第5話 新生ローレンス王国

 俺達は馬車に乗り込んで、イザベルの話を聞いていた。


「ローレンス二世が王国を乗っ取ったのは三日前」


 イザベルは、目隠しをしたままゆっくりと答える。⋯⋯その時、俺達はタングの部隊でゆっくりと補給を受けていたな。


「奴は最初、謁見室で魔王の首を王に突きつけて、報酬を要求したわ。だけど、王が断った瞬間に『受け入れようが、断ろうが、イゾルデ姫を頂こう』って宣言して反乱を起こしたの」


「奴め、最初からそのつもりで魔王討伐に参加してたのか」


 隣の席で語るイザベルの悔しげな表現を見て、やりきれない気持ちで一杯だった。

 もっと、早く気付いて、もっと早く報告していれば⋯⋯。


「奴は、更迭したステファン副大臣たちの手引きで城の内側から仲間達を侵入させて、あっという間だった」


「内側からだと?! 確実に、荷物管理人の抜け道使わねぇとあり得ねぇじゃねぇかよ!!」


 ステファンか、ローレンスの前の荷物管理人のマリー・イルスが喋ったな!


 俺が思わず大声を出すと、抜け道内で木霊する。


「落ち着け、フィンジャック。ふたりが怖がるだろ」


 フルトが、後ろから俺の肩を摑む。


「す、すまん」


「だが、奴が魔王を討伐してすぐに王国へたどり着いた理由が分かった。仕組みは分からんがこの抜け道と転送魔法をうまいこと使えば二日で王国へたどり着けるみたいだな」


 フルトの一言で、一旦空気が凍って沈黙の時間が流れる。しばらくすると、イザベルが続きを話す。


「それで、以前、王に教えてもらった抜け道を使って逃げようとしたら、ローレンスに追いかけられた。でも、さっきのエルフの女性に匿ってもらったわ。しばらくの間は、食事も服も用意してくれた」


「それで?」


 俺が聞き返すと、イザベルは言葉を詰まらせながらも話す。チラッと横目で見ると、彼女は男物のシャツの胸元を掴んで俯いていた。


「あのエルフ。最初から私を捕まえる為に仕込んでいたわ。こっそり、彼女の部屋を覗いたら⋯⋯。ロウで固めた人間や、腐った花束が飾られていたの。まるで愛玩人形みたいに」


「あー、これ以上は聞かない方が良いやつか」


「うん。で、あいつから逃げる為に武器とか杖とか盗んで逃げたら、貴方たちと出会えた」


 彼女がつけている目隠しの布に涙が染み出していた。


「……私が城から逃げたあの時、謁見室は血の匂いで満ちていた。ローレンスは玉座を踏みつけ、笑って……。忘れようとしても、耳に焼き付いて離れないの」


 ゴトン、と車輪が石畳に乗り上げ、馬車が大きく跳ねた。イザベルは反射的にフィンジャックの袖を掴む。


 無理もないか⋯⋯。


 両親を失ったんだ。よっぽど、悔しいんだろう。更に、助けてもらえたと思ったら、やばいエルフと出会っちまったんだ。考えてみたら、俺も涙が出そうになった。


 絶対に二度と、彼女の大切な人間を失わせはしない。


「イザベル。俺達はローレンスの野郎に騙された勇者パーティーで、倒す為にやってきた」


「え? もしかして、勇者連合の人たち?」


「そうだ。と言っても、俺は荷物管理人協会と勇者アルベドから奴の素行調査をしていた」


「そう⋯⋯。貴方が?」


 震える声で、イザベルは返事をする。


「あぁ。だから、君のご両親の仇を一緒に取ろうぜ」


「俺も、協力する」


「わ、私も全力でイザベルさんをサポートさせて頂きます!」


 俺の呼びかけに、後部座席にいるふたりも加わる。


「うん。⋯⋯手伝わせて」


「よし、決まりだな。その第一歩として、これから協会の秘密基地へ向かう」


「じゃあ、協会の人に匿ってもらうの?」


「いや、違うな」


「え?」


 俺が即座に否定すると、イザベルが俺に顔を向ける。俺は目を閉じて深呼吸する。自然と、握っている手綱に力が入る。

 そうでもしないと、俺の覚悟が揺らいでしまう気がした。


「ローレンスどもが抜け道を利用したって事は、協会の秘密を知っているということだ。……最悪、この国の協会も絡んでいるかもしれない」


「その場合は、俺達で責任者以外を殲滅してステンのところへ変更すれば良いんだな?」


「あぁ」


 既に覚悟を決めたフルトの問いかけに短く返事をする。


「お前ら、最悪な状況で最悪なパターンを覚悟しておけよ。次の裏切り者は、協会かもしれねぇからよ」


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