休み時間1


「ソニアさん、もしかしてあなたのその目には、何か隠された効果があったりとかするんですか!?」


 いきなり迫ってきたこの方は、さっきの授業で活躍していたリディさん。そして、


「リディさん。ソニアさんが困ってるよ」


 そう言ってリディさんを止めに入ったのは、同じくさっきの授業で活躍を見せたユウキさんだ。

 フェーリン先生に呼び止められた3人で、教室へと戻る最中だった。


「それにしても、僕たちでも分からなかった魔法に気づくなんて。やっぱり何か秘訣とか?」

「い、いえ。そんな大層なものは何も...。たっ、ただ小さかった頃から草むらの中に落としたものとか探すの得意だったので...」

「なるほど。幼少期の頃に得た賜物なのですね。ますますあなたの事が気になります」


 リディさんからの好奇の眼差しがむず痒く感じる。

 それは、普段から向けられていたものとは違う、悪意のないものだった。


「おい見ろよ!あの落ちこぼれどもがのこのことこんなところを歩いてやがるぞ!」


 同じ学年だと思われる男子数人がこちらに寄ってくる。いつも通りの、こちらをさげすむような視線。決して相容れることのないという排他的な視線。

 この学校においての私の立ち位置は、高等部に進んだからと言って簡単に変わるものではないみたい。


「グレッグ…。早速新しい手下を手に入れてご機嫌そうだね。何かこちらに用でも?」


 ユウキさんはそう言って、私たちの前に一歩出た。

 ユウキさんの声色は変わらず穏やか。ただ、先ほどのような笑顔はもうなかった。


「お前だって女侍らせて楽しそうじゃねえか、Cクラスの落ちこぼれのくせによ」


 奥歯を強く噛み締めた音がした。彼の横顔を見ると、相手を見る視線がさっきより鋭いように思えた。

 相手の方も威圧感が増し、2人の間に火花が弾けている。いや、実際に火花が見える。なぜかは知らないけれど。


「そのあたりにしとこ、ユウキさん。それでは、この辺りで失礼します。さ、ソニアさんも行きましょ」


 リディさんが私の手をとり、優しく引っ張っていく。足早に去ろうとしているわけではなさそうで、先ほどと変わらず穏やかで余裕のある様子だった。


「おい、あんた、リディ•ロジュだろ。それに、そこのお前は運が良かっただけでここまで来てしまった哀れなソニア•フィーニじゃんか。落ちこぼれたヤツ同士でつるんで、お前らほんと、恥晒しもいいところだよなぁ!」


 周りに同学年の人たちが集まっている状況。濡れたじめついた手で体を掴まれるようなたくさんの視線が気持ち悪い。それに、私の成績が悪いばかりにこの2人も貶されたことが、何よりも私の心を苛んでいた。

 ユウキさんの横顔も、俯く顔の奥に悔しさを滲ませているようだった。

 ただただ自分が情けない。2人に申し訳ない。そう思うことしかできない。


「グレッグ。あなたって確か、未だ私に勝った試しがないですよね。それもたったの一度も。それに、この2人だって私と同じ、いや、もしくはそれ以上の実力があるんですよ。あなたこそ、大勢の前で恥をかく前に大人しくしたほうがいいんじゃないですか。では。2人とも行きましょ」


 相手方の顔を見ると、目が赤くなって、明らかに沸騰しちゃっている様子だった。多くの人がいる中であのように仕返しを受けては、恥ずかしいことこの上ないだろう。

 対してリディさんの方はというと、明らかに満足げな様子だった。それも、顔の周りに謎の光やご機嫌な鼻歌が聞こえてきそうなほどに。


「ありがとう、リディさん。僕たちのためにああやって言い返してくれて」

「いやあ、そこまでは考えてないですよ。ただ、あのままあそこにいても埒が明かないし、ああいう輩からはさっさと逃げるに限りますから」


 こんなにも堂々とした立ち振る舞いができるなんて。私がリディさんの隣に並んでいることが少し恥ずかしく思える。


「そんなことより、良かったらお昼ご飯を一緒に食べませんか?ソニアさん。あの人のせいであまりお話し出来なかったし、それに、今日は午前中で授業が終わりますから。ついでにユウキさんも」

「僕はついでなのか…。僕の友達が1人同席してもいいかい?」

「えぇ、ぜひ。ソニアさんは?」

「はっ、はい!よろしくお願いしますっ!」


 つい、深いお辞儀と大きな声で反応してしまった。

 顔を上げると、2人して笑っていた。

 でもそれは、不思議と悪い気がしなかった。

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