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豊虫は学校が終わるとすぐにカバンに教科書を詰め込み教室を出る。

時間割をちゃんと見ない彼はカバンに全教科入っているため重たく大きく膨らんでいる。


時間割は見ないが置き勉はしたくないと言う気持ちで全教科を毎回運んでいた。

母はこの豊虫の行動をみてこのものぐさは誰に似たのかと考えたが答えは出なかった。


今朝、時間のことを母に注意された豊虫は急いで山に向かうため走り出す。

それを追いかけてスズメの寺嶋が声をかける。


「おうおう、お急ぎかい?俺に乗って行ったらそら早く着くぜ。」


「いやいや、寺嶋さんに乗り掛かるなんて恐れ多いですよ。いつもお世話になっている人の背中を借りるなんて。」


そういうとチチチと笑いながら


「俺はそんなこと気にしねえんだがなぁ。」


そういうと豊虫の肩に止まる。


「おいおい、ホウチュン。もう少し揺れを少なくしてくれよ。振り落とされちまう。」


「はあはあ、寺嶋さんは…先に行っててもいいんですよ。」


「バカ言ってんじゃねえよ。普段お世話してる俺がお前の肩に乗らねえで誰が乗るってんだ。」


そう言ってまたチチチと笑っている。

豊虫は息を切らしながらもそれに釣られて笑い、さらに酸素を使ってしまう。



山の麓に着く頃にはまだ肌寒い春の風に当てられてるにも関わらず汗だくになっていた。


木々の隙間からのそのそと歩いてきた大男が毛むくじゃらの手を振る。

遠くで見ても人間ではないことはわかるだろう。

彼はクマだ。


「よう、ホウチュン。そんな汗だくで来なくてもまだホゥ爺の講釈中だぞ。前座が長くてみんな疲れてきてる。」


そう言いながら豊虫に近づいてヒョイと彼の鞄を大きな毛むくじゃらの手が攫っていく。


「あ、ひぐっさん。悪いですよ。大丈夫ですから。」


ひぐっさんと呼ばれたクマは鋭い牙をぬっと出して微笑んでいるつもりらしい。

しかし彼を知らないものが見れば背筋が凍るような顔だろう。


「気にするな。そんなヒョロっこい体でこんなもん持ってたら疲れて先生の話の途中で寝るぞ。いいのか?」


「それは確かに失礼に当たりますね。ありがとうございます。」


豊虫が微笑み返すとひぐっさんはいきなり豊虫ごと持ち上げる。


「うわぁ!」


「はっはっは!じゃあ、いくぞ!」


「やめれやめれ!俺が落ちる!」


静観していた寺嶋が大きな声を出して慌てている。


「バカいってんじゃないよ。寺嶋さん、あんたは空を飛べるだろうが。」


「あ。」


そういうと寺嶋は豊虫の方から飛び立ち頭上をくるくる回る。


「チチチ、ひぐっさんは大雑把なくせによく気づいたな。」


「はん!余計だ。」


そう言いながらひぐっさんは森の中に入り豊虫に枝葉が当たらないよう気を使いながら進んでいく。

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