拾得物報告書 第85号 タイヤ

その日届けられたのは、タイヤが四本だった。

すべて別々の路線の車内から、忘れ物として終着の当駅に持ち込まれた。

メーカーなどはわからないがホイールは同じもので、使い込まれた古さがあった。


「なんですかこれ?」


遅番で出勤してきた同僚が訳が分からないという顔で訪ねてきた。


「今日の忘れ物……らしい」

「……こんなの、忘れられるものですか?」

「俺に聞かれても困る」

「それはそうでしょうけど……不法投棄ですかね?」


どうすればいいのこれという顔でタイヤを見る同僚。


「粗大ゴミならホイールくらいは外すんじゃないかな?」

「そもそもどうやって持ち込んだんでしょう?」


スルーされた。


「このサイズだから持って乗れないことはないけど、なあ?」


年末の込み合う車内にこんな大きなものを持って乗車すればそれは目立つだろう。

置いていったら一声かけられそうなものだ。

ってことは始発からあったのか?


「えーと、何かの、ほら好きな人を堕とすおまじないとか」

「こんな大物持って乗車なんてまじない、やるか?」

「本気度は見えると思いますけど……」


大真面目な顔で言う。これを実際にやったなら相当な覚悟だったろうな。


「同じ日に誰にも見られずに四路線に一度になんて一人じゃ無理だろ」


俺に言われて同僚が考え込む。


「……私は無理です」

「俺もだ」


不法投棄という可能性もあったが、一応うちの窓口の管轄になるらしい。

ただ、普通では考えられないため、形式通り張り紙を出すことになった。


毎日当駅を利用している顔見知りの中には該当路線の利用者もいたので話を聞かせてもらったが、いずれも「自分が乗ったときにはすでに置かれていた」という返答だった。

車両同士をつなぐドアの前に置かれていたため、故障か何かで置いてあるのかと思っていたそうだ。


正直、邪魔以外の何物でもないが、保管期間中は預かることになってしまった。


一週間後、今度は座席が届けられた。

前席と後席、両方だ。

朝のラッシュ時に邪魔だと通報があり慌てて回収してきたが、前席はともかく後席はとても一人で軽々と運べる重さではなかった。


手の空いた係員にも協力してもらい、何とかホームから倉庫まで運び込む。


「これはもうイタズラじゃ済ませられないなあ」

痛む腰を伸ばしながらひとりごちる。

「でも、どうやったんでしょう?」


いっしょにシートを運んだ相方が立ったまま膝に手をつき、肩で息をしながら聞いてきた。


「私の持ってた前席ならまだしも……後席なんて、ドア幅ぎりぎりでしたよね」


脳裏にパズルのように車内へシートを押し込むさまが浮かぶ。

右へ倒し左へ捻り、わずかな停車時間のうちに中へ押し込もうとする。

うん。無理だ。


「……あれ持って改札通ってきたならいい度胸だと思うよ」

「同感です」


流石にこれは業務妨害ではないかということで、警察に届けることになった。

夕方の地方ニュースにも珍事として流れた。



2度続いた投棄に駅員一同が警戒する中、今度は連絡通路にエンジンが放置された。


巡回中の職員がいる時間帯で、ほんのわずかな隙だった。

巧妙に監視カメラの死角に置かれており、犯人は写っていなかった。

ただ、死角だけを通ってそこへ行くことは、構造上不可能だった。


俺と同僚はエンジンを囲んで途方に暮れた。

「どうすりゃいいんだこれ……」

「えっと、運ぶなら手伝いますよ?」

「やめとけ、下手にやると腰やっちまうぞ」

「はーい」


この件は事故防止の観点から、正式に案件として扱われることになった。

一時期マスコミや警察でにぎわったが、正月三ガ日が過ぎるころにはいつもの駅に戻っていた。



その後、年度末の構内補修工事に伴う点検で、埋め立てられた基盤から、廃車場でみるような金属の塊が確認された。


法令上認められていない資材が埋め立てに使われていたことになり、対応は通常とは別の手続きを取ることになった。


会社としても調査は行われたが、詳細は確認できないという結論だった。


後日、当時の施工業者はすでに倒産しており、連絡が取れない状態にあることが報道で触れられていた。


拾得された部品たちは保管期限が過ぎると渋られながら警察に運ばれていった。



それ以後、あの路線から不可解な忘れ物は届いていない。

あれが全部だったのかは、今も分からない。

次に届くものがないか、ふと思うことがある。

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こちらは新汐野駅落とし物窓口です 味噌煮込みポン酢 @koukakurui11

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