


```

天音の手札:A♠、A♥(ストレート)

柳瀬の手札:K♦、K♥(スリーカード)


天音の勝ち

```


 逆転だ。


```

現在チップ:天音 1600 - 柳瀬 400

```


 柳瀬が、信じられない顔をした。


「……なぜ?私の感情支配が——効かない?」


 天音が、穏やかに微笑んだ。


「効いてたよ。でも——」


 天音が、僕たちを見た。


「——仲間が支えてくれたから。だから、私は負けなかった」


---


 第六ゲーム以降。


 天音は、完全に柳瀬を圧倒した。


 感情支配は——もう、効かなかった。


```

最終チップ:天音 2000 - 柳瀬 0


天音の勝利

```


 柳瀬は、しばらく黙っていたが——やがて、小さく笑った。


「……負けたわ」


 彼女は、立ち上がった。


「天音。あなた、強くなったわね」


「柳瀬さん……」


「私の感情支配は——"孤独な人"にしか効かない」


 柳瀬が、部室を見回した。


「あなたには、仲間がいる。だから——私の能力は、通じなかった」


 柳瀬が、去り際に言った。


「いい仲間を持ったわね」


---


 柳瀬が去った後。


 天音は、涙を流しながら笑った。


「みんな……ありがとう」


 凛が、小さく笑った。


「当然でしょ。私たち、仲間だもの」


 司が言った。


「まあ、お前が勝てたのは——データ分析のおかげだけどな」


 天音が、笑いながら涙を拭いた。


 僕は、天音の肩に手を置いた。


「よくやったな」


「ユウくん……」


 天音が、僕を抱きしめた。


「ありがとう。ユウくんがいなかったら——私、勝てなかった」


 僕は、少し照れながら——彼女の頭を撫でた。


「お前の力だ。俺は、ただ——支えただけだ」


---


 その夜。


 僕は、自室でノートを開いた。


 そして、書き始めた。


```

【天音戦から学んだこと】


1. 仲間を支えることで、仲間は強くなる。

2. 一人では勝てない戦いも、仲間がいれば勝てる。

3. 感情は弱点じゃない。つながりこそが——最大の武器だ。

```


 ペンを置き、窓の外を見る。


 月が、明るく輝いている。


「仲間」


 僕は、呟いた。


「俺には、仲間がいる」


---


 同じ頃。


 旧校舎の奥。


 黒瀬は、天音の勝利を聞いていた。


「仲間の力、か」


 彼は、不敵に笑った。


「面白い。だが——」


 彼は、手のひらにルーレットの玉を浮かべた。


「——俺と戦う時、ユウは一人に変わりない」


 玉が、不規則に回転する。


「仲間の力を借りられない時——お前は、どう戦うのか楽しみだ」


 黒瀬が、呟いた。


「それが、見ものだ」


---


 翌日、土曜日。


 部室に集まった時。


 御影が、重大な発表をした。


「ついに黒瀬と戦うことになる」


 一同が頷く。


「みんなのおかげで準備は整った」


 僕はみんなを見る。


「来週、"裏カジノ部"が——正式に、挑戦状を送ってくる」


「裏カジノ部?」


「ああ。黒瀬が率いる——元カジノ部員たちの集団だ」


 御影が、真剣な目で全員を見た。


「彼らは、能力を極限まで使いこなす。そして——」


 御影が、僕を見た。


「——黒瀬は、お前を狙ってくるだろう」


「……分かってる」


「だが、今回は——一対一の勝負じゃない」


 御影が、ホワイトボードに図を描いた。


「カジノ部 vs 裏カジノ部。チーム戦だ」


「チーム戦?」


「ああ。五対五で、様々なゲームで戦う」


 御影が、全員を見回した。


「これは——カジノ部の未来を賭けた戦いになるだろう」


---


 天音が、不安そうに言った。


「でも……裏カジノ部って、どれくらい強いの?」


 御影が、静かに答えた。


「彼らは——かつて、このカジノ部を支えていた精鋭たちだ」


 凛が、険しい顔をした。


「……つまり、私たちより強い?」


「少なくとも——経験では、上だ」


 司が、眼鏡を押し上げた。


「だが、データ的には——勝算はある」


 御影が、頷いた。


「ああ。君たちには——"仲間の力"がある」


 御影が、微笑んだ。


「今日の天音の勝利が、それを証明した」


---


 僕は、全員を見回した。


 天音、凛、司、御影——。


 みんな、真剣な顔をしている。


 だが、その目には——恐怖ではなく、決意が宿っていた。


「みんな」僕は言った。「俺たちは、負けない」


 全員が、僕を見た。


「なぜなら——俺たちには、仲間がいるから」


 天音が、満面の笑みで頷いた。


「うん!」


 凛が、小さく笑った。


「……まあ、そうね」


 司が言った。


「データ的にも、勝算はある」


 御影が、穏やかに言った。


「では——準備を始めよう」


---


 その夜。


 僕は、スマホを開いた。


 黒瀬からのメッセージが、届いていた。


```

差出人:黒瀬

件名:なし

本文:「来週、決着だな」

```


 続けて。


```

「お前の仲間の力——それがどれだけのものか、見せてもらおう」

「だが、最後は——お前と俺、一対一だ」

「その時、お前は——本当の"無能力"の意味を知る」

```


 僕は、画面を睨んだ。


 黒瀬。


 お前との対決——もう、避けられない。


 だが——。


 僕は、仲間の顔を思い浮かべた。


 天音、凛、司、御影——。


 みんながいる。


 だから——。


「俺は、負けない」


 僕は、呟いた。


「絶対に」


---


次回、第10話

「御影の別角度攻略」

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