3

豊虫は学校で目立たない子ではあったが友達がいないわけではない。

仲のいい子はいるしたまには遊びに行ったりする。


豊虫は変な子でもない。

動物と話すと言うのは現代において普通であるし、そもそもそういったことを穿った目で見ることはよくないこととされて久しい。


住む場所や生活環境は違えどコミュニケーションが取れるもの同士仲良くしようと言うことが大昔に動物たちの間で取り決められたのだ。


全ての動物を等しく愛することとして博愛国家が成り立っていた。


「しかし!人間たちは自分たちの法律をワシら動物にまで適用させようとした!」


勢いよく喋る梟は観衆を見渡す。

何度聞いたかわからない話にあくびをしながら聞くものたちがほとんどだ。

それを見ると一際大きな声で話し出す。


「ワシたちはそれを是とはせんかった!あくまであれは人間の法だ!ワシらを縛るものはない!それはそれは激しい闘争じゃった。決裂して戦争にもなりかねんほどじゃった。」


梟は顔を覗かせたひのっさんの背に乗った豊虫を見るとニカっとするように口を開く。


「来おったか、ホウチュン。ちょうどいい。お前の好きなところだぞ。」


そういうとひのっさんはうぇー、と言った様子で何かを吐き出すふりをする。

対照的に豊虫はひのっさんに礼を言うと集まりに近づく。


「ホウホホ、近くに来なさい。他の奴らは聞いとらんから割り込みなさい。」


「はい、ホゥ爺。」


手招きならぬ翼招きする梟はホゥ爺と呼ばている。

いつの時代から生きているのか森の七不思議になっているくらいの長老だ。


割り込むことに抵抗を覚えながらも他のものが道を開け豊虫を通す。

たぬき、うさぎに猿。

狐に鹿、猪もいる。

それだけじゃなく蝶や蟻、蜘蛛もようやく寒い冬を超えて話を聞きに来ているようだった。


豊虫は彼らの一部を踏まないように前れ進んでいく。

ようやく前に来て座ったのを見るとホゥ爺は満足そうに話を再開する。


「ホウ、ホウッホン!さてはて、戦争はワシらも望むところではない。誰も望んでいないしそんなことをすればワシらの住処を追われかねん。」


「では、どうしたのですか?」


豊虫は控えめに手を挙げて質問する。

いつもの流れというやつである。

ホゥ爺は満足そうに再度頷くと


「うんうん、気になるとこだな。もちろん、ワシらより人間は文化的だ。だからこそこちらから話し合いの余地があることを提示することでワシらの文化と人間の文化を認め合い干渉しすぎないことを決めたわけじゃ。」


得意げに観衆を見渡して最後に豊虫を見る。


「ワシらは人間が好きだし憧れてる。都会に住む生き物は人間のように苗字を名乗る。森の中にいるワシらも識別するために通り名くらいは持つようになったしな。」


うんうんとホゥ爺が数歩下がる。


「ワシの話は短いがこれで終わりとしよう。みんなお待ちかねの先生の登場じゃ。」


ホゥ爺は片翼を胸の前にもう片方を木の影に向けるとすらっと細身の女性が現れる。


先生と呼ばれたその人の背は豊虫よりはるかに高く感じるが実際はそこまでの違いはない。

だが彼女の醸し出す雰囲気は本人をより遥かな大きい存在と錯覚させていた。


ショートヘアの山に似合わぬパンツスーツ姿。

胸元からは赤いシャツがのぞき、目には少し髪がかかっていた。

鋭い目つきながら包容力を併せ持つ全てが矛盾しているようで完璧なバランスを保っている不思議な女性。

高くはないがヒールを履いているにも関わらず足場の悪い道をものともせず平然と優雅に歩いて観衆に手を振る。

彼女の微笑みは空から舞い降りる天女と言われても信じてしまいそうだ。

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