最終章 三竦みの決戦
第1話 不穏な動き
三十分後。アダムスがコトンの酒場へ来店し、酒場の地下にある秘密の会議室を使って作戦会議をする事になった。
「まさか、酒場のワインセラーの奥に地下室の扉があるなんてな」
俺が呟くと、フラーフは得意げにワインセラーにあるランプに火を付ける。すると、重いワインセラーの扉が開いた。
階段を降りるため、一旦車いすから立ち上がった。長く座っていたせいで腰がきしむ。
……戦より、こっちの方が堪えるな。
「伊達にステン考古学会に所属していないわ。で、なんで、私まで会議に呼んだのかしら? アダムス殿」
「ローレンス王国攻略後のステンの建国後の統治と例の島国対策の会議で、貴方の協力が必要だからです」
「そう。大体は察してるけど、良いのね」
「なら、話が早い。貴方には、種族の代表としてフラーフさんの協力が必要ですから」
「おいおい、アダムスとフラーフで話を進めないでくれ。話が見えないだろ」
俺が指摘すると、アダムスは会議室の扉を開けながら意味深な事を言った。
「統治後の種族代表として、彼女には片足の盗人代表として登用する予定です。弱き者を切り捨てない国を掲げるなら、彼女ほど相応しい象徴はいません。」
片足の盗人か。ハルフットをそう呼ぶのは、カーガプルトンの周辺国か、ドワーフ、エルフの主要国あたりの出身だな。
……下手すると、アダムスはカーガプルトンのスパイか?
いや、根拠が乏しいしタングに対する忠誠心は本物だ。
中へ入ると、酒場と違って会議室の空気は重かった。幾つか換気用のダクトはあるが、木製の机と椅子があって無機質に感じる。
換気用ダクト周辺の端に申し訳程度の観葉植物が、唯一の部屋の華やかさを演出している。
「まず、ローレンス王国の現状を報告しますね」
みんなが会議室に入って席に座ると、アダムスが咳払いをして本題に入った。
「はっきり言えば、我々の本拠地コルド・ヴェニ要塞の攻略失敗が決定打でかなり疲弊しています。撤退直後に起きた反乱と鎮圧により、国民や兵士からの不満が出ています」
アダムスが調査資料を机に広げると、衝撃的な内容が飛び込んできた。
ローレンスが国王就任から一ヶ月後の最初の内乱が起きるまで、各部門の女性の大臣に政策を任せっきりにした事。
自分の偉業を誇大に宣伝した詩や劇を国中外に広める為の莫大な宣伝費。ローレンスが建設した専用の高級娼館の建設費。
宣伝費や建設費を賄う為に徴収した税金や入場料のせいで、劇場の入場者数が激減した資料書。
──どこの国も、金と欲で腐るとこうなるのか。
前回のコルド・ヴェニ要塞の捕虜や逃げ出した娼婦の生々しい証言……。
思わず目を覆いたくなる報告内容に、女性陣の顔色がみるみる悪くなっていく。俺も吐きそうになってきたのは、この部屋の空気じゃなさそうだ。
「この現状だと、すぐに俺達でローレンス二世を打倒はできそうだが……」
「カーガプルトンの使者の介入次第で、形勢逆転されますね」
アダムスが地図を広げて、カーガプルトンの進行ルートを指差す。このルートは、魔王軍との戦いやローレンス軍の進軍で傷付いた大地だった。
「彼らの馬車が通った跡に、森ができているんですよ」
アダムスの言葉に、誰もが自分の耳を疑った。
「おいおい、嘘が下手過ぎるぜ。アダムス」
「フィンジャックさん、これは事実です。我々の偵察部隊も確認済みです」
「ねぇ。そんな芸当が出来るのって……。黒魔術かトルデ王の魔法しか考えられないわ」
イザベルの指摘に、誰もが息を呑んだ。
もしそれが真実なら──この戦は、もう人の手を離れている。流石、悪魔の国と呼ばれるだけはある。
「そこで、ローレンスに不満を持つ国民や軍だけでなく、神の所業に一歩踏み込んだカーガプルトンに向けた演説を流しながら戦うのはどうです?」
アダムスの提案に、みんなは同意した。いや、これよりも良い案が出なかった。
カーガプルトンの使者の目的が分からない以上、こっちから刺激しないほうが良いだろう。
まずは、目先のローレンス打倒が先で、打倒後すぐにカーガプルトン対策だ。
「じゃあ次は、演説の構成だな」
俺が言うと、イザベルがペンを取り、机の上の羊皮紙に素早く書き込む。
「まず、民に“神と王の違い”を訴えること。ローレンスは神を装った王だと強調するの」
「俺達は“人が人の手で生きる国”を目指すって文言を加えるのはどうだ?」
「いいわね。カーガプルトンへの牽制にもなる」
フラーフが横で腕を組みながら唸る。
「でもさ、演説なんて届くのか? 遠隔でやる方法なんて――」
「古代遺物を使います」
アダムスが即答した。
「ここの近くの遺跡で発見された“音声投影装置”。映像と音を風に乗せて遠方に届かせることができます」
「……それ、黒魔術じゃないだろうな」
「いいえ。古代人の叡智の遺産です」
その一言に、誰も返せなかった。
そこから先は、ローレンス打倒後の再統治、カーガプルトンの動きへの対応、演説の文面……。
議論はいつの間にか白熱し、気づけばランプの炎が橙色に揺らいでいた。
「……もう夕方ね」
フラーフがぼそりと呟く。
見上げた換気ダクトの隙間から、夕陽が一本だけ差し込んでいた。
赤く照らされた机の上に、未完成の演説原稿と、冷めた紅茶が残っている。
「時間を忘れるほど頭使ったな」
「ふふ、あなたにしては珍しいじゃない」
イザベルの皮肉に、俺は苦笑して肩をすくめた。
──けれどこの時はまだ、誰も知らなかった。
その演説が、三国すべての運命を変える引き金になることを。
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