何せ、秋深まる金曜日の宵の口だから……店内は随分と混んでいた。


「カウンターなら」との店の案内に一瞬ためらったが、以前、何度か見掛けた若い男性の隣が空いていたので座る事にした。



「ご無沙汰しています。随分混んでますね」と話し掛けると


「ああ! どうも!! 本当にお久しぶりです!! えっと……山口さん……ですよね」と返してくれた。



「はい! 篠崎さんはお元気でらっしやいましたか?」


「はは、僕はずっとお酒を飲み続けていられるくらいは元気でした。『独り身の不摂生』という事は無いです。山口さんはお元気でらっしやいましたか? お見かけしなくなったので何となく心配していました」


「あら! それはありがとうございます。私の方は変わり映えはしませんが……まあまあ恙なくつつがなく過ごしてはおりました」


「しばらくお見かけしなかったのは、お引越しとか転職とかですか?」


「ええ、そんな感じです。今日はちょっとこちらの方に用があったので懐かしくて寄ってみました。あの頃より盛況ですね」


「そうですね、全体的に“地酒のお店”が減ったからでしょうか? 特に週末は混んでいます。お酒の種類も増えましたよ」


「やっぱり来ないと“浦島太郎”になってしまうんですね。『慈紺』の純米吟醸は今でもあるのかしら?」


「ちょうど僕が飲んでいますからお注ぎしましょう」


「あ、それでは私も何か1頼みます……篠崎さんのお薦めは?」


「青森の『千鳥』の吟醸は飲まれた事はありますか? なかなか良いですよ」


 こうして私達はお互いの“保冷ガラス徳利”(外側に洞穴があって氷水が入れてある)を差し合った。


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