博愛国家

りとかた

動物たちの集い

1

豊虫(ほうちゅう)は階段を登る小気味のいいリズムに起こされ目を開ける。


外に目をやると光が差しうっすら白く照らされる家の前が見える。


一つ伸びをしようと頭の上で手を組んだ時に部屋の扉を開けられる。


「豊虫、ご飯…。あら、起きてたのね。ご飯できてるから降りてきなさい。」


母である。

彼女はそれだけいうと踵を返して階段をさっきよりも少し早いリズムで駆け降りていく。


豊虫が朝早くちゃんと起きることは全く珍しくない。

母は起こしに来なくても起きることはちゃんと知っている。

しかし習慣というものでとりあえず朝起こしに来ては同じことを毎日しているのだ。


豊虫はもう一度窓に目をやり外を見てあくびを一つ大きく吐き出す。




「ねえ、あなた最近学校終わり何してるの?」


朝食であるトーストを丁寧に耳から食べていた豊虫に母が聞く。


「新しく友達ができたんだよ。その子が山の近くに住んでるから帰るのに時間がかかって…。」


母は少し訝しみながらも


「そう。まあ、あんまり遅くなってるわけでもないしね。遅くならないようにはしなさいよ。」


豊虫はその言葉にあくびで返事をする。


豊虫は真面目でどちらかと言えば引っ込み思案だ。

しかし、幼少期からよく外に出かける子であった。


母はかねてから気になってはいたが豊虫を信じていたし口うるさい母親にもなりたくなかった。


豊虫も嘘はついていない。

新しい友達は山の方に住んでいる。

というよりは山に住んでいる。






豊虫は身支度を済ませると玄関で靴を履く。

振り返ると母が顔を覗かしているので小さく手を振る。


「いってきます。」


少し弱々しく挨拶する豊虫に対して


「はい!いってらっしゃい!」


と元気に母は送り出す。



母の見送りを後ろ手に扉を閉めると豊虫は大きくため息をつく。

別に何か嫌なことがあったわけではない。

ただの癖だ。


「ようよう、おはよう。ホウチュン!」


聞き覚えのある声に豊虫の顔は綻ぶ。


「寺嶋さん、おはようございます。」


寺嶋と呼ばれた男は豊虫の肩まで飛んでくる。

そう、寺嶋はスズメなのだ。


「おうおう、今日も元気か?元気チュウ入してやろうか?」


そう言われ豊虫の口角はもっと上がる。


「十分注入してもらってますよ。寺嶋さんとあっただけで元気100倍です。」


「そうかそうか!そらいいことだ!いいことついでに今日は先生が話をしてくれるってよ。学校帰りに迎えにいってやるから行こうぜ。」


そう聞いて豊虫はさらに顔を明るくすると


「もちろん!ご一緒させていただきます。」


そう言って寺嶋と別れる。

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