第5話 トランスフォームは恥ずかしい

 ユマと名乗る女性がぱちんと指を鳴らすと、妖精らしき者が僕たちを囲んだ。すると、僕たちの体が宙に浮き、思わずバランスを崩した。


「あまりダンスは得意ではないようね」


 いじわるそうに笑う顔は、本当に王族だろうかと疑ってしまいたくなる。とはいえ、魔物ではなく王族からの攻撃か。相手を倒すわけにもいかないからどうしたらいいんだろう。考えているとキーヴがバランスを取りながら跪くような姿勢をとる。


「申し訳ありません。その代わりといってはなんですが…」


 キーヴは、丁寧な口調で断りを入れ、小さく何か唱えた。

 すると、僕らが装着していた装備が跡形もなく消えて、変わりに何やらあちこちに紐のついた防御性のなさそうな装備になってしまった。装備というより、ただの服?


「わ! 装備が…!」


 僕の近くにいた一人の妖精が訝しむように紐に近づき、それを引っ張る。その感触から何かを感じたのか、急にニヤリとした。紐をつかんだ妖精は、仲間を呼ぶと数人ずつで紐を引き始める。様々な方向に一度に紐に引っ張れば薄い装備は当然…


「わっ、ちょっと! やめ、やめてっ‼」


 慌てて僕は装備をつかむが、時すでに遅し。


「きゃあ! なんて破廉恥な!」


 ユマさんは両手で顔を覆い、悲鳴を上げる。でも、指の間から覗いているのがまるわかりだ。いや、それよりもなにこれ、凄い恥ずかしいんですけど。キーヴ、何をしたの?


 キーヴは、慌てることもなく、さらに何かを唱えた。瞬間、妖精がつかんでいた紐が激しく光を放ち、辺りを包んだ。あまりの眩しさに僕も思わず目を瞑ってしまう。体の周りを風のようなものが何重にも抜けていく。何が起こっているの?


 どのくらいの時間がたったのか、僕は恐る恐る目を開ける。そこには、先ほどの妖精の姿はなく、僕は元の装備に戻っていた。何か前よりキラキラしてるけど。とりあえず、ほっと安心してユマさんを見ると、感極まって目を潤ませていた。


「なんと…‼ これがトランスフォーム!」

「お気に召していただけましたでしょうか?」キーヴが畏まって礼をしている。


 ユマさんは、はっとしたように表情を引き締め、「まあまあね」と強がる。ユマさん、ちょっと鼻息が荒くなってますよ。

 とにかく、よくわからないけど、一件落着したのかな?


「では、私についてらっしゃい」


 そう言われて、ユマさんの後に続いて連れてこられたのは、次の部屋。「オウマ、私よ。連れてきたわ」ユマさんがノックをして扉を開ける。開けた扉の隙間から見えたのは、ユマさんに少し似た子供。ユマさんの子かな?


「なんだ、大したことはなさそうだ」


 おや、子供の割に態度がでかいな。王族だからか? いくら身分が高くても、それを笠に着るようでは成長できないよ。ひとり納得していると、オウマが音もたてずに僕の前にやってきた。下からグイっと見上げられる。ちょっとびっくりしたけど、怖くはない。だって、僕より小さい子供だしね。


「お前、ちょっと来い」


 装備の端を掴まれて、いきなり転移魔法がかけられる。キーヴもシカも急な魔法に対応できず、僕たちは離れてしまった。

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