再び魔大陸へ

「先生っ!」


セヴァルが治療所に戻ってくると、

泣きそうな顔をしたメアが

武術部隊に抑えられていた。

どうやら、治療所にいないセヴァルを

探しに行こうとして止められていたらしい。

セヴァルを心配するが故の行動だろうが、

結果としてそれは杞憂に終わった。

ただ、市場に男が現れてから

そう長い時間は経っていないのに、

共犯者がいるという可能性に気づいて

治療所まで武術部隊を引き連れて来るとは、

やはりメアは賢い子だ。


「セヴァルさん、それは…?」


二人の侵入者を捕えて

無事にみんなで再会できたことに

安堵感が立ち込める一方で、

セヴァルが捕えてきた彼が

人間ではないことに気づいて

カルムは剣に手をかけた。


「こいつは魔族だ。

君たちの方は魔族ではなかったのか。」


「いや…ただの人間だったようだが……。」


「そうか。」


もしカルムたちが捕えたという男が

魔族であったなら、

もう少しセヴァルが出張る必要が

あるかと思ったが、

どうやら魔族ではなかったようだし

レンがいるなら心配はいらないだろう。

その後、セヴァルは魔族の男を

武術部隊のところへ担いで行き、

レンに全ての事情を話した。

セヴァルの過去の因縁を知ったレンは

驚きを隠せないでいたが、

街に何も被害がなかったことに安堵した。

テルーロはなぜ魔族と共にベオムールに

やって来たのか等を聞くために

尋問にかけられることになり、

魔族の彼はセヴァルが

魔大陸へ送り返すことになった。

魔族と人間の関係を悪くしないように

最大限配慮した結果だ。

人間と魔族の関わりなんて、

少ない方がいいだろう。

だが、人間と魔族が協力して

この街に侵入してくるとは、

実に不可解なことである。

魔族にとっても人間にとっても、

互いに干渉しない方が幸せだ。

一体なぜ、このような事態が起きたのか。

魔族の親玉である魔王に聞けば

何か分かることがあるかもしれない。


「先生、私も連れていって下さい。」


セヴァルが魔大陸へ行くという話を

聞きつけたメアは、

自分も連れて行けと直談判してきた。

セヴァルが遠くに行ってしまうことが

心配で仕方ないようだ。

だがもちろん、魔大陸なんて場所に

少女を連れて行くことなどできない。

かと言ってただ断るだけだと

メアの機嫌を損ねてしまうかもしれない。

色々と妥協案を出していった末に、

魔大陸から帰ってきたら

次の段階の医術を教えることで合意した。


「必ず帰ってきてね、先生。」


セヴァルが留守の間は

エレーナが長の代理を務め、

カリッサが補佐に着くことになった。

エレーナは医術者としての経験も多く

判断力にも優れているし、

カリッサも歳はまだ19と若いが

人一倍努力家で気配りも上手い。

メアやノーナ、ライカなどの子どもたちも

どんどん成長してきているので、

予想外の大問題が起きたところで

きっと対処してくれるだろう。

頼もしくなった自分の弟子たちを

誇りに思いながら、

セヴァルは魔大陸へと向かった。


「久しいな。人族が作ったカラクリ人形よ。

あの少女たちが死んだという知らせを受けた

200年前から何の一報も寄越さなかったくせに、

まさか突然乗り込んでくるとはな。

どうだ?久方ぶりに見る我らの地は。」


セヴァルが彼らの領地へ足を踏み入れて

魔王を出せと言い放つと、

意外にもあっさりと通してくれた。

戦争が終わって平和になってから、

彼らも随分丸くなったようだ。

あれだけ荒れていた土地も

自然豊かになっているように見える。

だが、魔王は300年前と何も変わっていない。

魔族の寿命が長いことは知っていたが、

見た目がほとんど変わらないとは、

ロボットのセヴァルといい勝負だ。

今や魔王はこの世界で彼女たちのことを知る

数少ない存在になっているが、

そんなことは気にしていないらしい。


「世間話をするつもりはない。

今日はこいつを届けに来たついでに

聞きたいことがあっただけだ。」


セヴァルが魔王に差し出した一人の魔族。

彼は手足を縛られたまま、

魔王の前に膝をついて俯いた。


「ドーギの息子、アブルか。

見かけぬと思っていたが、

人族の地で不埒を働いていたか。」


彼は全身がボロボロになっている。

ベオムールからここまで来る途中で

色々と暴れる度にセヴァルが

力づくで抑えつけていたので当然だが、

拘束までされている上に

セヴァルが直接出向いたことに

魔王はその重要性を見出した。

そして、すぐに結論を導く。


「すまなかったな。

そやつは若さ故に恐れも歴史も知らんのだ。

本来なら我ら責任ある大人が

制御しなければならぬのだが、

随分老いてしまった我では

全てを律することは叶わん。

侘びの証に我が土地の鉱石を

好きなだけ持って帰るといい。」


見た目はほとんど変わらないが、

年齢的な意味では魔王はすでに

老人の域に届いているようだ。

血気盛んに人間界へ進軍した時とは

何もかもが違うらしい。

そして魔王はあっさりと自分たちの非を認め、

そのお詫びとしてこの土地の鉱石を

持っていけと言ってくれた。

魔大陸で採れる鉱石には

他の場所で採れない物質が含まれている。

それはクレアがここに来た時に

偶然発見した物で、武器や調理器具などの

頑丈さを必要とする物にはできないが、

その鮮やかな青色はとても魅力的で

身につける装飾品として人気がある。

魔大陸でしか採れないことから

その価値は人間界ではとても高く、

大きな物だと家一つと同等と言われている。

だが、セヴァルはそんな物のために

彼を連れてきた訳ではない。

もらえるというなら鉱石はもらうが、

それよりも大事なことがある。


「彼は私に恨みを持っていた。

確かに私はあの戦争において

多くの魔族を葬ったが、

戦ったのは私だけではない。

先生たちや軍人、街の人間、

多くの人間が戦っていた。

その中で彼の父親を殺したのが私だと

なぜ断定することができたのか、

魔王なら何か知っているのではないのか。」


そう、セヴァルはたくさんの魔族を殺した。

それは変わることのない事実であり、

セヴァル本人も自覚していることだ。

だが、戦場という場所においては

全てがごちゃ混ぜの渦の中だ。

戦場にいた訳でもない彼が、

どうして父親の仇が

セヴァルだと断定することができたのか。

そして、セヴァルが魔王に聞きたいのは、

歴史を知らない若い者に嘘を吹き込んで

利用しようとした黒幕がいるのではないか、

魔王ならそれが誰なのか

知っているのではないか、ということだ。

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