第24話 三月さまの作品
企画にご参加ありがとうございました。
第一回の山羊座賞受賞者ということを踏まえて拝読しましたが、やっぱり第一回で選ばせていただき良かったなと思いました。
内容は相変わらず難しくて感想がうまくありませんが、ご容赦ください。
では、早速…
♢
どの学生に単位を振舞いそして奪い取るかを選択できる立場を仮に「教授」と呼ぶ。
→一行目で作品の方向性と世界観を見せるのは大切ですね。
あなたは飲みの誘いが今度もただの社交辞令でないと構えていたが、先日通院した歯医者で偶然邂逅したことを指摘されただけで続く話題も教授の家族へと移っていき興味を引くものはない。
→あなた?! 飲み会あるある…
両隣には顔色の悪く忙しなく辺りへ目をやる学生がもう一人いたがそれはわたしである。
→はい、一緒にいるようです。
夜が更け外は白みがかっていたのが一日の終わりを知らせるように少し晴れた頃合いに扉が開いた。ひとりは店内の照明の当たる所まで入ってきて腰から肩に回る革帯や靴下留めについた金具が歩くたび音を奏で囃立てた。若い女の白を基調とした外見の持つ幼さと繊細さは裏返って立て札の立った地雷原といった風だった。
→描写が凝ってるのに自然ですね。
後ろから天井に届くほどの影が現れ、光に足を踏み入れるのは几帳面に着こなした一張羅ダークスーツが引締める巨大な体躯である。上手く血が巡らないようで首を曲げ伸ばし張り出した僧帽筋を覗かせた。憚はばることなく言うが彼が「人殺し」である。
→二人入ってきて、かつ人殺し。急に物々しさが増して、物語に引き込まれます。
剃り上げた頭を撫で部屋の奥に座っている男を指差し、そこの会社員は先刻店に入ったばかりだろう。ああ皆様方は存じ上げないだろうがそこな男は女性に乱暴を働き寸時逃げおおせた所なのだとそう告げた。会社員は立ち上がりもつれた舌で抗弁したがまあ落ち着けと近寄って来る巨体にたじろぎ奥の手洗い場へ駆け込んだ。人殺しの言葉に釣られた別の客が扉のノブに手を掛けたが開かず、直ぐに追いついた人殺しが扉を蹴破ったがもう誰も居らず開けっ放しの換気窓からまた白み始めた外が見えた。
→逃げられた!
誰かが通報したあと人殺しは怪訝な目を向ける主人に微笑みかけ教授の座っていた隣に居を構えた。賭けの材料だというように鍵束をカウンターに投げたが傍にいた誰もが見やって目を逸らさなかった。視線を誤魔化したりするより素朴な関心を示している方が得策だというように。
→全体は「異」な空気なんですが、対比として「普通の人の反応」というのがちゃんと書いてあるのがリアリティがありますね。
一同の様子をみて人殺しは口端に皺を寄せ取り出した車の電子鍵を鍵束の丸環に付けると代わりに指輪を抜き出し見える位置まで持ってきた。不格好なほど大きな石のついた指輪。何の宝石か主人が尋ねると答えるようにただの石英だと教授が独りごちた。
→さすが教授
その言葉を聞いて人殺しはその通りこれは唯の石ころだと口を開き指輪を回していって皆それに触れたがそうすれば人殺しの語る指輪の略歴を指先で感じられるというようだった。
→自分がその場にいたらそうするだろうな、というリアリティがあります。
先刻逃げ出した会社員と同席だったブラウス姿の少女が寄ってきて机の上の指輪を弾き飛ばし、巨漢の背中に向け損害を補償しろと甲高い声で喚わめいた。
→損害? ここでいう損害とは何か?
それは無理だと人殺しはいいというのも人はそれぞれ自分なりの損害賠償法を主張するがそれが正当であっても本当に失ったものを取り戻すことだけは誰にも出来ないからだと告げた。
→そうですね。
そして顰顔の主人に人差し指を立て隣の空席を両手で示すと少女は一時対峙するような視線を向けてから座ったが、警戒して杯を近づけることもない。
→このあたりも、自分ならそうするな、というリアリティがあります。
確かそこには別の女が座っていた筈だったと思い周囲を見渡すとわたしの居た席に素知らぬ顔で座っていた。教授は奇妙な隣人である巨漢に興味を持ち話しかけると人殺しは快く応じ少女を巻き込んで世間話をしていた。
→教授という生き物、やりそう!w 物々しい雰囲気の緊張がピークになると、急に感情が緩くなるというのはありますね。
女はあなたの頭越しにその様子を見てから顔を近づけあの男は碌でもない人間よ、他人を強姦魔呼ばわりするのだってただの暇潰しでしかないといった。
→暇潰しだったのかい。この女は、ガーターの女で良いのだろうか。
それじゃなんで一緒に居るんだと尋ねるとヒッチハイクで拾われたのだと応えた。再び店内に目をやったとき彼女が急に腕を掴み覗き込んできたが、それは語り合っても解り合えない者たちが共有できるものは五感しかないというようだった。
→比喩が良いですね。
誰を探してるのと尋ねられたのでアンタに関係ないと応えると腕を放しそれじゃ大変ねといった。だけどこんな人眼の多いところで見つからないものは元々存在しない。貴方に見えて私に見えないものも確かにあるし鏡が無ければ自分の顔も判らないがそれが貴方だけの顔であることも変わりないでしょと訊いたが、あなたは黙ったまま杯を呷った。
→主語があなたであることに注意が必要ですね。女のセリフにも重みがありますね。
次に目を覚ますと陶器で出来た便座の冷たさが肌を伝わり骨が軋むようだった。寒いので下着を穿きズボンを上げたがその時股がまだ濡れているのに気づいた。
→あなた、も、わたし、も性別は明記されていないですね。
床タイルに投げ出された漂着物のような教授の足を跨またいで個室の扉を開けると、壁に立っていた女が音に気付いて顔を上げそんなに気持ちよかったのと訊いてきたが答えは期待していないというように肩をぶつけて扉のないS字型の公共トイレの侵入路から外に出ていきわたしもそれに続いた。
→え? 教授と?
薄闇が世界を覆い光の片々が静かな空に顔を出して前に付けていた車と傍に立つ影を濃くさせていた。トランクの蓋に手を掛けた人殺しは待っていたというように目をやり手を貸せというので寄って行くと少女の盲めしいたように虚ろな瞳が見えた。そして飛び出ていた彼女の白く薄い脚に体重をかけモール細工のように折り曲げて仕舞った。
→少女は死んでいてトランクに詰められている?
お前と私はいまや同じ敵を抱いていると人殺しがいった。それは生であり誰もが直面をつけ猿真似をしているが、決して世界の仕手を演じることはなくそれこそは死だといった。
→仕手=主人公。仮面をつけているが世界の主人公ではなく、主人公になる時というのは死ぬ時だ。と読みましたが、どうだろう。
いかれてるなと応えるとしかし悪意を止めるには別の悪意が必要でそのことはお前もよく分かっただろうと人殺しはいった。無関心は一度でもお前に向けられた悪意を防いでくれただろうかと尋ねて口端を歪め太い両腕が伸びてくるのを、銃声に反応して狩人へ振り向くため動きを止める兎のようにただ見ていた。
→悪意と無関心を並べたのがカッコいいですね。
♢
総評
世界観○
何について語るか○
それを描写するに相応しい筆力○
前回に比べて、細かくヒントを書いてくださったように感じます。
表層をできる限り剥いで、しかし読む人にも歩み寄った作品だと感じました。
ここまで来ると逆に自由を感じます。
お見事でした。
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