笑顔の裏で

紅雲

第1話 笑顔の秘密

いつも笑顔で人をだます男がいた。

私だ。


誰かに頼まれると、いつもこう言っていた。

「いいねえ、それは素晴らしい考えだ」

だが、心の中ではいつも別の声が響いていた。

「うまくやれよ。転んでも知らんぞ」


ある日、近所の青年が家にやってきた。

「今度の選挙に立候補します。地域の為に頑張ります!」

私は笑顔で「おお、頑張れ、お応援してる」と言った。

電話を切ったあと、心の底で呟いた。

「落ちろ」

そして、言う事をきく他の対抗馬を立てた。


私はそうやって生きてきた。

他人を応援するふりをして、心の底では嘲笑ってきた。

他人の努力を見ては、密かに妬み、転落を期待する。

それが人間の正直な心だと、どこかで思い込んでいたのだ。


だが夜、布団の中で思う。

「わたしの人生は、幸せだったのだろうか」

偽善の仮面を貼りつけたまま、笑いながら誰かを蹴落とした日々。

あのときの笑顔の下に、何が残ったのだろう。

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