第21話

人の国までの道のりは遠かった。

クマノの案内があっても、ひと月はかかるらしい。


そもそも俺が現れた場所は、人間が足を踏み入れない“外れの地”。

生き延びられたのは、偶然とクマノのおかげだ。


道中、クマノが話してくれた。

人の国は、俺のいた世界とほとんど変わらない技術を持つ。

建物も、道も、機械もある。

ただひとつ違うのは、“力”を持つ者が日常の中にいること。

それを彼らは“変革者”と呼ぶという。


そして、ここは奇妙な世界だ。

季節は春と秋だけを行き来し、

植物は常に実り、空気は澄み、どの川の水もそのまま飲めるほど清らか。


――理想郷。


けれど、そこには代償がある。

周期的に、ヒトガタやトカゲといった“バケモノ”が現れる。

奴らは人を襲い、土地を奪う。

そのせいで、この豊かな大地に“人”は定着できない。


クマノ曰く、年々、バケモノの領域は広がっているらしい。

人の国は、領土を守るために異世界の人間――つまり俺たち――を呼んでいる。


だが、歩くほどに思ってしまう。


この美しい森や川、息づく生命を見ていると、

どちらが“悪”なのか、分からなくなる。


もしかして、

バケモノは――自然を守るために現れているのではないか。


そう思わずにはいられなかった。

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