恋をしました


 講義室へと着くまでの間、先輩はにこやかな笑顔で話かけてくれた。

 それは多分、緊張しているオレを気遣ってのことだろうが、オレは「はひぃ」なんて気の抜けた相槌しか出来なかった。


「教室、ここだよ」


 先輩が足を止めて指し示してくれたのはオレが目指していた場所。


「あ、ありがとうござ、ます!」


 噛みまくりでお礼を口にし、勢いよく頭を下げたが……今のキモかったかなぁ。だけど……。


「いえいえ、どういたしまして」


 先輩は嫌な顔ひとつせずにやっぱり微笑んでくれている。

 自分で自分が本当に単純だと思うのだが、オレは先輩のその笑顔にズキュと胸を撃ち抜かれ──恋をしてしまった。


「それじゃあね」


 去って行こうとする先輩。連絡先は無理でも名前位は聞きたいと思って呼び止める。


「あ、あの、先輩! 名前──」


 その時だった。


「おい、


 背後から低く、野太い声が聞こえてきたのは。

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